蛇足
今も昔もまぼろし
「ここは……」
かしゃり、かしゃり。ナニカが積みあがって、崩れる音がする。ごうごうと水の音。大きな川。どこもかしもが炎に染まったような、そんな赤に塗れた光景。かけらも心当たりがなかった。
(ゆめ……?)
考え込んでいれば、かんころかん、と些か軽快が過ぎる音を立てて、足下にこぶし一つ分ほどの大きさをした石が転がってきた。
「……石?」
「ぁ、あああ、うぅ、ふ、ふ、はぁあ」
初めに聞こえた音や転がってきた石のもと来た方向。少し離れたところに女性らしき人影があった。ぶつぶつと荒い息の合間に何かを繰り返し呟いているようだった。
「もしかして……せんぱい?」
「う、ゅ、ゆき、ハ、あ」
「やっぱり先輩でしたか! よかったぁ、私ひとりでこんなわけわかんないところにいるなんて、怖くて仕方がなくって──でも、先輩がいてよかったです。先輩がいれば、百人力ですもんね!」
「yき、ぁ、あ……」
「でも意外です、家族とは不仲って聞いてたんですけど──せんぱい? どうかしましたか?」
「ぅ、あ……ッきみ、は」
ぐるぐると鎌首をもたげたソレをどうにか飼い慣らして、微笑む。やっとこちらに意識を向けたその人に、『私』を見ていてほしかった。──どうしても、どうやっても。
「なん、で……キミ、は……きみが、ここに」
「もちろん、センパイがいるからですよ。せんぱいのカワイイ後輩であるスーちゃんは、先輩のことがだーいすきなので!」
「わたしはきみのことを知らない。……そして、君もわたしを知らない、知らないはずだ」
「……ええ、そうですね。まったく、よくやってくれたものです。まさか、私に知らない先輩がいるなんて。先輩って、そんなにおつむは良くなかったと思うんですけど……だれかの入れ知恵ですかね? ニュースを見たときはそりゃあもうびっくりしましたよ。まさかこんなところにいたなんて! ……ね、せんぱい?」
「
「─────────────?」
ぴぴぴぴぴ、とけたたましく朝告げ鳥ならぬ目覚まし時計の癇癪に飛び起き、頭を掻きむしる。
「サイッアクだ……あんな願望、あんな夢なんか、」
誰かの写真で溢れかえり飽和したそこで、場違いにも無造作に置かれたカレンダーが、あれから二年後の日付を指していた。
タブラ・ラサには戻れない 冬村窓果 @Rail47
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