第8話 仕組まれた落石
大きな音がした。
馬車が転倒し、頭を少し打ったけどセシリアさんは僕の上で無事だ。直ぐに飛び退き
「ローレンス様!平気ですか!?」
と1番に心配される。
「はい」
馬車の外に出ると見事に落石があった。奇跡的な事に横転はしたけど何とか皆軽い怪我程度で済んだ。馬の興奮を何とか宥めた。
しかし…
「リネット!!大丈夫!?」
セシリアさん付きの信頼を寄せる侍女のリネットさんが後方の馬車に乗っていたがその馬車に落石が落ちており中からヨロヨロと出てきたリネットさんは肩や頭を少し打ったようだ。
幸いにも血は出ていなかった。
「私は…平気でございます…ううっ!!」
と呻く。どうやら足も痛めたようだ!!
御者台の従者ジョルジュや護衛の一人が報告に来た。
「旦那様!奥様!!落石を調べていたら明らかに人為的な罠の痕跡がありました!見てください!崖の上から短いロープが垂れて切れておりますしこちらには細工した板が落ちております!」
「なっ!?どういうことです?賊か何かの仕業ですか?」
この辺りは危険なのか!?
「そういうことですか…。きっと王子達の仕業かも…」
とセシリアさんは怒りで震える。
「でも決まったわけじゃあ…」
「いいえ、ローレンス様…私達は王家主催の夜会に招待され行くことはもう判っておりますしこの道を通ることなど調べたら判っていますわ!
賊のアジトはこの近くには無い筈ですわ!それにもし賊なら馬車が転倒した時に現れる筈ですわ!
私達を狙った明らかな犯行です…
しかし…私共にはそれを訴えることもできません…」
と悔しそうに言う。侍女まで怪我をさせられセシリアさんは怒っていた。
結局…馬車も一つダメになりリネットさんを一緒に馬車に乗せて安全な街道沿いを走り宿を目指した。
宿場町に昼過ぎに到着してリネットさんを護衛騎士の一人が抱えて運んだ。騎士は眉毛が太い顔の男だ。ニール・デリック・ハーグリーヴズと言う。
医者は王都に着くまでいないが近くに小さな薬売りの家があるのでそこの薬師に診てもらうことになった。
フードを被りメガネのまだ少年の彼はキビキビとリネットさんの怪我の様子を見る。
「俺はゼット。今、師匠が出払ってるから代わりに来た。医者じゃ無いから正確な診断はできないけど…外傷は大したことないけど打ち身に…足の方は骨にヒビがあるかもしれない。これから腫れてくる」
と言う。
「リネット…」
「お嬢様…旦那様ごめんなさい!ううっ!」
とリネットさんは辛そうだ。ヒビが入ってるのなら動かさない方がいい。
僕はセシリアさんに言う。
「セシリアさん…どうしましょう?リネットさんに申し訳ないのですが夜会などとても無理でしょう…」
「判っているわ…。リネット…ここでしばらく養生できる?私達は夜会に行かなくてはならないわ…本当にごめんなさい!」
とセシリアさんが言うとリネットさんは…
「お嬢様…付いて行けず本当にごめんなさい。夜会が終わるまで私はここにいます…」
とセシリアさんとリネットさんは手を握る。
「必ず迎えに来るわ!…でも侍女がいないとなるとますますあの王子の思惑通りだわ。きっと侍女も伴わず夜会に来た所をいじられるでしょうね」
困ったと思っていると旦那様がもじもじしながら言う。
「あのう…どうにか代わりの方をここで見つけられないかと…」
「えっ!?ここで?ですが…」
いや…夜会の時だけだ。ドレスならリネットのを貸して着飾れば良い。
「そうですね…。大人しそうな娘さんならあまり喋らなければ判らないでしょうし…何とかぴったりな子を見つけてみましょう」
と同意する。リネットもうなづく。
こうして私と旦那様に護衛のニールを伴い、宿場町の女性たちに声をかけて見ることにした。
キョロキョロ辺りを見回していると地味な女の子が店の外でか細い声を出しつつ男に絡まれている。
「嬢ちゃん…今日はここで楽しもうか?」
「ひ…わ…私は…」
と怯え困っていたので私はズカズカと助けに入った。
「ちょっと貴方!彼女困っているでしょう?」
すると野暮ったい男は顔を上げ私を見る。
「あんだ?てめ…って…!なんと素敵なお姉様!!いや、どっかのお嬢様か!?上等な服着てら!」
と舌舐めずりして私の方にやってくる。
「旅行でもしてるのかい?ここら辺で宿を探してるなら案内してやるぜ?ひひっ」
と私の身体を見て笑う。
「……ご生憎様です。もう宿は決まっておりますの。それに私はこの方の妻なので案内はご遠慮します」
女の子はニールが後ろに隠したのを見て旦那様の腕を取って引っ張る。すると男はローレンス様を見てケラケラ笑い出した。
「何だそいつ?あんたの従者かと思ったぜ!しかもチラッと後見えたがそいつ禿げてんじゃねーか!ぶははは!!」
と笑う。痛いところをつかれたローレンス様は青ざめる。
「なぁ、皆!見てくれよ!こんな美女と禿げ男!!どう見てもおかしいだろ!ははは!」
通りを歩いていた人々は足を止めて何だ?と旦那様と私を見る。クスクス笑う人達もいる。
私は男に平手打ちをかましてパァンと響いた。
「痛えな!何すんだ!!」
「あらごめんなさい!無礼にも程があると思いまして!」
「なにい!?貴族だからって威張りやがって!まぁ、抱いちまえば女なんて皆変わらねぇ!旦那よりもいい思いさせてやる!」
と腕を掴もうとするので護衛のニールが割り込み出す。
「奥様から離れろ!」
と剣を抜くニールに
「では任せましたわ!」
と言いつつ旦那様と絡まれていた娘を連れあっさりその場から離れる。ニールも
「えっ!?奥様!?マジですか!?」
とたじろいだが男との乱闘になりそうで野次が増え始めた。
ごめんなさいね、ニール頑張って!
とそそくさと離れる。
その後ニールは数時間後にかすり傷を作り戻ってくる。
*
結局私達の宿に戻り事情を説明しその娘さんに協力してもらうことにした。彼女はアグネス・フォーチュンと名乗り、生き別れた弟を探す旅をしている最中だと言い、助けてくれたお礼に是非と協力させてくれと言ってきた。
「昔…少しの期間ですが資金を稼ぐために男爵家で働いていたことがあります…」
と言ったのでこれも幸いしたしリネットとの体格も似ておりドレスもピタリと合った。
「良かったあ!何とかなりますわね!」
とローレンス様に言うと
「は、はい…僕は何にも出来ませんですみません…」
とまたしょぼくれた。先ほど笑われたしね。
リネットはベッドの上で
「そう言えば旦那様…奥様…この宿はもうあまり部屋が余って無いそうで彼女に一つ部屋を分けるなら奥様達は一緒に寝ることになりますわ」
と言う。あら…確かに…仕方ないわ。怪我人のリネットと一緒に眠るわけにはいかないし、会ったばかりのアグネスさんも遠慮があるだろう。
チラと旦那様を見るとこれまたもじもじして俯いていた。私がいたら迷惑かもしれないわね…。
「では私は廊下で…」
と言うと流石にリネットとローレンス様に突っ込まれた。
「「流石にダメです!!」」
と。
結局夫婦仲をアグネスに疑われても面倒なので旦那様の宿部屋に今日は泊まることになり荷物を運んだ。
旦那様の侍従の一人ジョルジュ・アーノルド・リースも驚いて私とローレンス様が同じ部屋で眠ると聞き慌てていた。
慌てて枕を取り寄せ整えていた。
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