1-12. レベル千の猛威

 その日、俺は武器の新規調達先開拓のため、二百キロほど離れた街へ魔法で飛びながら移動していた。レベルは千を超え、もはや人間の域を超えていた。人族最強級の勇者のレベルが二百程度なのだから推して知るべしである。この域になると、日常生活には危険がいっぱいだ。ドアノブなど普通にひねったらもげてしまうし、マグカップの取っ手など簡単にとれてしまう。こないだテーブルを真っ二つに割った時はさすがに怒られた。単に頬杖ほおづえをついただけなのだが……。

 走れば時速百キロは超えるし、水面も普通に走れるし、一軒家くらい普通に飛び越せる。商人が目立ってもしかたないので、みんなには秘密だが、身近な人は気づいてるかもしれない。

 魔法も一通り全てマスターし、移動はもっぱら魔法で飛んで行くようになった。二百キロくらいの距離なら15分もあれば飛んで行けてしまう。すごい便利だし楽しい。しかし、こんなことができるのは世界でも俺だけなので、皆には秘密にしている。飛ぶ時は隠ぺい魔法で目立たないようにして飛んでいる。

 

 大きな川を越え、森を越え、目の前に雪の積もった山脈が現れてきた。山脈を越えるため、高度を上げていく……。

 雲の高さまで上がってきたので、雲の層を抜けるべく雲の中を一気に急上昇した。しばらく何も見えなくなったが、ズボッと雲の上に出て青空が広がった。一面に広がる雲海、燦燦さんさんと照り付ける太陽、なんて爽快だろうか!


「ヒャッホー!」

 俺は思わず叫び、調子に乗ってクルクルときりもみ飛行をした。やっぱり自由に飛ぶって素晴らしい。異世界に来てよかった!


 速度は時速八百キロを超えている。前面には魔法陣のシールドを展開しているが、さすがにこの高度では寒い。俺は毛糸の帽子を取り出して目深にかぶり、手をポケットに突っ込んだ。

 以前、調子に乗って音速を超えてみたが、衝撃波がシャレにならなくて、まともに息ができなくなったので、今は旅客機レベルの速度で抑えている。そのうち、余裕が出来たら宇宙船のコクピットみたいのを作って、ロケットのように宇宙まで吹っ飛んでいきたい。宇宙旅行も楽しそうだし、世界の果てまで20分だ。チートは夢が広がる。


 そろそろ山脈を越えたはずなので高度を下げていく……。

 雲を抜けると森が広がっていた。遠くに目的地の街らしき姿もうっすらと見えてくる。

 その時、ふと、不思議な形に盛り上がっている森があるのに気が付いた。明らかに自然にできたような形ではない。

 俺は不思議に思い、鑑定をしてみた。



ミースン遺跡

約千年前のタンパ文明の神殿



 おぉ、遺跡だ! 俺は速度と高度を落としながら上空をクルリと回り、様子を見てみる。崩れた石造りの建物の上に大木が生い茂っている様子だった。

 俺は着陸出来そうな石積みの所にゆっくりと降りて行く。

 柱だったであろう崩れた石材には細かい彫刻がなされており、高い文化をうかがわせる。しかし、いたるところ巨木の根によって破壊されており、もはや廃墟となっていた。まるでアンコールワットである。

 もしかしたらお宝があるかもしれないと、俺は崩れた石をポンポンと放り、巨木の根をズボズボと引きはがし、入り口を探す。しかし、ガレキをどけてもどけても一向に何も出てこない。これではラチが明かないので、頭にきて爆破することにした。俺は一旦空中に戻ると、遺跡に向けて手のひらを向け、ファイヤーボールの呪文を景気よく唱えた。


 手のひらの前にグォンと巨大な火の玉が浮かび上がり、遺跡に向かって飛んで行く。久しぶりのファイヤーボールだったが、以前と様子が違う。


『あれ……? ファイヤーボールってこんなに大きかったかな?』

 俺が首をかしげているとファイヤーボールは遺跡に着弾、天を焦がす激しい閃光が走り、大爆発を起こした。巨大な白い球体状の衝撃波が音速で広がり、あっという間に俺を貫く。


「ぐわぁぁ!」

 自分のファイヤーボールに翻弄される間抜けな俺。

 吹き飛ばされながら何とか体勢を立て直し、遺跡を見たら巨大で真っ赤なキノコ雲が立ち上っていた。

 唖然あぜんとする俺……。


 ファイヤーボールというのは一般にはささやかな火の玉をぶち当てるような初級魔法である。以前無人島で撃った時も普通の爆弾レベルだった。なぜ、こんな核兵器の様な威力になっているのか……。

 俺はレベル千の恐ろしさというものを身にしみて感じた。ちゃんとしないと街一つが初級魔法で吹っ飛んでしまう。


 爆心地から周囲数キロは木々もなぎ倒され地獄絵図と化していた。石造りの所はあらかた吹っ飛び、崩れたガレキの脇にはぽっかりと黒い穴が開いている。どうやら地下通路のようだ。

 俺はまだ熱気が立ち上る遺跡に降り立つ。周りを見渡すと、まるで空爆を受けた戦場である。焼け焦げた臭いが充満し、石も所々溶けている。気軽に放った初級魔法がこんな地獄を生み出すとは……。俺は背筋が凍った。


 通路の所へ行ってみると、石が不安定な形で入り口を邪魔している。俺はまだ熱い石をポイポイと放って入り口を掘り出すと、中へと進んだ。

 中はダンジョンのように石で作られた通路がずっと続いていた。俺は魔法の明かりをつけ、索敵の魔法で警戒しながら進んでいく。ジメジメとカビ臭く、不気味な雰囲気である。

 しばらく進むと突き当りが小部屋になっていて、中にかすかな魔力の反応が見える。入口には木の扉があったようだが朽ち果ててしまい、残骸を残すばかりである。

 慎重に小部屋の中をのぞくと、そこには台座があって一本の剣が刺さっていた。いかにもいわくありげな剣である。

 鑑定してみると……、


|東方封魔剣 レア度:★★★★★

長剣 強さ:+8、攻撃力:+50、バイタリティ:+8、防御力:+8

特殊効果: 魔物封印


「キタ――――!!」

 ★5の武器は国宝レベルであり、一般に見かけることなどほとんどない。ついに俺は★5に出会うことができたのだ。俺は嬉しさのあまりガッツポーズを繰り返した。


 しかし……である。封魔剣ということは、魔物が封印されているに違いない。

 抜けば魔物は出てきてしまう。誰にも倒すことができず、封印でごまかしたような強敵を呼び起こしてしまっていいのだろうか?

 うーん……

 しばらく悩んだが、俺のレベルはもはや勇者の五倍だ。勇者が五人集まるよりもはるかに強いのだ。どんな奴でもなんとかなりそうな予感はする。

 俺は意を決して剣をつかむと、力いっぱい引き上げた――――。

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