最強の1年1組、理不尽スキル「椅子召喚」で異世界無双する。戦いも生活面も完璧な小学生と冒険しながら、微妙なスキルしか無い担任の私は「気持ち悪っ!」連発しながら子供たちを守り抜きます!
加藤伊織
1 今日のお昼ご飯はオークでした
「
よく通るのが取り柄の声で私は指示を出す。すると、20人ほどの児童が素早くV字に展開した。
土埃を上げてこちらにモンスターの一群が突進してきている。原始的な槍を持った、イノシシのような頭部が特徴のモンスター。あれはオークだと私のゲーム知識が言っている。
知性はあまりないモンスターで、強さは中程度だろうか。この場合の比較はゴブリンが小で、オーガが大、くらいの大雑把な感じだけど。
「椅子召喚!」
オークとの距離を測りながら私はそう宣言して手を上げた。すると、子供たちの声が綺麗に揃って唱和する。
「「「「「椅子召喚!」」」」」
私の手には何もないけど、子供たちの手には学校で座っているのと同じ椅子が現れていた。各々が投げやすいように椅子を持ち、集中して私の指示を待っている。
……なんだかなー、学校の授業でもこのくらいいつも集中してくれたら楽なんだけどなー。
今は命がかかってるから、そこを比べても仕方がないかもしれないんだけど。
ギリギリまでオークを引きつけ、飛んでくる椅子から逃げようがない距離まで来てから私は声を張り上げ、手を振り下ろした。
「ファイエル!」
「っしゃー!」
「おらぁー!」
「えーい!」
様々な掛け声が続いて、学童用の椅子が乱れ飛ぶ。軌道は一直線だけどもなにせ数が多い。オークは避けることは出来なかった。
最初の一個がオークにぶつかったのと同時に、盛大に白い煙が立ち上ってオークの群れを覆い隠した。けれど、命中しているのは鈍い音とブゴッ! という悲鳴で確認できる。
煙がすっかり消えた頃には、オークの姿はそこにはなかった。何故か、椅子も残っていない。
代わりにあったのは、プラスチックの黄色いコンテナ――そう、配達のお弁当が入ってるやつ。
無事に危機を乗り越えたことを確認して私はほっと安堵の息をつき、活発な男子は黄色いコンテナに歓声を上げて突撃していった。
「みかこせんせー、お弁当だよー!」
「やったー! 昼飯ゲットだぜ!」
「そっかー、今回はお弁当かー。よかったねー」
そういえばちょうど太陽が真上に近いからお昼時だった。私は多少引きつった笑顔で児童の無事を確認して、黄色いコンテナに向かった。
――ちなみに、椅子投擲の合図が「ファイエル」なのは、熱烈にこれを推してきた
「椅子召喚ー」
今度はさっきの戦闘の時のような切迫した声ではなく、割とキャッキャした声があがる。
ある子は椅子に座ってお弁当箱を膝に乗せ、別の子は椅子をテーブル代わりにして座面にお弁当を置いている。
私は唯一椅子が出せないので、地面に胡座をかいてお弁当箱を持っていた。ちなみにお弁当はふたつ。子供サイズのお弁当では大人の私には足りないことを、お弁当を出す謎のシステムに理解されている。
そしてこのお弁当箱、とてもとても見覚えがある。児童の半分近くが通っていた新白梅幼稚園で利用している業者さんと同じお弁当箱なんだもん……私も、そこの卒園生のひとりだ。
「それじゃ、日直さん、お願いします」
「はい! みんな、手を合わせてください。いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
叫ぶような声や、落ち着いた声、色んな声が混じっている。
実はさっきの戦闘も、全員が椅子を投げて戦っていたわけじゃない。モンスター相手に椅子を投げるのが怖い子もやっぱりいて、そういう子たちは鶴翼陣の後ろに固まっていた。
みんなが戦わなくてもいいと思う。戦える子がいて、戦えない子がいて、それは当たり前のことだと思う。むしろ、平和な日本に生まれ育ってきて、いきなりモンスターと戦わなきゃいけない状況になって、戦えてる方が凄い。
「みかこ先生、食べないの?」
箸を持ったまま考え事をしていたら、隣にいた
「ううん、食べますよ。さーて、今日のお弁当はなにかなー。……わあ、美味しそう」
白いご飯は炊きたてで、ほわぁと香ばしい香りの湯気が上がってつやつや光ってる。おかずはローストポークにポテトサラダ、その横に添えられた真っ赤なプチトマト、ネギ入りで彩りのいい卵焼きと、甘塩っぱいレンコンのきんぴら。そして、隅っこの方にはキラキラしたフィルムのカップに入ったみたらし団子までついていた。
「やったね、デザートついてる」
「うん、ゆあんもみたらし団子大好き」
お弁当を食べながら、私はしみじみ考えた。
ひとつは、うちのクラスは食物アレルギーが厳しい子がいなくてよかったなーってこと。蕎麦アレルギーはいるんだけど、蕎麦は今までドロップしたお弁当に出てきたことはない。
もうひとつは、戦ってない子もちゃんとドロップしたお弁当を食べていられること。これは、クラスで一番背も高くてリーダータイプの
戦える子と戦えない子がいて、戦えない子もその恩恵にあずかる場合、文句を言う子が必ずいるんだよね。
だけどうちのクラスは最強ヒーロー
もしかすると、児童みんなが使えるのに私だけが「椅子召喚」できないせいなのかもしれないけど。
「ごちそうさまでしたー」
「はーい、先生から見えないところまでは行かないでね」
食べ終わった子からお弁当と箸をコンテナに戻して散らばり始める。
黄色いコンテナはいっぱいになったものから消えていく。そういうところだよ! 凄く理不尽にご都合ファンタジーで、正直気味が悪い。
今いる場所は開けた草原で、少し離れたところに川がある。川には行っちゃ駄目だよと念押しして、私は炊きたてご飯を噛みしめた。
暖かな日差し、美味しい空気、広がる草原――ただのピクニックだったらどんなによかっただろう。
そんな状況だったら、このお弁当だって5倍くらい美味しく食べられたのに!!
私は茂木美佳子。職業は小学校教諭。そして一緒にいるのは、私が担任をしている
私たちは何故か1クラスまるっと異世界に転移してしまったのだ。
……そして、若干どうでもいいけど、オーク倒した後に出てきたお弁当のローストポークがどう考えても猪肉の歯応えと風味で……美味しいけど、こういうのやめて欲しいなあ。
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