第15話2-4

「お前たちをミンチにして、捧げてやる」

 ザーたちはジリジリと近づきながら横に展開していきました。ジュンたちを囲むように目を光らせ歯を剥き出しにし、化物虫を擬人化したらこういう姿なのかと思うものでした。ジュンは手を広げて説得します。

「そんなことをしても意味がないだろ? それはお前たちが自分で言っていたことだ」

「関係あるか! 俺たちの街をめちゃくちゃにした罪だ、罰してやる!」

 ザーたちが襲ってきました。地面を蹴って勢いよく向かってきました。ジュンは迎え撃つ準備をしていません。

「やめろ! そんなこと何の意味がある? それに、お前たちとは戦いたくない」

「怖いのか、自分が教えた共鳴の能力にやられるのが!?」

 ザーは血のハーケンを飛ばしてきました。

「っ!? それは教えていないぞ!?」

「お前がやっているのを見て盗んだんだよ。俺はお前より才能があるからな!」

 充血した目のザーに追い込まれるジュン。逃げようとしても逃げ先に血のハーケンを打ち込まれます。それでもなんとか掻い潜ってジュンは逃げて行きます。

 そこを他の者たちも攻撃してきます。他の者たちも血のハーケンを打ち込んできました。自分の能力を真似されて攻撃されるのは良い気がしません。

「くっそ。数が多い」

「くらえー!」

 ザーの血のハーケンがジュンの腕にかすりました。口を歪めたジュンに対してザーはここだと言わんばかりに血のハーケンを大量に微笑みながら出しました。その姿は九尾の狐のようでした。

「死ね死ね死ね死ねー!」

 ジーの猛ラッシュ。ヨダレが垂れまくって飛び散りまくって狂気じみています。耐えに耐えるジュンはついに――

「うっせー!!!」

――ザーを殴り飛ばしました。

「くっ……どういうことだ? どうして倒せない? 俺のほうが上なのに?」

 殴られた左頬をさすりながらザーは困惑していました。完璧に見下していた相手から、圧倒的に優位だった立場から、能力すら出していない相手から地面に叩きつけられたのです。それを見下ろすジュンは鼻息荒くいました。

「大樹を登ったことがない猿真似野郎が! 負けてたまるか!」

 大人げない言い方でした。未だ子供であるジュンらしいといえばそれまでですが、能力を使わないのはせめてもの師匠としての意地だったのでしょうか? 右こぶしは血だらけですが、それは相手の返り血ではなく自分の負傷からくる血でした。

「――なるほど、実戦経験の差か」

「そうだ、まだま……」

 ジュンは意識が飛びました。ザーの仲間がジュンの後頭部を血のハーケンで殴ったのです。そのまま力なくうつ伏せで土につきました。

「共鳴とか大樹の経験は少ないが、殺し合いなら経験しているぜ、お前よりは」

「っっっ!」

 ジュンは殴った人を血のロープでなぎ払いました。それは薄れ行く意識の中咄嗟に出たものでした。ザーはその様子に不思議なものを感じました。

「どうした? なぜハーケンで攻撃しなかった? どうして俺に対して無駄口を叩いて止めを刺さなかった? 理由はわかるぞ。お前は俺たちを殺したくないんだ!だから甘いんだよ。その甘さを恨んで死にやがれ!」

「へっ、それはどうかな。にしても、これはやばいな」

 ――攻撃してくるザーの首が飛びました。

「!?」

「まったくもう、嫌になるわ」

 ダインは周りの者の首を一斉に跳ねました、水のロープを刃にして。その姿は湖畔の上に舞う天女のようでした。ダインの足元は血の湖でした。

「ダイン、容赦ないな」

 ダインはジュンのほっぺを叩きました。

「!?」

「あなた、自分で始末できないのなら、首を突っ込むのはやめなさい! 中途半端な優しさは迷惑をかけるだけよ。自分で責任を取れないことはするべきじゃないわ!」

 ジュンは左頬に痛みを感じながら狼狽していました。一連の流れに頭がついて行けていないところに不意のビンタでした。自分が悪いのかと言いくるめられそうでしたが、そこはガの強さが出てきました。

「でも、殺す必要はなかっただろ? 僕が死んでおけば良かったんだ」

「誰もあなたを助けただけじゃないわ。私も命の危険だったし、ここでこの人たちを殺さないと何をしでかすかわからないわ。この葉のほかの街や他の葉に侵略する恐れがあるわ。そうしたら、すごい被害よ」

「それは、わからないだろ?」

「わかってからでは遅いのよ!」

 ジュンは力尽くで言いくるまれて、そのまま力なく連れて行かれました。


 2人は大きな門を出ました。外に出ると2人の門番がいました。そのうちの1人は来た時に話しかけてきた老人でした。

「ありがとうございました。良い旅を」

「ありがとうございました」

 ダインは礼儀として普段見せないような笑顔で――といっても当社比であり普段を知らない人からすれば仏頂面で――返事しました。ジュンはここに来た時と同じように――といっても来た時の喜ばしいものではなく街の惨状からくる苦しいものだが――茫然自失でした。そのまま黙って大樹に向かって幽霊のように歩くジュンは、思い出したように門番に振り返りました。

「そうだ、門番さん。1つ聞きたいことがあるのですが」

「なんでしょうか?」

「僕がしてもらった消毒あるじゃないですか? あれ、効果が薄かったので、確認したほうがいいと思いますよ」

「何かありましたか?」

「僕が化物に襲われたよ。もしかしたら僕が特殊なだけかもしれないけど、一応確認で」

「かしこまりました。ご忠告ありがとうございます」

 2人は去ろうとしました。それを後ろから考えるように細い目で見つめるその門番の老人は、大きく息を吸います。そして、年の割には声を大きく出します。

「ちょっと待ってください!」

 門番のうちの1人がジュンたちのところに来ました。年のせいか鎧の重さのせいか、ゆっくりでした。なにか一世一代の嬉しいことがあったかのように微笑んでいました。

「どうしたの?」

「登樹する前に、1つこの街の昔話を聞いてもらえますか?」

「いいよ。聞くよ」

「昔、この街である男がいました。彼は街の文化に違和感を覚えていました。人の命を祭りで犠牲にするなんて馬鹿げていると思っていました。そんな男はある日、家族を祭りのときに化物に食べられてしましました。男は大変怒りました。しかし、多勢に無勢でどうすることもできませんでした。そんな男の前にある日、大樹を登ってきた旅人と出会いました。その旅人は男に共鳴の能力を教えてくれました。男はその能力を使って街の文化を壊し、街を崩壊させて、旅人も殺しました。男は逆恨みそのままに別の街に攻め入りました。そして、その街を半壊させましたが負けて、罰として故郷の街の復興を守る使命を渡されました。男は自分の憎き街の復興と成長を守り続けました。自分の家族を殺して自分を助けてくれなかった街を守ることに腸が煮えくり返っていました。しかし、使命のため街を自分の手で滅ぼすことができませんでした。その時に思ったことが、この街の文化を壊しそうな旅人をきちんと消毒せずに入れるという策略です。狙い目は、1つの登樹でイッパイイッパイの初心者です。男はそんな初心者に目をつけて、消毒をせずに化物に襲われやすい状況にしました。そうすれば、化け物退治するなりしてメチャクチャにしてくれると思ったのです。しかし、その策略は何年も上手くいきませんでした。ところが、5日前にこの街に入った初心者はその男の策略通りに街を崩壊してくれました。男は大変喜びました……私の話は以上です。ありがとうございました。良い旅を」


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