#13 散々な目にあって出遅れたけど挽回すればチャラになるよね
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——蟻獣郡との最前線は、焼け野原と化した。上空からでも赤い灯りと黒い煙がもうもうと吹き荒れており、戦闘の過激さが伺える。
——赤蟻獣の酸と緑蟻獣の爆破液、一方で魔法師団の魔法攻撃。戦闘と言うにはあまりにも無残な光景を生み出していた。
「くそ!!」
「足を止めるな!!」
「おいっ!!見ろ!!飛行魔獣だ!!」
——地上で前線で戦う騎士、騎兵らの怒号が飛ぶ。数だけなら6倍の敵勢力を魔法で焼き払った事に悔いていた・・・が彼らの優先すべきはアマチの街を守る事だ。
——彼らの怒号と指を指す先には黄色い飛行魔獣の郡が出て来た。地上の者から見れば脅威。
——私はそこに迷わず突っ込む、両手足の光輪に6つの紡錘状の光を維持させつつ低空飛行し叫ぶ。
「空中の敵は私に任せて下さい!!皆さんは前線の蟻獣を!!」
——皆驚いて私を見る、空を飛ぶという能力は認知されていない現在。驚くのは無理はない、そんな中で聞きなれた声が飛んできた。
「ミスティア?!」
「ミスティア女史!!あなた一体今までどこに!?」
「イエーイ!!ミッチー!!げんきぃ?ヒューこりゃ眼福眼福」
「お空飛べるだスか?ひょっとしてそれの練習で遅れたんだスか?」
——ネイア様、ヴィラさん、ハルーラさん、ダルダさんが上を向いて声を上げる。
「事情は後で話します!!レージさんが黒い魔獣を倒すまで踏ん張って下さい!!お・・おねがいします!!」
——私はそこで頭をぺこりとお辞儀する。
「ひゅぅ!!!かわいこちゃん!!まっかせろ!!」
「気にすんな!!眼の保養でやる気ギンギンだぜ!!!」
「くぅうう・・・あんだよアレ・・・反則級!!」
「オイオイ・・はしゃぐなよ!!他の女子がすんごい目で睨んでるぜ?」
——私は歓声の意味を理解できなかった・・・、次に迫る飛翔魔獣の群れに突っ込む。
「ミスティア?!」
——誰か知っている声が私の名を呼んだ・・・でもそれを知るすべはなく知る必要は無いと思っている。
——私に一気に群がる飛行魔獣、当初の数より増えていた・・・。ざっと見て三桁近い群れだ、無数の雷魔法を繰り出し凄まじい弾幕を張って来た。しかしそれを紡錘状の光球から、氷結系の氷を散らしその霧散した氷の礫が群れの上空へと上がっていく。
——私はそこで叫んだ。
「
——電撃が氷の茨へもっていかれる。私は迷うことなく群れに突っ込み急降下、群れの真下から真上にいる魔獣の群れに向けて詠唱。
「素は灼気、森羅万象の根幹を食い入る純朴なる元よ・・・」
——私の身体から無数の炎の茨が生み出す・・・。そしてマジックロッドの切っ先に集約させる。真っ赤な光輪と紡錘状の光球が、前面に回転し更に螺旋の茨へと変化する。
「
——真っ赤な光閃が上空へ向ける。閃光の後の深紅の竜巻が一気に追い打ちをかける様に噴き出る。
ヴォ・・・ン!!ギュロロロロロロ!!!ヴォッヴォォツ!!!ボォオオオオオ!!
——黄色い群れが真っ赤な炎に飲み込まれる。突き抜けた群れは次々と消炭になり、真っ黒くなって空中で分解。煙を上げて四散しながら落ちていった。その魔法一発で群れは全滅だ。
——飛行魔獣の脅威を取り払い、地上戦力は数こそ少ないものの一気に士気を取り戻し前線は逆転する。個の能力は圧倒的にこちらが上だったからだ・・・。
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黒化魔獣撃退以降、蟻獣郡は唐突に勢力衰えていく。統制力を失い、散り散りとなった軍勢に対し盛り返す。既に勝敗を決しながらも、前線では突発的ながら自己の判断でとった連携戦法が功を奏した。
「ミスティア?!皆!!遅くなった!!」
俺は黒化魔獣を斬り捨て直ぐに前線に上る。真っ赤な火柱の痕跡を目印に向かうと、ミスティアを始めクラン
「貴方・・・ミスティア女史にいつ仕込んだのですか?・・・それにその目は・・・」
「仕込むって・・人聞きが悪い・・・」
「あ・・言え・・私は・・・」
「え?てっきり教えたのかと・・・。」
ヴィラの言葉に、俺は歯切れの悪い返答をする、ミスティアが弁明をしようとして。ネイア姫が首をかしげていた。
「以前レージさんが飛んでいる所を見て、見よう見まねで・・・」
「だ・・・そうだ・・・俺も俺とは違う答えを出してて驚いた・・・」
「ふーん・・・仕込んだモノかと・・・てっきり・・・」
「ミスティアに『仕込んだ』なんて言葉は・・・」
ミスティアの弁明に、俺は自身の見出した法則とは異なる飛行魔法だと言う事。ヴィラの不謹慎な言動に、ネイア姫が咎める。
だが彼女はモジモジしながらメスの顔になっていた。
「だ・・大丈夫・・です・・先輩・・・気にして居ませんから・・・でも実際にレージさんが間接的に助けてくれたようなものですし・・・それに・・・」
「ハハーン・・・ミッチー良い顔ぉ頂きぃ」
ミスティアの真意をハルーラが上手くはぐらかす。ムードメーカーのハルーラは、こういう空気の流れを程よく切り上げてくれる。
「で?後は残党?それとも救護?やる事あるわよ?」
「今の戦局だったら戦闘面は放っておいても良いが・・・後衛に回って負傷者の救助に回ろう・・・。」
ハルーラの言葉に俺が続けた。
それは、遠巻きからグランシェルツの本国からの騎兵隊の姿が見えた。前衛戦力は十分な程あったからだ。
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防衛線が鎮静化したのは、正午を回った頃合いだった。
前線から戻ったアマチの町の一角は、野戦病棟の様に傷だらけの学徒達
盾代わりの代名詞だった、神聖国家サーヴェランスのセントナイツウォーリアの学徒兵はフルプレート装備の上からの被害で大した事は無かった。
逆に軽鎧だった故に機動力と攻撃力を重視した、グランシェルツの学徒騎兵候補の者達は重傷者が多かった。
回復魔法持ちの俺と、医療技術持ちのハルーラは神聖国家サーヴェランスの聖杖師団と共に率先して彼らの治療に担当した。
連中は苦悶の声を上げる者はなかった。相当スパルタな修行をこなしていたようで、むしろ笑って会話をしていた。口を開ける内容はジーベルへの悪態だった。
「ったく・・・ジーベルの野郎、何でも逃げていたんだってな!?」
「あの野郎・・王宮魔導師の偉い様とか抜かしやがって・・・自分は敵前逃亡かよ・・・」
「あの炎の竜巻が無かったら俺達は壊滅直前だったかもなぁ・・・」
「っていうより、あの空飛ぶ魔獣が厄介すぎてなぁ・・・」
ネイア姫達は軽症者を専属に回った、そこでもジーベルとテタルの悪態で満ちていた。重篤者を一通り終わらせた俺の元にアークが現れた、現場に出れない彼らはせめてと言う気持ちか。アマチの人達と一緒に医療物資の運搬を手伝ってくれた。
「ったく・・・あの野郎、前線の指揮放棄して・・どっかでぶっ倒れたらしい。」
「っていうか今、グランシェルツのゼノス騎士団長殿が連行していてな一緒にやって来たクシュリナとシャリーゼって言うやたら声がデカい騎士がやって来てな、すっげぇ騒ぎだぜ?」
「教官と・・・シャリーゼさんが?」
俺は声を上げた。あのミス空気読まずが騒ぐと色々面倒になりそうだったが・・・それに負けず劣らずの怒号がこの部屋に響いた。
「ここに眼帯に傷のある男がいると聞いたが・・・レージ・・レージ・スレイヤーァ!!」
やたら、大柄な男が野戦病棟に現れドスの効いた。振り向いたら腕を組んだ大男が出入り口にシルエットを作っていた、一瞬に空気が凍る。
・・・この空気・・・あぁ・・偉い人だ・・・すぐわかった・・・。
もうスッゴイ厚い襟に肩幅がスッゴイ、凄まじい程の威厳を絵にかいたような巨漢。
髪色は光沢の無い銀色で毛質は逆立って、もみあげが顎下近くまで伸びていた。スッゴイ堀の深い顔立ちと、スッゴイ野太い眉毛に顎下の皺が深々しく。その顔つきに似合う程の野太い首に、巨獣が服着て闊歩している。
腰に携えた大剣はドラゴンでも斬る為にあるのか・・そりゃぁもう、分厚く鉄の塊を携えていて浮いても居ない。むしろ似合い過ぎてて、絶句した・・・・。
その姿を見た、アーク達は畏怖の感情は全くなく。真に尊敬の念を込めた敬礼を取る。
重篤者も本能的に敬礼を取ろうとする。その男はそんな彼らに優しく寡黙に掌をかざす。
「無理をするな!!今は休め!!同志達よ!!」
っていうか、沈黙と怒号しか無いのだろうか・・・?
「・・ゼノス総統将軍・・いえ!!ゼノス騎士団長殿!!先ほどの質問にお答えいたします!!」
「ふむ・・・ならば聞こう!!」
「レージ・スレイヤーさんはこちらです!!」
御親切に俺にズバッと紹介される・・・は・・・この人が騎士団長・・・マジか・・・。
アークは俺を紹介したのだった。身長でっか・・・2m?
「ほう・・・貴様がレージ・スレイヤーか!!」
「はい・・・」
俺はゼノス騎士団長の陰に覆われた。
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