3-8. 神代真龍の逆鱗
食後にもう一度海を遊泳し、サンゴ礁と熱帯魚を満喫した後、俺たちは帰路についた。帰りは偏西風に乗るので行きよりはスピードが出る。
鹿児島が見えてきた頃、ドロシーが叫んだ。
「あれ? 何かが飛んでるわよ」
見るとポツポツと浮かぶ雲の間を、巨大な何かが羽を広げて飛んでいるのが見えた。
鑑定をしてみると……。
レヴィア レア度:---
神代真龍 レベル:???
「やばい! ドラゴンだ!」
俺は真っ青になった。
レア度もレベルも表示されないというのは、そういう概念を超越した存在、この世界の根幹にかかわる存在という事だ。ヌチ・ギと同じクラスだろう、俺では到底勝ち目がない。逃げるしかない。
俺は急いでかじを切り、全力でカヌーを加速した……。
「きゃぁ!」
ドロシーが俺にしがみつく。
直後、いきなり暗くなった。
「え!?」
上を向くと、なんと巨大なドラゴンが飛んでいた。巨大なウロコに覆われた前足の鋭いカギ爪がにぎにぎと獲物を狙うように不気味に動くのが目前に見える。
さっきまで何キロも離れた所を飛んでいたドラゴンがもう追いついたのだ。
逃げられない、これがドラゴンか……。俺は観念せざるを得なかった。
「いやぁぁぁ!」
ドロシーは叫び、俺にしがみついてくる。
やがてドラゴンは横にやってきて、3メートルはあろうかと言う巨大な
「ひぃぃぃ!」
あまりの恐ろしさにドロシーは失神してしまった。
「おい小僧! 誰の許しを得て飛んでいるのじゃ?」
頭に直接ドラゴンの言葉が飛んでくる。
「す、すみません。まさかドラゴン様の縄張りとは知らず、ご無礼をいたしました……」
俺は必死に謝る。
ドラゴンは口を開いて鋭い牙を光らせると、
「ついて来るのじゃ! 逃げようとしたら殺す!」
そう言って西の方へと旋回した。
俺も渋々ついていく……。この感覚は……そうだ、スピード違反して白バイにつかまった時の感覚に似ている。やっちまった……。
ドラゴンは宮崎の霧島の火山に近づくと高度を下げていった。どこへ行くのかと思ったら噴火口の中へと入っていく。ちょっとビビっていると、噴火口の内側の崖に巨大な洞窟がポッカリと開いた。ドラゴンはそのまま滑るように洞窟へと入っていく。俺も後を追う。
洞窟の中は神殿のようになっており、大理石でできた白く広大なホールがあった。周囲の壁には精緻な彫刻が施されており、たくさんの魔法の照明が美しく彩っている。なるほどドラゴンの居城にふさわしい荘厳な佇まいだった。
しかし、これからどんな話になるのだろうか……、俺は胃がキュッと痛くなりながらカヌーを止め、まだ気を失っているドロシーに俺の上着をかぶせ、トボトボとドラゴンの元へと歩いた。
ドラゴンは全長30メートルはあろうかと言う巨体で、全身は厳ついウロコで
「素晴らしいお住まいですね!」
俺は何とかヨイショから切り出す。
「ほほう、おぬしにこの良さが分かるか」
「周りの彫刻が実に見事です」
「これは過去にあった出来事を記録した物じゃ。およそ四千年前から記録されておる」
「え? 四千年前からこちらにお住まいですか?」
「ま、そうなるかのう」
俺は大きく深呼吸をすると、
「この度はご無礼をいたしまして、申し訳ありませんでした」
と言って、深々と頭を下げた。
「お前、いきなり轟音上げながらぶっ飛んでいくとは、失礼じゃろ?」
「まさかドラゴン様のお住まいがあるなど、知らなかったものですから……」
「知らなければ許されるわけでもなかろう!」
ドラゴンの罵声が神殿中に響き渡り、ビリビリと体が振動する。マズい、極めてマズい……。
返す言葉もなく悩んでいると……、
「……んん? お主、ヴィーナ様の縁者か?」
そう言いながら首を下げてきて、俺のすぐそばで大きな目をギョロリと動かした。
冷や汗が流れてくる。
「あ、ヴィーナ様にこちらの世界へと転生させてもらいました」
「ほう、そうかそうか……、まぁヴィーナ様の縁者となれば……
そう言って、また首を高い所に戻すドラゴン。
「ヴィーナ様は確か日本で大学生をやられていましたよね?」
「ヴィーナ様はいろいろやられるお方でなぁ、確かに大学生をやっていたのう。その時代のご学友……という訳じゃな……」
「はい、一緒に楽しく過ごさせてもらいました」
俺は引きつった笑いを浮かべる。
「ほう、うらやましいのう……。
「え!?」
こんな恐ろしげな巨体が『大学生をやりたい』というギャップに俺はつい驚いてしまった。
「なんじゃ? 何か文句でもあるのか?」
ドラゴンはギョロリと真紅の目を向けてにらむ。
「い、いや、大学生は人間でないと難しいかな……と」
「何じゃそんなことか」
そう言うとドラゴンは『ボン!』と煙に包まれ……、中から金髪でおカッパの可愛い少女が現れた。見た目中学生くらいだが、何も着ていない。ふくらみはじめた綺麗な胸を隠す気もなく、胸を張っている。
「え? もしかして……レヴィア……様……ですか?」
「そうじゃ、可愛いじゃろ?」
そう言ってニッコリと笑う。いわゆる人化の術という奴のようだ。
「あの……服を……着ていただけませんか? ちょっと、目のやり場に困るので……」
俺が目を背けながらそう言うと、
「ふふっ、
そう言いながら腕を持ち上げ、斜めに構えてモデルのようなポーズを決めるレヴィア。
「いや、私は幼児体形は守備範囲外なので……」
俺がそう言うと、レヴィアは顔を真っ赤にし、目に涙を浮かべ、細かく震えだした。
逆鱗に触れてしまったようだ。ヤバい……。
「あ、いや、そのぉ……」
俺はしどろもどろになっていると。
「バカちんがー!!」
と叫び、瞬歩で俺に迫ってデコピンを一発かました。
「ぐわぁぁ!」
俺はレベル千もあるのにレヴィアのデコピンをかわす事も出来ず、まともにくらって吹き飛ばされ、激痛が走った。
HPも半分以上持っていかれて、もう一発食らったら即死の状態に追い込まれた。何というデコピン……。ドラゴンの破壊力は反則級だ。
「乙女の美しい身体を『幼児体形』とは
レヴィアはプンプンと怒っている。
「失言でした、失礼いたしました……」
俺はおでこをさすりながら起き上がる。
「そうじゃ! メッチャ失言じゃ!」
「レヴィア様に欲情してしまわぬよう、極端な表現をしてしまいました。申し訳ございません」
「そうか……、そうなのじゃな、それじゃ仕方ない、服でも着てやろう」
レヴィアは少し機嫌を直し、サリーのような布を巻き付ける簡単な服をするするっと身にまとった。それでも横からのぞいたら胸は見えてしまいそうではあるが……。
「これでどうじゃ?」
ドヤ顔のレヴィア。
「ありがとうございます。お美しいです」
俺はそう言って頭を下げた。
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