8 暗闇を照らす新入部員

 時刻は七時をとうに過ぎている。

 エコモード以降は申請がなければ部活ができないはずだから、きっと凛子りんこかブドウ君か――そういえば奈々千ななちもまだ残ってると言ってたか――誰かしらが申請をしたのだろう。


 暗い廊下の先にコラボ室が見えた。

 戸口が開いたままだと遠目にも判ったのは、コラボ室から廊下に向けて太い光の筋が差していたからだ。


 ふと疑問が起こる。


「私、本当にディレクターになって大丈夫なの? その、人数的な意味で」


 手放しで喜んでいていいものか。

 部員が少ないのはかねてからの問題であるし、奈々千曰くクリエイターは頭数を必要とするらしい。であれば、灯里あかりが抜けてしまうと残されたクリエイター ――奈々千を筆頭にグミや梅田、彼女らにその分のしわ寄せがいくのは当然な訳で。


 しかし凛子は平然と答える。


「その点は心配いらないわ」


 ――いや、平然ではない。すこし……


 笑っている?


 というか――


(あ、この笑い方……)


 にんまりと目を三日月にした魔女めく微笑み。なまじ廊下が暗いだけに不気味である。これは何か裏があるときの笑い方……。

 灯里はその笑みの恐ろしさを知っている。彼女の計算高さはさっき身をもって知ったばかりだった。


 思わず灯里は息を飲む。

 私に災いが降り懸からなけりゃいいけれど――そんなことを胸中ひっそりと祈った。


「ひとりね、特例で入部が決まったの」


 そう言って凛子は立ち止まった。

 そこはちょうどコラボ室の前で、灯里は親友越しに青白い電光を直に目に入れてしまい、くらんだ。顔を背けた先がちょうど凛子の手元で、彼女はその手にプリントを持っている。


 目を凝らすとそれは『仮』入部届けであった。


 凛子は、すっと仮入部届けを灯里の面前に突きつける。

 コラボ室から差す光を受け、仮入部届けは実によく見えた。そこに書かれた名前に灯里は目を丸くした。


「――え? でもこれって……ダメ、絶対、そんなの、」


「なんにもダメじゃないわよ」


 その時だった。

 灯里の後方、廊下のずっと奥から楽しげな話し声が届く。

 その二つの声の主を、灯里は知っている。


「残念だけど、灯里。部活動への入部は、本人の希望と保護者の同意、それから顧問の許可があれば事足りるの。つまり――」


 徐々に近づく二つの影。

 廊下の奥から現れたのは奈々千と、


 あれは……、



「――姉の同意は必要ないわ」



 織部光里。 ――私の妹だ。

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