#3 新設されたクランの面子は見た事がある人達なのよね


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理事長の挨拶を済ませた俺達は皆、クランエンブレムの同じ面々と集まって話し合う様になっていった。

勿論俺もネイア姫を始めとし、ヴィラやミスティアと共に談話に花を咲かせてながら。誘導案内されるがままに移動した。


本棟の『大ホール会場』と呼ばれる、大きな講堂。そこ一面に広がるのは拵えた料理がビュッフェ形式で広がった空間だった。所謂パーティー会場である。

徹底して拵えた料理の数々は類を見ない豪勢な品々ばかりで、どれもこれも目移りしてしまった。


「これは何と・・・」

「すげぇ・・・良いのかよ初日に・・こんな・・・」

「これはなんか・・・ええ・・・凄いものが・・・」

「流石に各国の王宮調理師を派遣されて受けた学徒ですわね・・・レイグローリー同盟学園の直系烹炊ほうすい部・・・各国の王宮料理の本職直伝の料理人の技をよくぞここまで練り上げたモノです・・・」


ネイア姫ですら騒然とした反応、俺も正直戸惑い、ミスティアは言葉を失っていた。唯一免疫のあるヴィラが、講釈を介してくれて有難い。


「ふっふ~ん!!まぁお酒はチョーッと添えられないのが残念だけどねぇ・・」


そう言って現れたのはクシュリナ・クライス教官だった。ドレスアップした姿はズボラさを控えた正装姿を目を引く。首元の襟と二の腕には白竜ナーガのエンブレムが輝いていた。



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「クシュリナ・・教官殿・・で良いしょうか・・・?」


「スパッと教官って呼びなさーい、君たちクランを預けることになった本教官のクシュリナ・クライス。よろしくぅ!」


相も変わらない濁声とノリ。教官になったからと言って威厳的な態度はとらないのが彼女のスタイルなのだろうか・・・。

しかし彼女の後ろの女性にちょっと驚いた。ヌボリと伸びた長身が目を引いた、八尺様の様な容姿をした女性が口を開いた。


「へぇ・・・貴方がレージ君・・・フムフム・・・例の薬を生成したのは君ね?」

「薬?」

「コレよこーれ」


そう言って彼女は赤葉を俺に見せる、確かに俺が生成した薬だ。

それは農耕地ならよく栽培される。メリリーフと言う薬草。農耕地にある、虫よけの薬剤などで調合した治療薬だ。


「どこでそれを・・・?」

「マルス・ガルガン警邏けいら騎兵大隊長からね」

「あぁ‥成る程・・・えぇっと・・君は・・・」


合点がいった、弩豪牛の一件で負傷した商家の一団を助けた事を思い出し。その際に持っていた薬を全て手透きの兵に渡した事を。


「後衛学科で入学した、ハルーラ・ハルシャ。同じクランメンバーよ、よろしくね。」


ハルーラ・ハルシャと名乗った少女の第一印象は背は俺と同等の長身、180はある。そして彼女の背中に巨大なクロスボウの様な豪弓を背負っていた。

弓に負けじと背の高さにモデルに小顔、目はパッチリとしたハッキリとし。睫毛の薄いスッキリとした顔と言う印象がピッタシで、足も長くけりゃ手も長くほっそりとしたラインだ。

その癖、タップリ女性としての貯える所は蓄えており。その印象はやはりミスティアやヴィラとは違う一線を画したボディラインを持っていた。制服を難なく着こなす様はやはりモデルって言う印象だ。

何より黒髪のシャーマニックさとエスニックな風格を備わっていた。

一番の特徴は黒髪の隙間からかなり長い耳がピヨッと伸びていた。サークと同じ耳の形をしており。彼から聞いた事があった。耳長の種には、東方にも存在しそれは黒髪の耳長と言う風体をしていた事を。


「黒耳長?!」

「アラ・・・ご名答」


「まさか悪名高き、ハルーラ・ハルシャ・・・貴方も私達と同じクランだなんて・・・」


ハルシャが答え、ヴィラは驚く。

悪名・・・?俺は首を傾げた。しかし、ハルシャの隣にもう一人の影が見えた。俺より一つ頭、二つほど低い・・・この身長は地人族特有の小振りな体系だ。


「うわぁ・・・噂のレージさんダスかぁ・・・」

「え・・あ!!えぇっと君は陸地人かな・・?」

「よく分かっただスねぇ!!ウチはダルダ・ダ・ダルルって言うッス。ダルって呼ぶと良いっス!!あ!!でもうちのカッチャが人間でウチハーフっス。」


訛りと体系のインパクトが凄い、激ポチャ体系のむっちり系の女の子だ。ハルシャがノッポすぎてダルダの横幅が半端ない。


何よりも芋臭い丸っこい顔つき。垢抜けた金髪の鮮やかな髪に結い上げ、ヘッドギア代わりのゴーグル、猫目の様な丸く大きな目が糸の様になり。猫の顔の様にほっぺも丸くし、既にパーティの料理を頬張っている。胸周りから下腹部、下半身の逞しい太ももに地面を食いつく様に踏ん張る足元。決して不快なラインではない女性の特有を維持していた。襟と二の腕には俺達と同じ白竜ナーガのエンブレムを付けていた。制服姿は圧迫感半端ないものの、目に向けたのは腰元に女の子が付けるには余りにも厳つく分厚いグローブが垂れていた。

それはガラムが付けているのとよく似た手袋だ。


「ん?ダルって・・・本職、鍛冶屋さん・・・?」


「そうそう・・・ダル子はこう見えてもガーン家の分家でね。ダルル工房って言えば隠れた名店としてなのよ。私のカタールもこちらの工房で見繕って頂いたのですわ」

「ヴィラ様、その節はご贔屓にしていただいて有難うございまス。」

「良いのよ、こちらも良い業物を使わせてもらっているもの、お互い様よ。しかしレージの知識ってほんっとに偏っているのね。」

「陸地人とか、黒耳長って見聞にしか無いから・・・」


ヴィラとダルダとは顔見知りの様だった。ミスティアの首をかしげてこっちを見ていた。ネイアと俺は二人の視線をそらし、アハハと愛想笑いをする。


「何でネイアまで?」

「ホラ、レージ様の村で修業を重ねて居たでしょ?そこで私も見聞きを・・ねぇ・・・」

「そうそうそう!!うちの村の人間も難民が良く訪れてね、だからいろいろな種族の話を見聞として流れて来たんだよ!!」


ネイアと俺は裏口合わせで調子を合わし、皆に誤魔化す。

皆、そうなの?って表情をしていた。唯一猫の顔の様に頬張るダルダ以外は。




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皆立食パーティーに彩られた食事に舌鼓をしながら、交流を深めていく。大方、同じエンブレムクランとナンバーが集まっていった。


「アイツが例の?」

「しかし・・・新設のクランが出来るなんてな・・・」


「マジか耳長だぜ?黒い奴が居るのか・・・」

「穢れも居やがる・・・そうか・・・」


「ぽっと出の奴がねぇ・・・あぁ‥ネイア姫を取り込んだのか・・・」

「はっ?田舎もんが騎士になれるかって言うんだ・・・」


「ヒヒヒッ!!ネージュ様の寵愛を受けて特別に入れてもらったんだろう?オイっ!!ミスティア?!どうなんだ!?いってみろ!!!オイ!!〇便器ッ!?」


一際声を荒げた男がいた、それはどこかで見た顔つきだった。あの顔つきは・・・


「あの男は・・・勇者の息子の一人・・・」

ミスティアが怯えて、俺の後ろに影に隠れてしまう。

思い出した、ネイア姫が持ってきた偽勇者の似顔絵にそっくりだ!!

「テタル・ローレライ・・・勇者の子供の一人です・・・」


ネイアが俺の前に出た、むしろミスティアの前に出たと言うべきか。不快な顔を浮かべるネイア。辛いだろう、自身と同じ血を持った人間が後輩を侮辱する様子は。

その間そのデバガメ臭い男は怒鳴り飛ばし、すっかりお祝いムードはすっぽ抜けてしまう・・・。


ともかく矢面は俺が受ける・・・。二人の前に立った。テタルと言う男の前に立ちふさがる。さてどうしたモノか・・・祝いの場に暴力沙汰はご法度、どうやってこの場を収めようか・・・。しかしその場に憤怒の声が上がる。


「ここは祝いの場だ!!静まらんか!!」


突飛に怒気を含んだ男の声が響く。

「マルス・ガルガン警邏けいら騎兵大隊長殿!」


俺は声の主の名前を叫ぶ、俺とマルス氏が顔見知りと知って。偽勇者の子供は唾を吐いてその場を離れた、どうやら逃げ足は一流の様だ。


「フン・・・気にする事もない・・・元来、余所者がこうして編入する事自体稀な事態・・・だからな・・。」


重い空気の中で俺達への視線を気にもせず言葉をかける。そのイントネーションはかなりマイルドだ。しかし、野次馬を始めとした面々には気迫の面持ちを向けた。ズルズルと距離を取っていく野次馬連中・・・。


「ふっふっ・・・とはいっても担当の教官上司が、クシュリナかぁ・・・少々コイツはコイツで問題でな。匙加減と言う言葉が出来ん・・・まぁグランシェルツの直系王匡騎士副団長時代なんかなぁ・・・」


「あれぇ!!それ此処で今言う?!ねぇ?マルスの旦那ぁ!?」


マルスのアンブッシュな言葉に狼狽するクシュリナを余所目に、俺は遠巻きから俺を見ている気配に感づく。


それはカリス・オーディーンの後ろ姿だ、その彼の容姿とファンクラブの囲いの集まりは直ぐに分かった。視線は彼の陰から感じた。


彼が頭を下げて、会釈している。相手の男は年齢は俺より一つ下の男に見えた。双方同じグリフォンのクランエンブレムを持っていた、俺の視線に気づいたのかこっちにやって来る。彼は部下と思わしき同期の男女の二人を引き連れ、さらにその後ろにカリス・オーディーンがついてきた。

俺の視線に気づいた一同が皆目を向ける、突飛な出来事に遭遇したかのように口を開いた。


「で・・・!!殿下!!」


マリスとクリシュナ、ヴィラとネイア姫の四人。マリスが声を荒げて立礼する。

殿下と呼ばれた男は俺をじっと見つめていた。


「先ほどは面倒な役を押し付けてしまったようだ、マリス殿。・・・フーン・・・彼か・・・。」

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