第17話 冬の到来

 とうとう冬がやってきた。

 人々は秋の間に収穫した物などで凌ぎ冬を越さなくてはならない。

 冬に移動する人々は少なく、商人や旅人も減っている。


 要するに寒くて動けない。

 が本当の所で冬籠は大変だ。


 冷え性のセシリアさんも厚着をし毎朝震えつつ暖炉の側にいたりする。


「おはようございますセシリアさん」

 と声をかけるとだーっとこちらに来てガバーと抱きつく!!

 物凄いすりすりとされ長い!!

 流石にドキドキしっぱなしで僕の心臓が止まりそうだ。


「ああ、ローレンス様…おはようございます!とても冷えますわね!やはり私冬は嫌いですわ。早く春になって欲しいです!」


「まだ冬になったばかりですからね…」


「うう、冬が憎い」

 とセシリアさんが言う。

 ソファーに座っても寒がりなのかピタリとくっ付いていてしまうセシリアさん。やはりドキドキする。

 セシリアさんが作ってくれた毛糸の帽子のおかげで僕の禿げも隠れて頭も暖かい。


 しかし隣に座るセシリアさんはアグネスさんや従者を下がらせて言う。


「ローレンス様…私寒いので肩を抱いてくださらない?」

 一瞬思考が停止しかける。


「えっ!?」

 と聞き返すと彼女は当然のように


「お嫌でしたらいいのですわ……」

 と言うので


「い、嫌なわけないです!セシリアさんの方がお嫌なのではないですか!?」

 それともただの暖取りか。そう考えるのが自然だ。


「まぁ…夫婦ですし問題ないかと。二人で暖め合いましょう」

 と言うので別の意味で真っ赤になり心臓がおかしくなった。

 僕はそろそろとセシリアさんの肩に手を置く。セシリアさんも僕の背中に手を置きさする。

 もう片方の空いてる手が僕に触れてきた。彼女の手はやはり少し冷えており堪らず包み込んで温めてあげようとした。


「ローレンス様の手はいつも暖かいのですわ」


「ひ…そ、しょ、しょうですか!?普通れす」

 と馬鹿みたいに緊張して変な喋り方になる。だって綺麗な銀髪の美女が僕なんかに寄り添ってくれているだけで天国に逝きそうだ。


 するとパチリと至近距離で目が合う。

 アイスブルーのキラキラした瞳がこちらを見てにこりと微笑みもはや死にそうに胸が高鳴る。


「ローレンス様は私のことを愛していると言いましたわ」

 と前に王子が来た時のことを思い出してセシリアさんは言う。

 そうだ。なんかあの時必死に王子に妻を愛してるやらなんやら言った!!


 真っ赤になり


「あ、あれはそそそのう…」


「うふふ。私はローレンス様がお優しいのはわかっておりますからね。愛されて嫌な気持ちはしませんわ。王子には嫌だと思いますが」


「また王子が訪問してくるかもしれないですね。陛下はドレスの発注をこっそり辞めさせたけど気付いたら…」

 もしかしてまた乗り込んでセシリアさんを僕から奪い王宮に帰ってしまうかも!王子ならやりかねない。


「もし王子が私を拐いに来たらどうしましょう?」

 と言いセシリアさんは僕の碧の瞳を見つめた。


「もっ、もちろんそんなことはダメです!貴方は僕のつつつ、妻で、いやでも…セシリアさんは別に僕のことを…好きでは…」


「そうですわね。私は恋をしたことも、こうして男の方とあまり引っ付いたりしたことはございませんわ。でももう結婚しておりますし、旦那様と仲良くしなくてはなりません…」


「むむむ、無理にしなくとも、良いのですよ?無理してないですか?」

 ともう赤くなるところが無いみたいに身体も心も火が付いたようだ。


「うふふ。していたらこんなに近くにいませんわ。旦那様といると心が安らぎますわ」


「ぼ、僕はとても落ち着きません…。さっきからとても!」

 と肩と彼女の手を強く握る。

 僕だって女性にこんなことをしたのは初めてなのだ。肩に手を置いたり手を握り見つめ合うなんてこと…。誰かに恋をしたり愛をささやくなんて日も永遠に来ないと思いずっと鏡を見て落ち込んでいたのだ。


 しかし彼女が花嫁になり伯爵家に来てくれて少しずつ毎日が華やかで周りさえも変わり僕も少しずつ変わった。


「セシリアさん…僕…僕は…貴方が好きです…。改めて言います。僕の花嫁に…妻になってくれてありがとうございます!」

 するとセシリアさんは少し頰を赤く染め


「そんな…お礼など…私はただ断罪され嫁に来たのに…でもまぁ良い旦那様でツイテイタに過ぎないですし…私の方が感謝しておりますわ」

 と言う。

 僕は少し恥じらうセシリアさんが可愛く見えて堪らず額にキスを落とした。

 落としてからハッとする。

 こここ、こんな大胆なことをしてしまいセシリアさんにも失礼であった!!


 慌てて肩を離し離れようとする。


「ごごご、ごめんなさい!!つつつい……あの忘れてください!」

 するとセシリアさんはボウとして


「あら?おかしいわ?」


「どど?どうしました!?」


「胸がドキドキします。不整脈かしら?どうしましょう?病気かも…」

 と不安そうに言うので僕は慌てて立ち上がり医者を手配して貰うことにした。


 *

 数時間後に医者がやってきてセシリアさんは診察を受ける。


「ああ…ちょっと熱があるようですね。風邪のひき始めですかな?薬を出しておきますので安静になさってください。寒いですからな!」

 と言われた。

 僕はガーンとした。


 ほ、本当に病気だったーーーー!!!

 ちょっとでも期待したのだ。


『これは病気ですな…しかも重大な病だ…』


『先生!セシリアさんは一体何の病いなのですかっ!?』


『ふふふ旦那様…奥様は恋の病にかかっております…』

 と言われることを!!

 だけどそんなわけなかった!!


 セシリアさんはクシュンと小さくくしゃみをしアグネスさんが暖炉に薪を入れ、


「さあさぁ!旦那様も移るといけないので出て行ってくださいね?」


「う…は、はい。よろしくお願いします。セシリアさんが早く良くなってくれるよう神に祈りを捧げますんでー!」

 と言いセシリアさんは


「ありがとうございますわ…ローレンス様」

 と微笑み手を振る。

 早く良くなって欲しい。


 *

 ローレンス様が出て行き何か寂しさを感じる。病気になると感じるものね。でも…。

 と先程まで握られていた手を見つめる。暖かくて少し大きな手に碧の優しげな瞳が思い出される。告白され胸が苦しくなり息苦しくなる。


「はぁ…」

 今までもたくさん私に愛を囁きこの身体目当てで近づく人は沢山いたのに。ローレンス様は額にキスをすると赤くなり慌てて離れて謝罪までしてくれた。


「はぁ…」

 とため息をつくとアグネスさんが


「奥様大丈夫ですか?今夜はもっと冷えますから、あったかくて栄養のあるもの食べなくてはいけませんね!」

 と言う。ええ?また冷えるの?寒いのは苦手だわ。早く春になって欲しい。

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