ショートショートの世界(逢魔時の部屋)
柏木 慎
会いたい
君に会いたい。
そう願って、僕は今日もホームのベンチに座り、来るはずの無い君を待ってる。
どうしてあの日、無理にでも君の手を取って逃げ出さなかったのか。
何度も後悔したけれど、時が戻ることは無い。
このホームに集まり、電車の中に吸い込まれ、吐き出される多くの人々。
それは時に楽しそうで、時に疲れ切り、時に友と、時に家族と、時に一人きりで。
通り過ぎていく彼らと対照的に、僕の時間はあの日から止まったままだ。
君と離れてしまったあの日から、僕だけが世界に取り残されている。
俯くと、涙が零れた。
例えどんなに君の姿が変わっていようと、必ず君を見つけてみせる。
だからどうかここに戻っておいで。
今度こそ君の手を離したりしない。
二度と君を置いて行ったりしない。
一度は間違えてしまったけれど、答えはとても簡単だった。
もう二度と間違えないように、僕は今日もここにいる。
今、僕はとても幸せだ。
新しい世界で君と二人、これからまたやり直すことが出来るのだから。
ああ、ごらん。
また新しい電車がホームに入ってきたよ。
あの日以来、君がこの駅を使うことは無かったね。
けれど今日こそは乗っているかもしれない。
それが例え、僕のことを忘れたからだとしても構わない。
何度だって、僕が思い出させてあげる。
そう思うだけで、電車が来る度に胸が震える。
早く君を連れて行きたい。
永遠に離れることの無い世界へ。
そうすれば、いつか君も分かってくれるだろう。
君に全く相手にされなかった僕が、誰より強く君を想っていたことを。
絶望して死を選んでもなお、君を忘れられずにここで待ち続けている僕の想いを。
何度でも言う。
君を幸せにできるのは、僕だけだ。
だから−
ハヤク、ココニオイデ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます