第13話2-2
小さな木造一軒家の地下。
「ザー、その男は誰だ?」
「俺たちの味方です、リーダー」
「あの、ザー、これはどういうことだ?」
そこには数十人の人がいました。入った建物と対照的にドーム状に広がっている地下室では天井から蛍光灯が照らしていました。飢えた狼のような目から大量に睨めつけられたジュンは今すぐにでも上に戻りたい恐怖でした。
「ジュン、ちょっと待っていてください……リーダー、こちらの方はジュンといい、街の外から来られたものです。彼はこの街のルールがおかしいと思っているのです。事実、僕が儀式で殺されるところを助けてくれましたし、その後に街のルールを説明しても納得していませんでした」
「なるほど。しかし、それだけで連れてくるのはどういうことだ?」
片足ついて敬礼しているザーの目には、リーダーと呼ばれる若い男性がジュンをちらちら見ながらザーの言葉を聞いていました。その黒い目は深淵のように暗いものでした。
「実はですね。この方は特殊な能力がありまして、それを我々に教えてくれるそうです?」
「特殊な能力?」
「はい。俺を化物から助けてくれたときに使っていました。その能力はすごいものでして、それを使えたら我々の役に立てると思いまして」
リーダーは深淵だった瞳の奥を少し光らせました。得体の知れないものを警戒する中に希望を見つけたような変容でした。先ほどまで興味なく受身だったリーダーが少し前のめりに質問を投げかけます。
「なるほど。具体的に、その能力とは?」
「それは……」
「おい、どういうことだ?説明してくれ」
ジュンは会話を遮りました。遮られたザーはジュンの方向に踵を返して咳払いします。
「俺たちはここの文化に反対している者たちです。儀式とはいえ人間を見殺しにするのは間違っていると考えている人たちの集まりです」
「お前、さっきと言っていることが違うぞ。あと、口調も」
「口調はこういう場なので丁寧な言い方です。さっきと言っていることが違うことに関したら、表向きと本音の違いです」
ジュンは寒気がしました。日光が遮断された地下だからということも多少ありますが、環境が変わったことが起因します。今まで考えていた平和で明るい環境ではなく、地獄のように暗い環境がこの街の本当の姿のようです。
「――そっか。本当はこの儀式をダメだと思っているのか。それで、どうして僕を?」
「俺たちは少数派なんです。多数派に勝つためにはここの力を強くする必要があるのです。そのために修業してください」
今のジュンからしたらジーたちは多数派でした。周りに勝つ為には修行で身につけた能力だけでは難しそうです。要ははめられたのです。
「――なるほど、そのための修業か。それで、それはどれくらいの期間だ?僕も旅の途中だから、長くはいれない」
「それでしたら、今の祭りが終わるまででお願いします。あと1週間です。祭り自体は2週間ありますけど、ちょうど半分終わっています」
それを聞いてジュンは深く息を吸いため息をつきました。事実上はめられたことは不快でしたが、この街の現状も良くないという理解もしていました。自分も無理やり修行してもらった経緯がありますので、ダインの心情を今頃になって理解した気になり、自分自身の立場も思い出して覚悟しました。
「わかった。まずは……」
5日後
「すごいな」
「本当ですか、ジュン?」
ザーは壁を往復していました。その地下室の壁は木造ではなく鉄筋コンクリートだから、木より難しいことです。それをダインのように綺麗にジュンより短時間にするのだから、驚く程凛々しき顔になったザーに対してジュンは本当に驚いていました。
「僕は普通に壁を登ることができない。代わりの方法で登れるようになったのも1週間かかった。しかも、僕の場合は1つ目の修行は初めからできていたのでパスしたのにだ」
「ということは、俺はジュンよりも才能が有るということですか?」
ザーは清々しい表情で憎たらしい発言をしました。ジュンはその才能に少し嫉妬を感じましたが、そのまっすぐな目に嫉妬もかき消されました。
「憎たらしいけど、そうかもしれないな。才能ある人は1週間足らずで余裕で合格するとダインが言っていたが、本当だったんだな」
「でも、ジュンの教え方が良かっただけではないですか?」
「そんなことない。お前のように修業を終えたものから、今だに1つ目の修行を終えていないものまで色々といる。だから、僕の教え方は関係ない」
「そうですか。ところで、あと2日なんですが……」
その時、地下室の扉が開きました。
多数の警備隊がゾロゾロと侵入し、武器を持って道をふさいでいました。ザーの仲間たちは悲鳴を上げたり逃げ場のないところへの逃亡を試みたり睨めつけたりしました。ジュンは理解できずに良からぬ空気に巻き込まれていました。
「お前たち、ここで何をしている?」
警備隊の隊長らしき男性は威嚇する声を張りました。地下室上にピリピリと鳴り響き、機関銃の襲撃のような口撃でした。
「――何って、ゲームですよ。壁登りとか、コップ持ちとか、水遊びとか……」
入り口付近にいた少数派の内の1人の男が答えました。しかし、隊長はそんなことお構いなしに言葉を続けます。
「ここで儀式の反対派が密会をしているという情報を得た。下手な誤魔化しはいかんぞ、お前たち!」
「誤魔化してなんかいませんよ。本当にゲームをしていたのですよ
「それ以上言い逃れしたら、罰するぞ」
「だから、ゲー……」
パン! と銃声がなりました。男は心臓のところから血を出して倒れました。警備隊に撃たれたのです。
「言い逃れしたら罰すると言っただろ? お前たちも大人しくしろ!」
警備隊は本格的に武器を持って脅してきました。いや、もう脅しではなく実行しようとしていました。どんな言い逃れも許さない、確実に殺すという覚悟を持った表情。
「お前ら、よくもやってくれたな、もう許さない!」
「俺たちは強くなったんだ、お前たちに怯える必要はもうない!」
「今こそ街を変えるとき。悪しき風習にサヨナラを!」
反対派は共鳴の能力を使い、警備隊と争いを始めました。それに勇敢にも無謀にも迎え撃つ警備隊。血が飛び合います。
「お前ら、争いはやめろ!」
「争いをやめろ? 何を言っているんだ、ジュン? 争いのためにこの共鳴の力を教えてくれたのでしょ?」
ジュンの悲痛な叫びに対して、ザーは悪魔のようににやけながら呟きました。それはジュンに聞こえようが聞こえまいがどっちでもよさそうな冷血な言い方でした。ジュンは自分に聞かせていると考えました。
「そうだけど、それはあくまでも抵抗するための手段であって、こういうことではない」
「今が抵抗するときだ。何を言っている? もしかして、争いなんて起きないと思っていたのか?力が手に入ったら使うだろ?」
ザーが今度は明らかにジュンに聞こえるように言いました。ジュンは歯ぎしりを起こしながら無慈悲にて抵抗していました。
「違う。僕が言いたいのは、この力は化物に抵抗するものであり、多数派と議論するための脅しであり、人間相手に実力行使するのは違う」
「そんなことを思っていたのはジュンだけだ。もしかしたら俺たちも言っていたかもしれないが、それは建前だ」
「何だと? というか、敬語はどうした?」
「もうジュンに建前を取り繕う必要はなくなった。しかし、ジュンをないがしろにするつもりはない。感謝しているよ。後はジュンの好きにしたらいいよ」
再び建前と本音の違いを目の当たりにしました、そういえばこういう奴だったかとジュンは諦めました。仲間ではなく敵に回すと厄介なものだ。
「後はって……何をするつもりだ?」
「今の祭りを良しする奴らをぶっ殺してやる。このイカれた祭りで何人の人が犠牲になったのかわかっているのか、ってやつだ。まぁ、やつらは祭りで死ぬのを良しとする考えだから、俺たちに殺されても文句言わないだろう」
「そんなことしていいのか?お前たちもそいつらや化け物と同じ人殺しになるんだぞ?」
「そんなことは分かっている。部外者は黙っていろ!」
「部外者じゃない。共鳴の能力を教えたのは僕だから」
「それだけで関係者面するなよ。この街で暮らしてきた者にしかわからないことがあるんだ。しかし、協力してくれたことは事実だから感謝している。だから、ジュンの命は助けてやるから、混乱になる前にこの街から出るんだ」
悪しき王が親しきものを情けで見逃すように命令してきます。ダインは側近に裏切られた王のように威厳なく出入り口へまっすぐ進みます。出入り口を遮っていた警備隊は全滅してフリーパス状態でした。
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