第19話 続・十一才 適材適所な件

 人間ならば魔術師とかそういう者でない限り、魔族ほど魔力があるわけではない事がほとんどだ。

 もしあったらあったで、かまわない。そうしたら他の事に回れるだろう。

「特別なお花だけど、お世話は普通よ。毎日様子を見ながらお水をあげたりするの」

 この屋敷の隣には育てた花や薬草を販売する為の店舗も準備した。いずれはそこで子供達が働くかもしれない。今は森の聖母に育てられ大人になった人間が一足先に入った薬草などの注文に対応している。

「みんなしばらくはこのお花と、自分のお世話を頑張りましょうね」

 徐々に世話の範囲は広げる予定だが、まずは自分達の事が一通り……少なくとも日常会話が出来るようになってから。

 自分達のやる仕事がわかると、子供達もようやく本当に安心したらしい。それぞれの顔に気の抜けたような笑みが浮かぶ。それはロビンも例外ではなく。

(いや。他の子より、か。無理もないよな)

 先頭に立つというのはそういう事だ。他の子供達を自分が守る。そういう立場にいると自覚しているから、リーダーで、他の子供達も従ってついていく。守ってくれないリーダーについていく事はないのだから。

 その後は施設(館の敷地内)を見て回った。

「さて、じゃあ最後に俺の目的を果たして終了かな」

「あんたの目的?」

 談話室となっている館の小ホール。床は一面ふかふかカーペットの真ん中でそう言ったシェルディナードに、ロビンがいぶかしげに首をかしげた。

「そ」

 パチン、と。シェルディナードが指を鳴らすと、すかさずディットが机と、子供の顔の大きさくらいの白く薄い石板をその上に用意する。

「本当は名前を書けるようになってからが良いんだけど、ひとまずやっておく必要があるから。住民登録じゅうみんとうろく

 今のロビン達はどこの住民ともとらえられていない。簡単に言うと野生動物。

「この領都りょうと、ひいてはこの領地の『たみ』であると、公的に登録しておく必要があんの。じゃないと、例えば他のやつらに連れさらわれても、返せって言えないし、助けんのに凄い時間掛かるから」

 多分、拐われたら、時間掛かったら十中八九アウトだ。種族によるが、素材にされてるか食糧にされてるかだろう。または玩具にされて生きてても精神的にアウトか。

 でも、それがこの世界での人間に対する『普通』なのだ。シェルディナードの考え方が異質なだけで。

「で、本来は名前を直筆で書いて登録すんだけど、今は無理だから、ロビン」

「え。お、おう」

「登録の時に他の子達の名前を言って。ディット、採血の用意」

「採血?」

「大丈夫だよ、ロビン、一滴あれば良いから。直ぐ治すし。今の説明、してくれる?」

「わかった」

 ロビンが子供達に説明を終えて、一番手はロビン、次にロビンの弟。それを見て、他の子供達も大人しく登録していく。一瞬指先を針でチクッとされると泣きそうな子もいたが、次の瞬間には治癒ちゆさせたので泣き出すのはまぬがれる。

 名前を言って血を石板に落とすと、石板は一瞬だけほのかに光る。ロビンにはそこに登録した名前と性別、住所にあたる領名と街名に孤児院の名前が浮かび上がったのが読めたはずだ。住所は意味がわからなかったかも知れないが、とにかく文字としては読めただろう。

「ん。これでOK」

 終わると机を片付け、石板はディットが魔術で収納する。

「じゃ、俺達は帰るから。また様子ちょくちょく見に来るし、何かあったら言って」

 シェルディナードがそう言いながらロビンに小さな呼び笛を紐に通したものを渡す。

「ロビン、何か危なかったり、すげー急ぐことがあったら吹いて。すぐわかるから」

「あ、ああ」

 受け取ったロビンはちらりとシェルディナードの顔を見る。

「ん? どうしたの」

「あんた、いくつなんだ?」

「うん? 十一」

「本当に?」

「うん。今はね」

 段々外見の老化は遅くなる。きっと近いうちに実年齢との解離かいりが始まるだろう。でも、今は大体同じだ。

「……住民登録」

「うん」

 何となくロビンが考えている事がその一言でわかった。

 外見より年上なのかの確認。そして次の言葉は、きっと『どんな身分』なのかを考えたのだろう。

「領民の管理は、俺んの仕事だから」

 その一言に、ロビンは今度こそシェルディナードの身分を理解したようだった。

(でもその「え。お前が」って顔はどうなのかなー?)

 仕方ない。追々理解してもらおう。



「つっかれたー」

「坊、まず着替えろ」

 領都から帰宅してすぐさま自室の寝台ベッドにダイブしたシェルディナードにディットが顔をしかめる。

「お疲れ。ルーちゃん」

「うん。サラも付き添いありがと」

「サラ坊も寝転がるな! 二人ともまず手洗いうがいだろ」

「うへーい」

 ずるずると寝台から降りて、シェルディナードがサラと手を洗いにいく。

 戻ってくる頃には、ローテーブルに紅茶とクッキーが用意されていた。

「いっただきまーす」

 サラはシェルディナードの横でコクリコクリと夢の世界に旅立っている。

「坊、胡座あぐら組むな。行儀悪りぃ」

「はーい」

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