第3話

 ブレイ レベル2

  HP 8 ⇒ 12

  MP 6 ⇒ 8

  筋力 4 ⇒ 6

  知力 3 ⇒ 4

  俊敏 4 ⇒ 5

  魅力 1

  CP -2



 意味不明の文字だらけの窓を前に、呆気に取られる俺。

 テュリスは得意気な羽音とともに説明しはじめた。


「これはステータスウインドウといって、旦那の状態を示したものやな。

 『ブレイ』ってのは言うまでもなく旦那の名前のことで、レベルは強さの目安みたいなもんやな。

 旦那はレベルが2になって、初めて強くなったんや!」


 遠くから聞こえる声のように、ぼんやりとテュリスの声を耳に入れる俺。


「この俺が、強く……?」


 テュリスはすべてのステータスの説明を終えたあと、プーックスクスと笑った。


「しっかし旦那、いままでHPが1桁やったんやなぁ。

 ピッカピカの小学1年生クラスやん! こんなんでよういままで生きてこられたなぁ!」


「うるさいな」


「さーて、説明はこれくらいにして、チュートリアルの続きといこうやないか!

 とりあえずしばらくはこの森でモンスターを倒して、レベル上げをするんや!

 無駄なレベル上げは、RPGの基本やからな!」


 なんだ、RPGって? と思ったが、そのまま流す。

 コイツの言ってることの大半は意味不明だから、いちいち気にしてたらキリがない。


 俺はサプライムを倒す作業を開始する。

 すると、倒すたびにレベルが上がっていき、少しずつではあるが、強くなるのを実感した。


 今までにない感覚だった。

 今まではいくら努力しても、一向に強くなる気配がなくて、その場で足踏みしているようだったのに……。


 まるで成長期の身体になったかのように力がみなぎってきて、剣を振る速さと力強さが増していく。


 6回ほど斬りつけないと倒せなかったサプライムも、3回切るだけで倒せるようになる。

 敵からの反撃も3回ほど受けるとフラフラになっていたのに、今や6回受けても立っていられるようになった。


 俺はいま、着実に強くなっている……!

 それが楽しくてたまらなくて、夢中になってサプライムを倒しまくっていると……。


「ちゃはははははははははは!」


 ふと下品な笑い声が割り込んできた。

 見るとそこには、金ぴかに飾られた成金趣味の馬車が停まっていて、窓からはいかにもチャラそうな若者たちがニヤニヤしていた。


 アレは……俺を以前追放した、高校生勇者パーティだ。

 リーダーの勇者はたしか、ハーチャン……。


 ハーチャンは俺を指さし、馬車の窓枠をバンバン叩きながら爆笑していた。


「チャハハハハハ! 見ろよ、みんな!

 俺たちが捨てたオッサンが、サプライムとジャレあってるぜ!」


 仲間たちも一緒になって笑う。


「ぎゃははははは! マジかよっ!?

 サプライムってガキのお守りのモンスターだろ!?

 それをあんなにマジになって戦ってるなんて、ヤバくねぇ!?」


「あれって、ゴミスキルのオッサン!? わぉ、冒険者に復帰したんだ!」


「コレスコ、あんなの冒険者じゃないって! ただの荷物持ちっしょ!」


「えーっ、でもあーしらの仲間だったんじゃん!」


「おいおい、冗談言うなよコレスコ! あんなオッサンが俺たちの仲間だなんてキモすぎるだろ!」


 この手の罵りは俺にとっては日常茶飯事。

 高校生勇者どころか、小学生勇者にすらバカにされる。


 だから俺にとってはもう慣れっこだった。

 いつもなら無視していたところなんだが、今日は思わず目を奪われてしまう。


 なぜならば、窓から顔を出すハーチャンの頭上に、とあるウインドウが浮かんでいたからだ。



 勇者ハーチャン

  難易度:イージー(4ポイント使用中)

  世界観:古典的RPG(1ポイント使用中)



 そのウインドウのデザインは、俺のステータスを表示するものと同じだった。

 俺はもしやと思い、そばで浮いている妖精に小声でささやきかける。


「なあ、アイツの頭の上に浮いているウインドウって、もしかして……」


「ああ、あれは『チート』ウインドウやな」


「チート? ちょっとっていう意味か?」


「ちゃうちゃう。

 『チート』は『神ゲー』スキルにおける、キモのシステムのひとつや」


「ということは、あのウインドウは俺の力で出してるってことか?」


「うぃ。その通りや」


「ウインドウには難易度イージーって書いてあるけど、アレはなんなんだ?」


「人生の難易度やね」


「人生の難易度? ってことはハーチャンの人生は簡単イージーってことか?」


「うぃ、そうや。旦那はあのハーチャンとかいう勇者とパーティ組んだことがあるんやろ?

 『神ゲー』はチュートリアル開始前にパーティを組むと、CPを消費してリーダーの人生を自動的に『イージー』にしてくれるんや」


 言語的にも概念的にも理解しがたい内容だったが、俺はこの不可思議な説明に慣れつつあった。

 そして『CP』と聞いて、俺のステータスウインドウにあったある項目を思い出す。


「CP、って……。

 もしかして俺のステータスにある、ずっとマイナス2の項目のことか?」


 するとテュリスは「うぃ」と頷く。


 俺はすでにレベル5になっていたんだが、ステータスのなかで『魅力』と『CP』のパラメーターだけはいくらレベルを上げても数値が上昇しなかった。

 『CP』の項目に至ってはずっとマイナスだったので、なんだか気持ち悪くてしょうがなかったんだ。


 CPとは『チートポイント』の略だという。


「旦那は多くの勇者とパーティを組んだんやろ?

 そのせいでチートポイントをバラ撒きすぎたから、マイナスになってもうたんや。

 あのハーチャンともうパーティを組むことが無いようやったら、ポイントを取り戻しといたほうがええと思うで」


 俺の理解は完全ではなかったが、俺の力でハーチャンがメリットを享受していることだけはわかった。

 となれば、俺の答えはひとつしかない。


「チートポイントはどうやったら取り戻せるんだ?」


「簡単なことや、ハーチャンの難易度を『イージー』から下げればええ。

 『ノーマル』にすれば、かけたポイントはぜんぶ戻ってくるで」


 その後、俺は難易度変更の方法をテュリスから教えてもらう。

 ハーチャンを睨みつけて念じると、頭上にあった難易度は『イージー』から『ノーマル』に変わった。


 そして俺のステータスウインドウを確認してみると、


 ブレイ レベル5

  HP 20

  MP 12

  筋力 10

  知力 6

  俊敏 7

  魅力 1

  CP -2 ⇒ 2


 ずっとマイナスだった『CP』が、2ポイントになっている。

 「おお……!」と感激している俺の横で、テュリスはなにかを思いだしたようだった。


「そや、ポイントがマイナスの間は『チート』のウインドウはロックされて使えんのやけど、プラスになったから使えるようになったやで」


 俺はテュリスの説明に従って『チート』ウインドウを開く。

 そこにはふたつの項目があった。



 ブレイ

  難易度:ベリーハード(マイナスペナルティ)

  世界観:リアル

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