終章 妻は今日もお仕事に励んでいます

#5 妻と私の闘いはこれからも続くようです

 私は柄にもなくやや緊張していた。

 悪の組織ブラックザザーンの司令室。

 今日は、数ヶ月ぶりに開かれる幹部会議の日だ。

「なぁ、なんか知らない顔が増えてないか?」

「そうね……秘石を手に入れて以来、新しく魔人族と融合した人が何人かいるみたいよ」

「はぁ、そう言われるとなんか道義的責任てヤツを感じるなぁ」

 私と美代子が顔を寄せて話をしているとき、美代子の腰のあたりに背後から細い指が這い寄ってきた。

「ひゃ、ひやあぁ!」

 思わず声を上げる美代子に、黒のマイクロビキニにニーハイブーツの娘がところに指を這わせながら耳元で囁く。

「ウフフ、私はナイトキャット。ミスティックムーンねえさまとお会いできるのを楽しみにしていたの。ああ、早く作戦で姐さまと絡み合いたいわぁ」

 ナイトキャットと名乗った娘は扇情的に唇を舐めた。

「あなた、この子怖いわ」

 美代子が私の後ろに隠れる。

「大丈夫だ、たぶん。あまり自信はないが」

 その時、戦闘員が伝令を伝えた。

「只今、大幹部ジェネラルゲソー様が到着なさりました!」

 作戦司令室の扉が開き、金色のジェネラルゲソーが入ってくる。

 幹部達と怪人、戦闘員が整然と両側に並ぶ。

 ジェネラルゲソーが席に着いた。

「皆、ご苦労であった。今回は数ヶ月ぶりの幹部会議になるが、秘石奪還作戦の成功により、我が陣営にも新たな戦力が加入している。また、敵対勢力のスカイチャージャーについてはリーダーの離脱により、ここ最近は目立った妨害工作は受けていない」

 戦闘員から、イーッ、イーッと歓声が上がる。

「では新たな戦力を紹介しよう。まずはナイトキャット、諜報、攪乱等を主に担当する予定である」

「ンフ、皆さんよろしくねぇ」

 ビキニからこぼれ落ちそうな胸元を見せつけ、ナイトキャットが深くお辞儀をした。

 戦闘員のイーッが最高潮を迎える。

「……続いて、作戦参謀として参加するマフラー仮面DXだ」

「あー、ええと、この場で言うのもなんだが、俺は正式な加入ではなく、案件(作戦)毎のアウトソーシングという立場になるので、よろしく頼む」

 言ってることは嘘ではない。会社が副業を認めることになったので、私はフリーのプロジェクトコンサルタントという肩書きで申請をしている。

「さて、それでは早速各自に次の作戦を伝える。まずミスティックムーンはナイトキャットと共に、新たなリーダーが加入したとの情報があるスカイチャージャーに威力偵察をかけよ。作戦参謀はマフラー仮面DXだ」

「アハァ、姐さまと一緒だなんてジュンときちゃう」


 ……コイツかよ。むしろマッスルオオカミを付けてくれねぇかな。


 私の思惑とは関わりなく、作戦の決行が言い渡された。


 ※※※


 私の眼前には、スカイチャージャーと対峙する戦闘員とナイトキャットの姿があった。

 あのふざけた痴女は存外身体能力が高く、今のところは上手く立ち回っている。

 美代子はやや落ち着かない様子でそれを見ていた。

「私も行かなくていいかしら?」

「まだ新しいレッドの実力が未知数だ。もうしばらく様子を見よう」

「……」

「いいか、美代子?」

「……どうにも退屈じゃのう」

「アドギラ!? 急に出てくるなよ、まだ出番じゃないぞ」

 美代子――アドギラが私の首筋に腕を絡めてくる。

「ふふふ、愛しの旦那様は冷たいのう」

「俺は美代子の夫であってお前のではない。だいたい、この前までギャン泣きしてた奴がずいぶん余裕じゃねーか」

「ハッ、そんなことは我の中でもはやカタが付いておるわ。ギリエムと今生では結ばれぬのなら、次の生を待つのみよ。なに、6千年以上待ったのだ。このミヨコの生が尽きる程度の時間、なんということはない」

 アドギラは不敵な笑みを浮かべる。

「……女の割りきり方っておっかねーな」

「しからばその間の手慰みに、我もおぬしの女房としてしばし今生を楽しむことにした」

「は? なんだそれ?」

「ふはは、女房が2人おるようでたぎるであろう」

「ふざけんな、さっさと美代子に替われ!」

ういのう。同じ身じゃ、恥ずかしがらなくてもよいのだぞ」

「あのなぁ」


 その時、私達の元にナイトキャットがボロボロの状態で転がり込んできた。

 上のビキニは千切れて、手で押さえている。

「姐さま、ごめんなさい、私では勝てなさそうですぅ」


 いや、お前も負けるならコンプラ的にセーフな負け方しろよ。


「まぁ可哀想な子猫ちゃん。あなた、今度は私が行くわ」


 ん? 今度は美代子なのかよ? はぁ……なんかややこしいが。


「よし、やろう、美代子」

「ええ、あなた」

 美代子が戦場に向けて跳躍する。


 私達夫婦の闘いはこれからだ……たぶん。



 (妻が悪の組織に魔改造されました 終)

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