妻が悪の組織に魔改造されました
椰子草 奈那史
1章 ある日妻が美しき最強の女戦士になります
#1-1 妻が悪の組織に魔改造され困惑してます
それは、私達家族の人生を一変させた日だった。
私、
しかし、家族の団らんもつかの間、突如現れた黒ずくめの集団に私たち家族は拉致されてしまった――。
私は今、四方をコンクリートで固められた10畳ほどの広さの部屋にいる。
部屋の入口は1カ所のみで、そこは厚い鉄製の扉で閉ざされている。窓は小さなものが1つだけ天井付近にあるが、床からは3メートル以上の高さがあり、しかも太い鉄格子がかけられていた。天井の隅の方には古びたスポットライトのようなものがあるが、スイッチらしきものは見あたらなかった。
私の傍らには一樹が膝を抱えて座っている。
気丈な子だから何も言わないが、不安なのは間違いはないだろう。
ただ、もっと気がかりなのは妻の美代子のことだった。
美代子は、何故か私達とは別の所に連れて行かれてしまい、いまだに戻ってきていない。
酷いことをされてなければいいが……。
私は不安を抱えたまま、ただ待ち続けるしかなかった。
……あれから何時間たっただろう。
スマートフォンや脱出に役立ちそうなものは全て没収されてしまい、手元に残されたのはスナック菓子やペットボトルなどの食料品だけだから、正確な時間はわからないがおそらく5~6時間は経っているだろうか。
その証拠に、少し前までは明かりが差し込んでいた天井近くの窓からは光も消え、ただの暗い穴に変わった。それに伴い、他に光源のない部屋はもう隣にいる一樹の顔も見えないぐらいの暗さになっていた。
この先どうすべきか途方に暮れていると、扉の向こうからこちらに近づいてくる複数の足音が聞こえてきた。
足音は扉の前で止まり、ガチャガチャとカギを回す音がする。
「お父さん……」
一樹が怯えたように私にしがみついてくる。
「大丈夫だ。お父さんの後ろにいなさい」
私は一樹を自分の背後に隠して、扉の方を凝視した。
やがて、重い音を響かせて扉が開くと部屋の中に微かな光が射し込んできた。とはいえ外の通路もそれほど明るくはなく、数人ほどのシルエットが確認できただけだった。
その中の1人が、部屋の中に崩れるように倒れ込む。
「シバラクコノ中デ待ツノダ」
それだけ告げると扉は再び閉じられた。
再び真っ暗になった部屋の中で、先ほど倒れた何者かの弱々しいうめき声が漏れる。
「う、うーん、ここは……」
「もしかして、美代子!? そこにいるのは美代子なのか?」
「あ、あなた?」
「美代子!」
私は暗闇の中を手探りで這い進む。
闇雲に伸ばした手の先に、人の肩のような感触が当たった。
「大丈夫か? 美代子」
そのまま身体ごと引き寄せると、頭を私の膝の上に乗せる。
「いったい何をされたんだ?」
「わからない……。なにか手術室みたいなところで、誰かが、メスのようなものを……」
クソ、やつら美代子に何をしたんだ!? だがこう暗くては何も確認できない。
何か、何か明かりになるものは――。
その時、私は足の付け根の辺りに何か硬いものがあることに気がついた。
ポケットに手を入れて探ると、それは古びたジッポーライターだった。
しめた。奴らはこんな
おかげで妻に内緒で吸っていたタバコ用のライターに気づかれずに済んだ。
「美代子、いま灯りをつけるからな」
何度か不発が続いた後で、ようやく小さな炎が灯った。
私の手元を中心に部屋の中がぼんやりと照らし出される。
「美代子!」
そこには、見慣れたいつもの美代子の顔が――。
美代子が……。
…………………………………………誰?
私の膝の上に頭を乗せているのは、滑らかな手触りの銀色の髪に細い輪郭とすっと通った鼻筋、そして長いまつげに吸い込まれそうな大きな目をした、ハーフのモデルかと思うような若く美しい女性だった。
「よかった。もう会えないかと思ったわ」
女性が微笑む。
いや、初見です。知らないです。
「……えーっと、あなたは、どちら様でしょうか?」
私の言葉に、女性が気だるそうに身を起こす。
「いやねぇ、自分の奥さんの顔を忘れちゃったの? わたしよ。美代子よ」
いや、憶えてます。憶えてるから困惑してるんです。
私は、隣の一樹と顔を見合わせた。
一樹が小さく首を横に振る。
だよな。父さん間違ってないよな!?
「まぁ! 一樹も無事だったのね。よかった」
一樹に気がついた女性が、一樹を抱えこむように抱きしめた。
一樹は顔を真っ赤にして、引きつったように身を固くする。
「待った。待ちなさい、子供には刺激が強すぎる!」
「何を言ってるの? 母親が子供を抱きしめてるだけじゃない」
「いやいやいや、自分の格好をよく見てみなさいよ」
女性が怪訝な表情のまま、自分の体に視線を落とす。
「あらやだ! なに、この服!?」
女性は、大きく胸元が開いた黒いレザーのボディスーツに、太腿の半ばまで覆うニーハイブーツという、正直なところ職業:女王様といわれても違和感のない出で立ちだった。
少しのあいだ、お腹のあたりを触ったり手足を見つめていた女性が顔を上げる。
「ねぇ、あたし少し痩せたかしら?」
そこ?
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