第15話 林間学校、開始
林間学校、当日。
あいにくの晴天に恵まれた朝、重い足を引きずって俺は登校する。
荷物も重いが、気も重い。
それもこれも
──
まあ、考えてみれば道理だ。
可愛い
となると、
俺と
それでなくても俺よりかっこ良い男子なんぞゴマンといる。
これは、早めに手を打っておかなければ。
幸いにも出発前の集合はクラス単位だ。
そこに勝負を、かける。
登校して早々に、集団から離れて立つ
「なあ、
「おはようございます。どうしました?」
「出来るだけ、俺のそばにいてくれ」
「……えっ」
その瞬間、
そこから、ギギ、ギギギと聞こえそうなくらいギクシャクした動きで首が動き出す。
やがて俺に向き直り、潤んだ目で俺を見つめたと思ったら、いきなり深々と頭を下げた。
「ふ、ふつつか者ですが……」
なぜか耳まで真っ赤にして頭を下げる
出欠確認の点呼中も真っ赤な顔で俯いたまま何かを呟き続けているが、これである程度の確実性は担保できた。
あとは
そろそろ他のクラスの点呼も終わる頃だ。
本人たちは否定するが、公認カップル扱いされている二人は、周りがくっつけるだろう。
集合場所である中庭を見回すと、人混みの中に頭ひとつ分のでっぱりを見つけた。あれが
班を作る時になったら、あの巨人を目指せばいい。
「はい、三〇分以内に班を作って、前にいる先生に報告してください」
よし、素早く
「あ、待っ──」
「ゆ、
「いやいやおれと!」
「やあ、ボクはワンダーフォーゲル部の部長──」
「わたしめの顔面を踏んでください!」
「あかりぢゃあああん!」
くっ、ちょっと目を離した隙に、
はあ、とりあえずLINEで連絡入れとくか。
『先に
LINEを送り終えると、男子の声が上がる。
「
「ID交換してー」
「やあ、ボクはワンダーフォーゲル──」
「ふりふりしよ、ふりふり!」
「あがりぢゃああああん!」
……すげえな。
周囲の男たちの反応が凄まじい。
特にあいつ。
やけに大きな登山用のパックパックを背負った長身の男子。
つかそのはみ出したピッケルを使う場面は、林間学校では来ないと思うぞ。
ふと、人混みの中の
周囲の男子に戸惑っていた
その次の瞬間である。
「ごめんなさい、私、心に決めた相手がいるんです」
ただ一人、ピッケルがはみ出した奴だけは未だに食い下がっているけれど。
「──おう、すず
「いや、あれな」
「はあ……言わんこっちゃない」
無骨な手でこめかみを押さえる巨神兵もとい
残された俺と
「ちゃんと嫁を摑まえておかないと」
「……嫁ってなんですか。ただの不肖の弟子ですよ」
「おいテメー横入りすんじゃ……ゲッ、
人垣が割れて、その中心から
「ほれよ、愛弟子を連れてきたぜ」
「悪いな」
「ホントだぜ」
すまん。マジで不甲斐ない師匠で申し訳ない。
俯いて反省する俺の横に、
「ごめんなさい、師匠」
「いや、お前のモテ度を見くびってた俺のミスだ」
「だな。ったく……しっかりしろよ、男なんだから」
溜息を吐く
「……おまいう」
「あ?」
「何でもない。きっとリョウジには一生かけても分からない」
何故か
「あと一人、一年生か」
「それはさっき目星をつけてある。あっち」
「何処ですか」
「……むう。リョウジ」
「あいよ」
目配せされた
高々と掲げた。
「おお、たかいたかいだ……」
「いた。
その脇に、学校指定ジャージを着て体育座りで丸くなっている生徒がいる。
「あれ、たぶん一年の女子」
「どうして分かったんです?」
「真面目に学校指定のジャージで来るのは、一年生くらい」
そう言われたら、そうだ。
基本、野外活動は「動きやすい服装で」という規則しかない。
現に、俺たち四人の服装もバラバラだ。
「よぉし、オレが引っ張ってく「リョウジはだめ」なんでだよ!」
「この班のリーダーは、
「ん、ああ、そういうことか」
よく分からんが、
「ちょっと待って。俺がリーダー?」
「当然」
「いやいや、リーダーは年長者の
「この中でキャンプスキルが一番高いのは、
「だな。あの肉祭りの時の手際は、ちょっとマネできねぇ」
「リョウジはもとからポンコツ」
「んだとぉ?」
「文句、ある?」
「……いや、無い」
「よし」
今日の
こういう時は、当たらず障らず逆らわずに限る。
「という事で、リーダーの
はあ、めんどい。
対人交渉は苦手だ。
が、機嫌の悪い
仕方なく花壇へと足を向けると、横に気配を感じる。
視界の隅っこで、明るい栗色の髪が揺れていた。
「もう、離れませんから」
「ああ、そう」
隣を歩く
つか、この子かなりの美少女だぞ。
なんでこんな可愛い女の子が、何処の班にも誘われないのか。
「な、なあ。お前、一年生か?」
「師匠、スマイルだよ」
顔を上げたその
俺は、引きつりながらも笑顔を作って、ニカっと笑う。
「ひっ」
「あー、組む奴がいないなら、ウチの班に入るか?」
「ごめんなさいごめんなさい」
……驚いた。
この子、俺よりコミュ障かもしれん。
困って
「師匠、私に任せて」
「私たちね、困ってる。仲間を探しているの。あなたさえ良かったら、私たちの班に入って助けてくれないかなぁ」
「ボ、ボクで……いいんですか?」
おお、ボクっ
初めてリアルでボクっ
この感動、共有できる友人がいないのが悔やまれる。
「もちろん。じゃなきゃ声なんて掛けないよ」
ボクっ
俺が軽く頷くと、ボクっ娘の表情が少しだけ明るくなった。
「私は、
「師匠……」
「そ、素敵な素敵な、私のキャンプの師匠!」
「すごい、なぁ」
「あなた、お名前は?」
「あ、新井……です」
「新井、なにちゃん?」
笑顔でボクっ娘に話しかける
つか俺よりコイツの方が、師匠向きな性格なんだよなぁ。
「ちゃん、じゃないです」
「え」
「ボクは新井、
「え?」
「は?」
俺と
「ボク、男の子……です」
マジですか。
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