NEXCL 迫害された聖女は剣を携え”混ざりし世界”を馳走する

daidroid

始まりの転移

 アリシア・相沢は15歳となった。

 日本の偏差値40くらいの高校に通う普通の女学生だ。

 相沢の姓を持っているが恐らく、日本人ではない。

 幼い時に孤児院の前に捨てられており、そこの相沢孤児院の名前を名乗っているだけなのだ。


 極めつけは自分の髪は自然界ではそう見かける事がない蒼い色の髪に蒼い瞳を持っている事だ。

 何かの色素異常だと思うが、体に異常はない。

 それに顔つきもどこかウクライナ系に近い顔立ちをしており、明らかに日本人ではないのだ。


 それが原因なのか、一部の男子には非常にモテる。

 おまけに身体能力は並の男の追従を許さないアスリート体質であり、学校の剣道部に入ったら男子を押し退け、副主将の座に収まってしまった。

 勉強に関しては引っ掛けが多い問題の所為もあり、良いとも悪いとも言えない。

 だが、本人はその事をあまり気にせず、今日も竹刀を打ち込む。




「フッ!」




 剣道ではあまり聴かないような独特の息遣いで放たれた上段からの剣劇で相手の意識の虚空を突き、暇を与えない、高速の剣が相手の面に直撃する。




「相沢!1本!」




 審判役の担任教師が判定もあり、アリシアの勝利に終わった。

 互いに一礼した後に更衣室に向かい。

 そして、対戦相手であった3年の竹地・昇は道中でアリシアの事を褒める。




「相沢さん。本当に強いよね。剣道をやり始めたとは思えないよ」


「そうですか?」


「そうだと思うよ。オレなんか、6歳の時には剣道を始めたから顕著に感じるよ。君の剣は本当に速いし重い。きっと全国を目指せると思うよ」




 昇は嫉妬等はなくただ、素直にアリシアの剣を褒めた。

 アリシアもそれを聴いた嬉しかった。

 だが、同時に言い表し難い違和感を覚えていた。




「でも、何か違う気がします」


「違う?違うって何が?」


「その……言い難いんですけど、わたしは剣道家には向いてないんじゃないかって?」


「いや、そんな事はないと思うけどな。君の剣は速いし技術もある。まるで長年、剣を振っていると思えるほどだよ」


「わたしもそんな感じはします。だからこそ、思うんです。自分が今、振っている剣は何か違う……剣道をやれば見つけられると思ったんですけどね……」




 アリシアはこの歳に近づきに連れて、日頃感じる事がある。

 ここが自分の居場所ではない……そんな気持ちだ。

 何故かは分からないが歳を追う毎に自分の居場所はここには……と言う不安感のようなモノが募っていたのだ。

 それから女子の更衣室に入って、自分のロッカーに前に来る扉には「バカ」「死ね」と油性ペンで書かれた落書きがあった。




「またか……」




 剣道部に入ってからこう言う事をされる事が多くなった。

 特にクラスで虐められる事もある。

 教科書を隠されたり、トイレの糞便がある中に教科書を落とされたり、机に落書きされたり等かなり虐めを受けている。

 先ほど、一部の男子にはモテると言ったがそれは本当に一部であり、少なくともクラスだけで見れば、アリシアは男子からすらも標的にされている。

 学校で一番の美人は誰かと言われれば、アリシアなのは間違いないのだが、それでもアリシアはイジメの標的にされていた。

 理由はよく分からない。

 ただ、アリシア自身、その事をあまり気にしてしなかった。

 普通なら鬱になって登校拒否にでもなるのだろうが、自分はただ淡々と事実を受け止め、気にしないようにしていた。


 それと言うのも心のどこかで「人間なんてこんなものだ」と呆れと諦めのような感情を抱き、過度に人間に期待していないからかも知れない。

 恐らく、自分はなのだとアリシアは最近、思うようになった。

 アリシアは何も言わず、ただ黙々とカバンからアルコール液を取り出し机に巻いて、取り出したタオルで拭いた。

 そして、拭き終わった直後、教室に担任の川口・桔梗先生が入り出席を取り始めた。

 席順的にアリシアは“あ”行で始まるので「相沢さん」と先生が呼んだ。

 アリシアは「はい」と答えようとした。

 その時だった。

 突如、地鳴りの様な振動が教室に奔り、黒板を爪で引っ搔いたような甲高い不快な音が響き渡る。




(これは……転移?)




 何故か、自分は咄嗟にそう判断した。

 そんな事がこの咄嗟の状況で分かるはずがない。

 ただの気の迷いとも言える直感だった。

 次の瞬間、辺りが一面光に包まれ、校舎の窓から強い光が差し込める。

 それが“混ざりし世界”の始まりである事は後に周知の事実として知られる事になる。


 

 

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