第2話1-1
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「……以上です。何か質問はありますか?」
ダイダラの街にある学校では、授業が行われていました。そこではこの街の歴史を年配の女性教師が教えているところでした。ロングで灰色の髪の毛にやせ細った体つきの彼女に対して、机に座っている生徒たちのうちの1人が手を挙げて質問しました。
「先生、質問です! どうやったら大樹に近づく許可を得られるのですか?」
その男子は青い髪と目をしていました。齢10で、薄い青色の服と濃い青色のズボンを身につけていました。そんな男子生徒に女性教師は返事します。
「ジュンくん、先生の話を聞いていましたか?」
「はい! だから、行き方を教えて欲しいです!」
教師の静かな言葉に対して、ジュンは元気に答えました。周りの生徒たちはクスクスと笑っていました。教師は困った顔をします。
「先生はね、行ってはいけませんと教えているのです。だから、行き方は教えません」
「でも、行き方を教えないということは、行き方はあるんですね?」
「行き方はありません。仮にあっても、行ってはいけません」
「どうしてですか? きちんと納得がいく理由を教えてください。ありきたりな理由ばかりで、僕は嫌です」
「ああ言えばこう言う人ですね。罰として『水持ち』としておきなさい!」
水持ちとは、水を手のひらに注いでこぼさないようにすることです。こぼれないように集中力を高める、手を水平に固定して体幹を刺激するなどの効果があるものです。もちろんこぼしたらダメです。
「あいつ、また怒られてやんの」
「大樹に行くなって何回言われたらわかるんだよ」
「あんなやつ、勝手に行って勝手に死んできたらいいのに」
陰口を叩くものたちがいました。面向かって悪態をつくものもいました。ジュンに優しい言葉をかけるものはいませんでした。
「ジュン、この紙に反省文を書いてくるように」
「はい、先生」
ジュンはクラスから浮いた存在でした。ダメだと言われている大樹への興味のせいでハブられているのか、周りからハブられているから大樹に興味を持ったのか、どちらが先でどちらが後かはわかりませんが自然とこうなっていました。どちらにせよ彼にとって学校は居場所のない場所でした。
庭がある木造一軒家。
「まったくもう、勝手に行けばいいんだろ!?」
ジュンは帰宅後すぐに庭の木を高枝枝バサミで整えていました。家の手伝いということで、最近しているのです。今日の分をさっさと終わらせました。
家ですることを終わらせてスッキリしたところで、大樹へ向かいました。以前から用意していた青いリュックを引っさげて家を出ようとしました。家族に見つかっては面倒くさいと思い、息を殺し周りを見渡しながら忍び足で進みました。
「こら、どこに行くの!?」
家のドアを開けると、母親が立っていました。青髪長髪でありふっくらとした三段腹を青い作業着で隠していました。家の生垣や庭の木々を電動ノコギリで整理していたのです。
「母さん……友達のところだよ」
「嘘おっしゃい! そんな荷物で友達の家に行くわけないでしょ? 大樹に行くつもりでしょ? 行ったらダメよ、死んでしまうわよ」
ジュンはパンパンのリュックに高枝枝バサミを持っていました。リュックだけなら友達のところへ行く発言は通用するし、高枝枝バサミだけなら庭の手入れの手伝い発言で通用します。しかし、両方の所持は通用しませんでした。
「ジュン、何回も勝手に大樹に行こうとするんじゃありません。その度に周りに迷惑をかけているのよ。この前も警察に迷惑かけて。お母さんたちを心配させないで」
「うっさいな、別に僕がどうなってもいいだろ」
ジュンは聞こえないように顔を母親から逸らしながら言いましたが、あからさまに聞こえる声量になっていました。この言葉に母親はカチンときました。
「いいわけないでしょ! 母さんたちはどれだけ心配しているかわからないでしょ!? 他の子がどうなろうが知ったことないけど、自分の子だけは大切なのよ、親というものは」
「僕は大丈夫だから、死にはしないから、黙ってて」
「仮にジュンが大丈夫だとしても、周りがそう思わないの。ジュンのことを約束事を破って大樹に勝手に言ったものとして、ウイルスのように避けて扱うことになるわ。ジュンが思っている以上に周りの目は怖いのよ」
「そんなのいつも経験しているよ。学校で周りから無視されているんだ!」
ヒステリック口調の母親に対して、最初は抑え気味だったジュンも相乗的に声を荒らげました。そして、すぐに黙っていた自分の学校での隠し事をついバラしてしまったことに悔やみました。親にバレたくない心情です。
「――知っているわよ。でも、実際に行ったら、もっと大変よ。昔大樹に行った人が周りから虐待され殺され……」
「知っているよ! 何回も聞いたよ、そういう話は。でも、僕は大樹に行きたいんだ」
「ダメよ。絶対に悪い事が起きるわ」
「……そんなことわからないだろ!?」
「いーえ、許しません。没収します」
「あー、やめろよ」
ジュンは荷物を奪われました。自分の隠し事がバレたことも、それが自分の自己申告の前にバレていたことも、そんなことは些細なことであるとスルーされたことも関係なく、起きたことは旅の妨害でした。そのまま母親が荷物を隠し、さすがに荷物なしではジュンも旅に出ることを一時中断しました。
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