第5話 スーパーアルバイター・サラ
スーパーアルバイター・サラの朝は早い。
伯爵令嬢がアルバイトなど世も末である。
しかし、父のゴルドは子供の養育に関して無関心なようであったし、継母や異母兄妹は触らぬ神に祟りなしとばかりにサラには関わらないようにしていたため、誰からも邪魔されることなく、勤労の喜びをサラは味わっていた。
早朝5時から深夜23時まで分刻みのスケジュールである。
働き方改革、何ソレ? だ。
マシロだった時も、40代に入ってからは体調を崩すことが多くなり無理ができなくなったが、30代までは今のサラと似たような生活だった。
今再び9歳という若い体で思い切り働ける喜びをマシロはかみしめていた。「体が動くって素晴らしいわ! 若さって素敵!」と時々口に出してしまい、周囲の大人達から苦笑されている。
そんなサラの日常に、今日はオマケが付いてくる予定だ。
武器商人・リュークである。
リュークはサラが従業員としてどの程度使える駒…………人材なのかを確かめるため、今日一日、サラの行動を観察することにしたのだ。
初めは渋ったサラだったが「合格したらバイト用の衣装を作ってやる」という交換条件に目を輝かせて快諾してしまった。
(憧れの制服…………!)
マシロだった時の職場は私服だったので、制服を着て働く職業にずっと憧れていたのだ。
「お待たせ! おはようリューク」
「ああ」
待ち合わせ場所に上機嫌で現れたサラに、リュークは無愛想に応えた。
「そちらの騎士は?」
サラの後ろには見慣れない騎士の姿があった。
長身のリュークよりも頭一つ分大きな白髪の騎士は、サラの待ち合わせの相手が武器商人だったことに一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに平静を装い、にっこりと微笑んだ。
「私は、サラ様のお屋敷の近くに住むガラハットという者です。毎朝、早起きして城まで出勤しているのですが、まさかこんなところで武器屋の主人とお会いするとは。サラ様の人脈は侮れませんな」
「おじいさん、今日はここまででいいですよ。リュークがいるので」
ガラハットの家から城までの間にサラの家とバイト先のパン屋があることから、出勤がてらサラの護衛をするのがこの親切な老騎士の日課であった。時々、パン屋で焼き立てのパンと美味しい紅茶を頂くのが密かな楽しみであったりする。
マシロにしてみれば、生前の自分と同じくらいの年齢のガラハットは、気安く話せる茶飲み友達感覚だった。気分は「朝から老人会」である。マシロのいた世界からすると老人というにはいささか若すぎる感じがするが、この世界の人間の平均寿命は65~70歳なので、十分老人と言って差し支えないだろう。
「わかりました。では、また明日」
「はーい! いってらっしゃい!」
では、と、騎士らしく敬礼して、ガラハットは去っていった。
「さて」
サラは先程までの可愛らしい表情から一転して、きりっと目を吊り上げた。
「仕事よ」
スーパーアルバイター・サラ、仕事モード発動である。
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