43 南、怖えぇぇぇ!
私たちは南下しつつ、できる限りの安全策をとることにした。
その1、全力でダッシュ。子供たちの
その2、
後は椅子テントや椅子風呂などいつものセットを出してのんびりして、その間に私たちを追ってきたモンスターたちが勝手に罠にはまるので、それを片付ける。
敵を倒しきったら八門遁甲の椅子は一度消してコンテナを回収。また八門遁甲の椅子で周囲を囲んで放置。この繰り返しだ。
これで空を飛んでくる敵以外は、とても安全に倒せる。
そして、問題の空を飛んでくる敵なんだけど……。
「サイテー! サイテー! サイテー!!」
……南で森に近いからかな……。また出たんだよね、ジャイアントモス。
これがまた、女子に大不評。男子の一部にも大不評。
幸い、ジャイアントモスはそんなに強くないし、飛ぶのが遅い。椅子の一撃でどんどん倒される。
そして私はある法則に気付いた。遅すぎる気もしたけど。
クリティカルヒット、もしくは特効、そういう特殊な攻撃を出す子は、
なんで気付くのに遅れたかというと、DEXのトップ2である桂太郎くんと凛ちゃんは戦闘に加わってないから。聖那ちゃんは数値で言えば他は平均的だけどDEXが5位だった。
桂太郎くんの癒やしの椅子も特殊効果と言えばそうだから、DEXの値が高いとそういうユニークな攻撃を出しやすくなる下地があるのかもしれない。
……でもまあ、見てる限りDEXの値も重要だけど「絶対殺す」っていう気合いの方が大事かな。女子の中にはジャイアントモスを見ると「ぎゃー!」って顔を覆っちゃう子もいて、あれが出てくると私は毎回困ってしまう。私だって本当は直視したくない……。
その分、般若の形相で聖那ちゃんが次から次へと椅子を投げまくってるから、戦力的には補えるけども。
それともうひとつ、物凄く困るもの。
「
「うん……ゆあんも言いたいことがある」
「ジャイアントモスを倒したときに3色ゼリーを出すのはやめてください……」
「ゆあんも、それお願いしようと思ってた」
暗い顔をした私と優安ちゃんの意見の一致。それはジャイアントモスを倒して出てくる3色ゼリー。ほんと、ほんっとやめていただきたい!! 食欲120%減だよ!
今のところ気にしない男の子たちが食べてくれてるけど、それも限度がある。
だったら何ならいいだろう。
あのジャイアントモスを連想させる見た目のものは絶対に駄目だ。例えば、三色団子とか。例えそれが白緑ピンクだったとしても、3色って時点でアウト。
それで、子供が好きなもので――うーん。
「あ」
「どしたの?」
「ねえねえ、優安ちゃん。チョコプリンと、イチゴプリンと、普通のプリンがたーくさん出てきたらいいと思わない?」
「うん!」
ひとつの品物に3色入れようとするからいけないんだよ。バラバラにすれば多分いける!
「でも絶対食べない!!」
……他の子はごまかされてくれたけど、「ジャイアントモスから出た」って時点で聖那ちゃんだけは絶対無理みたいだった。
ちなみに、このプリン、物凄く前の3色ゼリーよりもグレードアップしてた。
ベルギーチョコ使用のこってり濃厚で舌触り滑らかなチョコプリンと、カスタードを使ってきちんと蒸して作られてるっぽいプリンと、爽やかな酸味と苺の香りが生クリームのまろやかさとマッチしたイチゴプリン。
私はチョコが一番好きだけど、これだと何個も食べる子がいて、ジャイアントモス問題は解決だ。
飛行系といえばグリフォンもそうだけど、やはり動き自体は素早くないので、AGIの高い
うん、敵は決して弱くはないけど、なんとかなりそうだ!
じわりじわりと南下を続ける私たちの前には、とうとう森が立ち塞がった。
ついに来たな。そう思うと緊張が走る。
南へ来た、という実感よりも、「この先は森が避けられない」という戦術上の危機感。
なにせ子供たちの椅子は投擲武器。森の中では物凄く不利になる。
「
一応私も案はあるんだけどあまりに強引なので、軍師
「僕なら、木を切ります」
「だよね……」
一翔くんも同じ意見だった。安直ではあるけども、不利な地形なら有利に変えてしまえばいいのよ、っていうことだ。
未開の森っぽいし、ちょっとの伐採は許してもらおう!
「
「先生、なに?」
「友仁くんの思う最強スペシャルな必殺椅子を思いっきり投げて」
私が木々に向かって指さして見せると、友仁くんは「よっしゃ!」と拳を固めた。
「椅子、召喚ッ! 食らえ、アルティメットファイナルフェニックス!!」
お、おお……。友仁くんの掲げた椅子が巨大化して赤く光っている!
そして、思いっきり投げられた椅子は木々を薙ぎ倒して一直線に飛んでいった。
どこまで飛んだかわからないけど、500メートルは行ってそうだ。しかも幅が4メートルくらいある。
少々どうでもいいけど、フェニックスがファイナルしたら駄目じゃないのかな? フェニックス、蘇らないと……。
友仁くんに何回か「アルティメットファイナルフェニックス」を投げてもらい、私たちは森の端の方に広場を無理矢理作りだした。そこに八門遁甲の椅子で囲んだ拠点を作って、しばらくはここでレベル上げだ。
南の森は、私たちが最初に出てきた北西の草原よりもとても暖かい。むしろ、蒸し暑い。
ソントンを出てからオルミアの王都とかに寄らずに、魔王がいるという南東の最も魔力の濃い場所めがけて一直線に来ちゃったので、気候のギャップが……。
そして、熱帯雨林までは行かなくても、植生の違いや見かける動物の違いは子供たちにとっても興味深いらしくて。
「先生、あそこにでっかい鳥がいる!」
「わあ、本当だ! オウムかな?」
「ギャーギャー言ってるよ? オウムって喋るんじゃないの?」
「人間が言葉を教えないと喋らないね。ここのオウムはギャーギャーしか言わないかも」
「先生、ワニ!」
「は? どぉうわっ!!」
モンスターは大きいので若干雑に配置したのがいけなかった……。八門遁甲の椅子の隙間をすり抜けて、体長2メートルほどのワニがいつの間にか私の後ろに現れていたのだ。
がばりと口を開けて、私に襲いかかろうとするワニ。咄嗟に逃げる子供たち。
私は――。
「おりゃー!!」
開いたワニの上顎めがけ、渾身の踵落としを叩き込んでいた。
ワニが怖いのは噛みつく力であって、口を開ける力はそれほどないと前にテレビで見たから。
口を閉じさせればこっちのもんだよ!
ステータス最弱といっても騎士をお姫さま抱っこできる私の踵落としに、ワニは完全に落ちた。
野生動物だから、倒してしまってもドロップ品は出ない。
「ご、ごめんねっ!」
私はワニの尻尾を掴むと思いっきり八門遁甲の椅子の向こうへと投げた。
はあ、南怖いわ。ワニが出るなんて思わなかった。近くに川か湖があるんだろうな。調べておかないと。
それと、モンスターの体が大きいからって手抜きをしないで、八門遁甲の椅子はきっちり並べようと決意した南の森での最初の一日だった。
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