第20話 1日目 暗躍
「お風呂の時間ですよぉ」
男子部屋の二段ベッドの下の段。
俺は、いつのまにか眠ってしまったらしい。
枕元を見ると、ぼやける視界の中でスマートフォンが点滅していた。
「せんぱぁい、お風呂のお時間ですよぉ〜」
甘ったるい声が聞こえる。
急に脳が覚醒して、がばりと起きた。
「わかった、ありがとう」
軽く身支度を整えて、お風呂セットを用意する。
その間も
ほんと、「あざといな」
「失礼ですぅ〜、せっかくお風呂上がりの可愛い後輩が、夜のモーニングコールをしに来たのにぃ」
夜のモーニングコール……?
意味が分からん。
つか、もう女子の入浴時間は終わったのか。
まだ寝ぼける頭を働かせながらリビングに行くと、不機嫌そうな
「
「悪い」
「よし、んじゃ風呂行くか!」
三人でコテージを出ると、日中よりだいぶ涼しい風が吹いていた。
ズカズカと先頭を歩く
「
笑いながら話す新井くんに、もう昼間の自身なさげな雰囲気はない。
つか、
「
そう新井くんに呼ばれたことが少々くすぐったい。
「ご、ごめんなさい……今日会ったばかりなのに、失礼……でしたね」
「ん、いや」
俯いて肩を落とす新井くんの頭を撫でる。細い髪が、指先から逃げて風に舞った。
「むしろアリだ。グッドだ。ナイスだ」
「ありがとう……ございます」
新井くんと二人で笑い合っていると、立ち止まった
「なァに男どうしでイチャイチャしてんだよ」
「そ、そんな、ボクと
つか新井くんよ、その言い方は色んな誤解を招くぞ。
「分かってるって。ただな、そういうのも、すず
すず
腐海の沼って、深いのな。
「そんなぁ、ボク……
美少女にしか見えない姿で俺に上目遣いするな。
変な気を起こしたらどうするつもりだ。
「ボク、お二人がはじめての先輩、なんです……」
ヨットパーカーのフードの紐を指先でいじる新井は、まさに恥じらう美少女だ。
「お名前で呼んだら、ダメ……ですか?」
見ると、
俺は上目遣い継続中の新井くんに、耳打ちをする。
「ほれ、
その瞬間、新井くんの表情が明るくなる。
「う、うるせェ、行くぞ
「は、はいっ」
再びズカズカと歩き出す
つか、これから新井くんと一緒に風呂に入るんだよなぁ……。
無事に風呂から戻ると、コテージのリビングでは
「すず
「お帰りリョウジ……ブハァ」
風呂上がりの俺たち三人の男子を見るなり、
「
「ハァハァ、ぞ、属性が、多重渋滞を起こして……マリアージュ」
「ほれ、ティッシュ」
「いつもすまないね」
うわ言を呟いてカウチソファーの背もたれに倒れる
なるほど、これまでにも何度もこういう事があったのね。
「謝肉祭……今夜は謝肉祭……」
「あー、コレだめなヤツだ。ちょい寝かせてくる」
深い溜息のあと、
「す、すごかった、です」
新井くんが、ぽしょりと呟く。
「だな……
「それもですけど、リョウジ先輩です」
へ? と新井くんに向き直ると、新井くんは俯いて語り出した。
「ボク、こんな見た目だから……リョウジ先輩や
なるほどな。
新井くんは新井くんで、大きな悩みを抱えているのだ。
「ボク、かっこ良くなりたい……」
新井くんの嘆きは、重い響きを内包していた。
程なくしてリビングに戻ってきた
「おい、ポンコツも嬢ちゃんも、部屋にいねェぞ」
ポンコツというのは、一年の
そして、こいつが嬢ちゃんと呼ぶのは。
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