夜灯
向日葵椎
第1話
「…………」
ノゾミが目を覚ますと夜だった。ワンルームの窓は街灯で仄かに白い。夜にアルバイトから帰ってベッドの上で本を読んでいるうちに眠ってしまったことを思いだす。
「…………」
脇にあったスマホで時間を確認すると、午前二時を少し過ぎたくらい。
ノゾミは徐々に空腹感を覚える。最後に何か食べたのは昼過ぎにアルバイトに行く前のコンビニのおにぎり一つで、帰ってからはまだ何も食べていなかった。
「…………」
ゆっくりと体を起こしてベッドから降りると、ほとんど真っ暗な中を少しずつ歩いて壁際のキッチン上にある蛍光灯を点ける。チカカッとしてから弱い光が室内のごく近い範囲を照らす。
やかんに水を入れて湯を沸かすあいだ、下にあるビニール袋からカップ麺を取り出してフィルムを剥がし、ふたを開けておく。コップで水を少しだけ飲んでから、テーブルに置いてあるハイライトとライターを持ってきて、一本咥えて火を点ける。キッチンへ背を向けて寄りかかり、深めに吸ってふーっと吹いた紫煙が、蛍光灯の弱弱しい光の中に漂っていた。
やかんが細くぴーっと鳴る。煙草を咥えたままカップへ湯を注ぎ、ふたをして、またキッチンへ背を向けてぼんやりと窓を眺めた。曇りガラスで外は見えない。
チカカッ。ノゾミは最初、背後の蛍光灯かと思った。しかし、チカカッ、再び明滅したのは窓の方だった。街灯が切れかかってるだけだと思ったが、カップ麺ができるまで時間があるので、なんとなしに見てみることにした。煙草の灰を落としてから窓の方へ歩き、鍵を上げて窓を開いた。窓ががらがら、と鳴りしんとする。三月にしては冷たい夜の空気が部屋の中へと溶けていった。吐いた息は白かった。
アパートの二階から見える風景は静まり返った住宅街で、目の前の道には街灯が立っている。それの調子が悪いんじゃないか、とノゾミは思った。ぼんやり眺めていると、チカカッ、やはり街灯の光が明滅した。
小さなことには気づけたけれど、それだけのことだった。そろそろカップ麵が出来上がるだろうという頃なので、引き返そうと窓に手をかける。だがすぐにノゾミは、違和感を感じて動きを止めた。視線を街灯の根元に落とす。小さな子が一人座っているのが見えた。
その子は髪が長く、ティーシャツにスカートの姿で体育座りをして、額をひざにのせるようにうつむいている。スウェットにジャージを羽織っているノゾミでも肌寒く感じるほどの気温なので寒そうだと思ったが、すぐに自分が子供の時は冬でも半袖だったことを思い出し――
いったいどうしたんだ。ノゾミは思った。
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