6-7. 空飛ぶ伝説の宮殿

 しばらくして吹雪が収まり、ヴィーナが言った。

「ふふっ、もういいわよ!」

 目を開けると、巨人は居なくなり、宙を舞っていた女性たちも皆フロアに降りて自由に動いていた。それぞれ、長きにわたる異常な拘束からの解放に感激している。

 長き囚われの時を経て、今、彼女たちは自分の人生を取り戻したのだった。喜び、抱き合う彼女たちの歓喜の声は胸に響く。

 あの、赤いリボンだけのブラジャーをしていた子も喜んで抱き合っている。俺は思わず涙ぐんでしまった。


「良かった……」


        ◇


 ドロシーはビキニアーマーで褐色の肌の女の子を見つけると駆け寄った。

「あのぅ……」

 褐色の彼女は不思議そうにドロシーを見つめ、言った。

「どなた……ですか?」

「覚えてないと思うのですが、実は私、あなたに助けられたんです。私だけでなく、あなたの勇気でみんなが救われました」

 そう言いながら、ドロシーは涙をポロリとこぼした。

「え? 何のこと? ヌチ・ギの野郎はいつかぶっ飛ばしてやると思ってたけど、ずっと動けなかったのよ?」

「その想いに……、助けられました……、うっうっうっ……」

 ドロシーは感極まって泣き出してしまった。

「おいおい……」

 褐色の彼女はちょっと困惑したが……、優しくドロシーを抱きしめた。

「良く分かんないけど、ここにいるみんなは私が助けたってこと?」

「うっ……、うっ……。そうなんです」

「ははっ、そう言われると悪い気はしないね」

 そう言ってドロシーの頭を優しくなでた。

 ドロシーは、彼女のしっとりとした柔らかい肌に温められ、心から安堵した。


 褐色の彼女は周りを見回し、

「あれ? 男が一人いるぞ……」

 と、つぶやいた。

 すると、ドロシーは急いで離れて、

「あ、あの人はダメです!」

 と言って、真っ赤になった。

 褐色の彼女は、

「あはは、取らないわよ」

 と、うれしそうに笑った。


        ◇


 ヴィーナは歓喜の声の上がる彼女たちをうれしそうに眺め、

「じゃぁ、レヴィア、彼女たちをねぎらいなさい」

 と、指示した。

「ね、労うってこんなにたくさんをどうやって……?」

 青くなるレヴィア。

「ん、もうっ! 役に立たないわねっ!」

 ヴィーナはそう言うと扇子をぐるっと回した。


 ズズーン!

 轟音を立ててホールの上半分が吹き飛んだ。


 いきなり現れた青空に唖然あぜんとする俺たち。

 陽が傾いてきて、遠く南アルプスの山々もかげって見える。


「シアン、船呼んで、船」

 ヴィーナはシアンに声をかける。

「まーかせて! きゃははは!」

 楽しそうに笑うとシアンは腕を振り上げ、不思議な踊りを踊った。

 すると、空に漆黒の闇がブワッと広がり、ウネウネと動き始める。何だろうと思ってみているとやがてそれは空を覆いつくす巨大な影となり、次の瞬間、ズン! という重低音と共に巨大構造物が姿を現した。


「えっ!?」

 ヴィーナは素っ頓狂とんきょうな声を上げる。

 その巨大構造物は一つの街がすっぽりと入りそうなサイズで、ゴウン、ゴウンと重低音を発しながらゆっくりと頭上を動いている。


「あんた! これ、私んじゃない! 私が言ったのは『船』! こないだ作った宇宙船呼べって意味よ!」

 ヴィーナはシアンに怒る。どうやらシアンはヴィーナの自宅を持ってきてしまったようだ。


「あれ? きゃははは!」

 わざとやったのか何なのか、シアンはうれしそうに笑った。

 巨大構造物は前方上側がガラス造りの巨大パビリオンのようになっており、下半分と後部は純白で全面に宝石がちりばめられていた。それはまるで真っ白な砂浜にルビー、サファイヤ、エメラルドの巨大な宝石をばらまいたような質感で、宝石は自らもキラキラと発光しながら美しい輝きを無数に放っていた。そして、金色のラインが優美に船首から後部にかけて何本か走り、まさに空飛ぶ宮殿というおもむきだった。

 これがヴィーナが住む居城……、俺はそのあまりの現実離れした美しさに言葉を失った。

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