第19話 王子の後悔と怒り
第一王子のエルトン・マイルズ・ホースウッドは後悔していた。
頭頂部のつるっ禿げは見事だ。
しかも端正な顔なのにだ。
いくらセシリアが禿げ好きという特殊な女だとしてもやり過ぎたかもしれない!!
だが剃ってしまったものは仕方ない。セシリアはきっと今はあっちの後頭部禿げがお気に入りだろうが…きっと俺の気持ちにも気付くだろう。
窓の外の雪を眺める。
雪道では馬車を出すことが困難な為に…セシリアの元へは春にならないと行けない。
ドレスもまだ出来たとの連絡がない。
一体どうなってるんだ?
まぁいい、春になったら直ぐにセシリアを迎えに行きそのまま結婚してしまおう。
はぁ。
なぜ俺は素直でなかったのだ?
だからあの塔の愚かな女などに催眠術をかけられ、セシリアの無実を証明できず、あの遠縁の禿げに押しつけてしまった。
禿げはセシリアのような女が来てさぞ嬉しいだろう!
「くそっ!セシリアと毎晩愛し合っていると言っていたが本当だろうか?あんな禿げに!」
と怒りがこみ上げる。
従者のヘーゼル・フェイビアン・ウィンベリーが小さな声で
「今や殿下も禿げなのに…」
と笑いを堪える声が聞こえた。
くっ!
「ヘーゼル!!デザイナーを呼びつけろ!幾らなんでも遅すぎる!もう出来ていてもいい頃だろう!?」
「はっ、ですが…この雪道を…呼び付けるのですか?」
「王都からなら近くだろ!歩いてでも来れる!」
と言うとヘーゼルは出て行き数時間後にやってきたデザイナーの中年男は…
「恐れながら殿下…ウェディングドレスの注文はお取りやめになられたはずですが…陛下からそのように聞いております!」
と頭を下げた。
な、何だと!?父上が!?
「それではドレスは完成どころか何も手をつけていないだと!?クソが!!」
側にあった燭台を倒す。昼間なので火は付いてない。
俺は父上の元に行き問いただした!
「父上これは一体どう言うことだ!?何故俺に断りもなくドレスの注文を取りやめたのです!?」
と言うと父上は
「エルトンよ…ファーニヴァル夫人はもう結婚しておると言う事実を受け入れよ。離縁などあの二人はしない…」
「何を!俺とセシリアは両想いなのですよ?彼女は無理矢理あの伯爵の元にいるだけだ!操られた俺の命を受けたことで。そのことは謝罪しました!俺が愚かなばかりに苦労させたのです!
ですがもうあの偽りの結婚生活も終わらせて俺と彼女は幸せになるのです!春になったら迎えに行きます!彼女をこの国の王妃にします!」
と言うと父上は
「エルトンよ…あの日…夜会の日にファーニヴァル伯爵と夫人は大広間で仲睦まじくダンスを踊ったのだよ。二人の息はピタリと合っておった。私にはとても無理矢理と言う感じには見えなかったよ。
もう諦めて他の婚約者を探すのだ!見合い話なら山程きておる。お前に合った令嬢もいるだろう。もうファーニヴァル夫人達のことはそっとしておいてあげなさい」
と言う。
父上…よもやあちら側に着いたのか?
くっ!父上!!
何故だ!何故邪魔をする!
「俺とセシリアは好き合っている!」
「それは妄想だ。お前の一方的な勘違いに過ぎないよ。エルトン。王太子となる身で恥ずかしい真似は辞めるのだ!」
「違う…セシリアはあの禿げが好きであって伯爵が好きというわけではないのです!禿げマニアなだけで!ほ、ほら私の方が見事な禿げ!」
と頭を差すと父上は涙ぐみ
「また王家に禿げが……。何と言うことだ…。エルトン・ファーニヴァル夫人は別に禿げが好きなわけではなく伯爵自身を好いておる。お前の負けなんじゃよ。いい加減に認めなさい」
と言い俺はくずおれた。
「み、認めない…こんな事があってたまるか!ヘーゼル!馬の手配だ!直ぐにセシリアの元に行く!」
「殿下!無理です!こんな雪道を!」
「やかましい!!行くったら行く!もう春まで待っていられない!直ぐに支度だ!」
と冬用の防寒服を用意させ俺はセシリアの元に経つ!セシリアの防寒具も積み込み冬装備の馬に跨りかけた!護衛達も慌てて後ろからついてくる!
待っていろ!セシリア!君を救い出してやる!俺は王子様なのだからな!!
と雪道をかけていく。
*
一方でセシリアは料理長からチョコレイト菓子作りを教わっていた。震える手で
「そうです。奥様そうやって型に流し込んで後は冷やすのみ。こちらの氷を入れた箱に入れて置きましょう。外に少し置いておけば明日の朝には固まっておりますね。今が冬で良かった。チョコレイト菓子作りには的した季節です」
と言われ胸を押さえてローレンス様にこれをお渡しする時を考えてドキドキしていた。美味しいと言ってくれるかしら?
「ローレンス様は喜んでくれるかしら?」
「喜ばない男はいないでしょう?旦那様はきっと照れて茹で蛸ですよ」
と料理長も微笑ましそうに笑う。
「沢山作ってしまったから使用人達にもあまりを配りますわね」
と言うと料理長は嬉しがった。奥さんが一度だけ食べた事があり忘れられないと言っていたからあげたら喜ぶと言うので奥様の分もおまけしてあげることにした。
そこへアグネスさんが血相を変えてきた!
「奥様大変です!!こちらにエルトン王子がお見えになりました!!奥様を無理矢理王宮へ連れて行くそうで玄関で騒いでおります!奥様を出せと!!」
「何ですって!?」
と私が行こうとして止められた。
「ダメです!奥様が出て行ったらあの王子が無理矢理馬に乗せてしまいますわ!!今は執事のディーンさんが応対しております!……奥様はどこかにお隠れになって下さい!」
と言われた時、旦那様が慌ててやってきた!
「セシリアさん!!」
「ローレンス様つ!」
と駆け寄ると手を取り
「何処かに隠れる所はないだろうか?このままではセシリアさんが連れさらわれてしまう!」
「なら、こっちの倉庫にでも!!」
と料理長が外に出て直ぐそこの小屋を指し
「狭くて寒いですが何とか時間稼ぎして誤魔化して見せますから!」
た料理長は毛布を渡して厳重に鍵をかけた。
*
玄関で大声で
「セシリアはどこだ!おい禿げ!どこに隠した!?出て来いっ!」
と叫ぶ。
ディーン爺は落ち着き
「殿下…どうなさいましたかな?奥様と旦那様は仲良く温泉地で療養しており留守です。お二人を邪魔なさる気ですか?」
「なっ、何だと??温泉地だと!?」
「ええ、奥様は冷え性ですからと旦那様が気遣い一緒に5日前に出かけましてな」
と言うと顔色を変えて
「あんの禿げが!セシリアと共に温泉で淫らに身体を触っているのではないだろうな!?ゆ、許せん!!セシリアは俺のものだ!!
おいジジイ!そこは何処だ!?」
と襟首を掴まれ苦し紛れに何とか場所を伝える。そのまま王子は激昂して従者の何人かに家の中を一度捜索させた。
「お二人とも家の中にはいません。本当に出かけたのかと」
「温室にも見当たりませんでした」
と確認を取り馬に跨り王子はまた怒りながら温泉地へと向かった。
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