6-11. この神聖なサイクル

 東京のホテル!?

 それは想像もしなかったプレゼントだった。懐かしい日本に戻れる喜びで俺はちょっとウルウルしてしまった。

 日本の快適なホテルで休めるなんて……。さっきチラッと見た東京タワーも、もう一度ゆっくりと見たい……。


 ただ、一人で行ってもつまらない、俺はおずおずと聞いてみた。

「あのぅ……。妻も……、一緒でいいですか?」

「もちろんいいわ。でも……娘さんも……よね?」

 そう言ってドロシーの方を見た。


「え? 娘?」

「ここにもう居るわよ」

 そう言ってドロシーの下腹部を指さした。

「えっ!?」「へ?」

 俺はドロシーと見つめ合った。

「昨晩……。ずいぶんお楽しみ……だったみたいね」

 ニヤリと笑うヴィーナ。

 俺たちは真っ赤になってうつむいた。


「初夜なんだもの、当然よね。初夜ベビー、いいじゃないの。結構楽しみな女の子よ」

 俺はまだ父親となる心の準備が出来ておらず、面食らっていたが、レヴィアとアバドンに、

「やりおったな、お主! おめでとう!」「おめでとうございますー!」

 と、祝福され、これが生命の摂理せつりだということに気が付いた。

 仮想現実世界だろうが何だろうが、出会い、愛し合えばまた新たな生命の可能性が花開くのだ。そうやってこの世界は回っている。この神聖なサイクルに加われたことをしみじみと嬉しく思い。俺はドロシーを見つめた。

 ドロシーは赤くなりながらも、うれしそうにほほえんで俺を見ている。そして、お互いうなずき合った。


「……。頑張って立派な子に育てます」

 俺は力強くヴィーナに宣言した。


「ふふっ、がんばって! はい、うちのスタッフセットね」

 そう言って、ヴィーナは最新型のiPhoneとクレジットカードと名刺を俺に渡した。

「え!? いいんですか?」

「あなたはもう、この宇宙をつかさどる『株式会社DeepChild』のスタッフ。自信持ちなさい。そのカードは利用限度額無しのブラックカード。コンシェルジュに電話すれば何でもかなえてくれるわよ」

「うはぁ……。え? 幾らまで使っていいんですか?」

「日本経済がおかしくならない範囲で使ってね」

 ヴィーナは美しい琥珀色の瞳でパチッとウインクした。


 俺は絶句した。何億円使ってもいいらしい。黒光りするチタンのカード。それは俺の想像を超えたパワーを秘めた重さがあった。


「ドロシー、新婚旅行は東京になったよ」

 俺はニッコリと笑いながら話しかける。

「東京?」

 首をかしげるドロシー。


「俺の産まれた街さ。俺、実はこの星の産まれじゃないんだ。今まで黙っててゴメン」

「……。そうじゃないかと思ってたわ。院長もそんなこと言ってたし……」

「ゴメンね。詳しくは東京のレストランで話すね」

「うん、全部教えて!」

 ドロシーはうれしそうに笑った。

「レヴィア様、アバドン、研修が終わったらゆっくり食事でもしましょう」

「待っとるぞ!」「楽しみです! グフフフ」


 俺たちのやり取りを微笑みながら見ていたヴィーナは、

「それじゃ、しゅっぱーつ!」

 そう叫んで、ビシッと扇子を高々と掲げた。




------------------------------------------------------------------------------------

■作者コメント

いよいよエンディングまであとわずか、

皆さんの応援でここまでやってこられました。

ありがとうございました。

心より御礼申し上げます。


美奈先輩やシアンは姉妹作の


ヴィーナシアンの花嫁 ~シンギュラリティが紡ぐ悠久の神話~

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892348682


こちらの登場人物です。

彼らに興味がある方はぜひご覧ください。


なぜ、美奈先輩がクローンなのか、シアンがなぜ宇宙最強なのかも……分かるかもしれません。


それではあともう少しお付き合いください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る