第24話
『神ゲー』のスキルがあれば、武器の耐久力が無くなるということがわかった。
それはかなり便利な効果だし、石柱をまっぷたつにできた興奮ですっかり忘れていたのだが、腹が減っていたことを思い出す。
コレスコも「ハラヘッター! ハラヘッター!」とうるさい。
とりあえずそのへんの森に立ち寄り、木の実か果物でも探して腹の足しにでもするか……。
と思っていたら、俺の視界に突如、十字の光が現れた。
その光の下には、
『イベント:リーホールの村』
とある。
すぐにテュリスが気付いた。
「おっ、イベントを見つけたようやな!」
「なんだそれ」
「イベントが起こる場所の近くを通りかかると、そうやって教えてくれるんや」
「イベントって、マジハリの街でやった『わらしべイベント』みたいなもんか?」
「うぃ、そうや。イベントといっても『わらしべイベント』みたいな平和なものから、いきなり戦闘に巻込まれるものまで様々やけどな。
ちなみにイベントはストーリーを進めるのに必須のものと、別にやらんでもいいもののふたつに分かれるんや。
いま出てるのはやらんでもええイベントみたいやけど、やっとくとええことがあるよ。
イベントをこなすとお宝が手に入ったり、経験値がもらえたりするんやで」
イベントの案内を示す光は、街道から外れた『リーホールの村』を示していた。
それで俺はイベントの内容を直感する。
リーホールは山の麓にある村で、別名『聖女の村』と呼ばれている。
その名のとおり、村人の半数が聖女なんだ。
近くの山は『聖なる山』と呼ばれており、女神が降臨する山として聖女たちは崇めている。
しかしその山には多くのモンスターが棲み着いていて、増えすぎたモンスターが年にいちど大移動をするんだ。
その大移動の際、モンスターたちはリーホールの村を襲う。
そのため、大移動の時期になると村の聖女たちは別の場所に避難するか、冒険者や勇者に頼んで撃退してもらうんだ。
今がちょうどその時期なので、おそらく『イベント』というのはモンスターの大移動から村を守る事だと思う。
いずれにしても『イベント』がどういったものなのか気になる。
しかし立ち寄ると、かなりの寄り道になってしまう……。
コレスコとシャイネに相談してみたら、
「好きにすれば? あーしはオッサンについてくし」「はい、どこまでもおともさせていただきます!」
ふたりとも反対しなかったので、『リーホールの村』に行ってみることにする。
聖女の村にいくとわかると、シャイネは白い頭巾のようなものを深く被っていた。
「シャイネ、そんなの被って顔をわかりにくくすることないじゃん。
聖女の村なんだから、大聖女のシャイネが行ったら大歓迎っしょ」
「はい、そうかもしれません。
わたしがおうかがいしたら、むらのかたたちにおきをつかわせてしまいます。
わたしのせいでむらのにちじょうをみだしてしまうのは、よくないとおもいまして。
それに、わたしはまだまだみじゅくです。
できればひとりの『せいじょ』として、このくにのありのままをみてあるきたいのです」
小学生とは思えない思慮深さに、俺とコレスコは思わず「ほぉ~」と感嘆してしまう。
あと白頭巾姿のシャイネは童話の絵本から飛び出してきたみたいで、めちゃくちゃかわいかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『リーホールの村』に着くと、村はものものしい雰囲気に包まれていた。
村のまわりは尖った木の柵で覆われ、村人たちはみな武装している。
俺の予想どおり、モンスターの大移動がこれから起こるのだろう。
そしてこれだけ準備が整っているということは、村から逃げずに迎え撃つつもりなのだろう。
馬車で近づいていくと、俺たちのいでたちを見て門番は歓迎してくれた。
「ああ、村を守るために来てくださった勇者様のお仲間ですね!?
どうぞ中に入ってください! すでに勇者様は広場のほうで戦いの準備をされています!」
俺は勇者の仲間ではないが、まあいいかと思って入村する。
馬車を降りて村の広場に向かうと、そこにはシュパリエを中心とした宴が催されていた。
戦いの前だというのに、飲めや歌えの大騒ぎ。
シュパリエは高い位置の玉座に座っていて、まわりに若い聖女たちをはべらせていた。
「この僕が来たからにはこの村の安全は保証されたようなものだよ。
むしろこの戦いはキミたち聖女の試練といったほうがいいかもしれないな。
しっかり僕を援護できた聖女は、今夜、特別に僕の夜伽として使ってあげるよ」
するとまわりにいた聖女たちは興奮して、「キャーッ!」と歓声をあげている。
ああいったリアクションこそが、勇者に対しては一般的なんだ。
俺たちは宴のすみっこのほうで、聖女たちが出してくれた食事にありつく。
気付くとシャイネがいなくなっていたのだが、彼女はいつのまにか村の聖女たちに混ざってかいがいしく働いていた。
それからしばらくして、村の見張り台の鐘が鳴った。
「山のモンスターたちが移動を始めたぞーっ! 迎撃準備だーっ!」
宴を楽しんでいたシュパリエをはじめとする勇者パーティは総勢で40名ほど。
みんなほろ酔い気分で立ち上がると、ゆるゆると戦いの準備を始めた。
大移動してくるモンスターは雑魚ばかりだと、かなりの余裕をかましている。
リーダーであるシュパリエは村人を含めた全員を集めると、こう宣言する。
「これから我々は、村の外でモンスターの襲来を迎撃する!
村の聖女たちはこの僕の援護をするんだ!
他の者たちはほっといていいから、この僕だけに治癒の祈りを集中させてほしい!
わかったね? 僕の華麗な剣技に見とれてちゃダメだよ?」
集まった聖女たちはまたしても「キャーッ!」と大歓声。
隅のほうで演説を聞いていた俺は「アホくさ」と思わず口に出してしまう。
するとその声が耳に届いたのか、シュパリエは俺を見る。
「おやおや、誰かと思ったらオッサンと頭のおかしい魔女じゃないか。
おこぼれにあずかろうと、こんな所までついてくるだなんて、まるでハイエナだね。
いっちょまえに、ちいさな聖女まで連れて……」
シュパリエは俺に寄り添うシャイネに興味を持つ。
「しかしそうやって頭巾で顔を隠しているということは、きっと不細工に違いない。
不細工な聖女ほど哀れなものはないね、だって聖女みんな勇者に仕えたくて聖女になっているのに、その夢が永遠に叶わないのだから……。
ならば今日だけはその儚い夢を叶えてあげよう!
そこの聖女! 戦いとなったらこの僕を援護するんだ!
夢にまでみた勇者の戦いを援護をさせてあげよう!」
するとシャイネはうつむいたまま、キッパリとこう言った。
「おことわりします!」
「なに?」
「わたしがおつかえするゆうしゃさまは、おにいちゃんだけです!
それに、わたしはたしかにひとさまにおみせできるようなおかおではありませんが、せいじょにたいせつなのはおかおではありません!
ゆうしゃさまをおもう、こころこそがたいせつなのです!」
「ふふっ、やっぱりきみは顔が不自由な聖女なんだね。
そこにいるブサイクなオッサンの妹だけある。
それどころかこの僕があげたせっかくのプレゼントをフイにするだなんて……。
どうやらそこにいる魔女と同じで、頭がイカれているようだ」
その一言に俺だけでなくコレスコまで、野生のサルみたいにとびかかっていきそうになる。
しかし、
「いいえ、それだけはちがいます! おにいちゃんはイケメンです!
それに、コレスコさんはイカじゃありません!
びじんだし、おむねもおおきいし……わたしがおてほんとするギャルです!
そんなことをいうあなたのほうが、よっぽどブサイクで、よっぽどイカですっ!!」
……ビシィィィィーーーーーンッ!!
指さしまでして力強く言い切る我が妹の不思議な迫力に、思わず足が止まってしまった。
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