畑へ虫をばらまきに

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ここ数日珍しく部屋に引きこもった娘が図鑑とにらめっこして何か書き物をしている。のめり込むタイプだからいつもの事と放っておくと｢できた！｣と叫びイスを蹴飛ばして部屋から出てきた。3枚の原稿用紙にたどたどしく並ぶ｢なんでモグラはサングラスをしているのでしょう｣というタイトル。今回はモグラかぁ。

小学四年生の叡智を結集させた論文は、絵本は嘘つきだけれど本当のことをそんなふうに想像するなんて最初に考えた人は天才かもしれない、と締め括られていた。

私は、少し不味い事態になりそうだなと直感した。理論をより正当化する為には実験が不可欠だ。

思ったが早いか、娘は祖母の家へ電話している。

｢ねぇおばあちゃん、モグラって見たことあるぅ？｣

しつこいくらいに可愛らしい声音で喋る彼女が空恐ろしい。伸びたモグラが畑に累々と重なる光景が一瞬目に浮かんで頭を振る。きっと今度の週末あたり。

｢ママぁ｣

ほら来た。でもいるかどうか判らないし義母からも聞いたことがないからたぶん、たぶんこの子はがっかりすることになるだろう。

｢いじめたりしないって約束するならいいよ。行くんでしょ、おばあちゃんち｣

娘のぴかぴかの笑顔。参ったなぁ。

すると私が持っていた原稿用紙をふんだくって何か書き足した。タイトルの頭に大きく1と。