第20話 激戦! ジョーズ遊撃隊だにゃ!

「サメサメサメ! 死ねぇぇぇぇ!!」


 最初に動いたのはドリルシャーク! 巨大ドリルをうならせ、ローリエル目掛けて猛然と突進! DRRRRRRRRRRRR!!! 死を予感させる削岩音ッ! ドリルの側面には荒刃あらばが付いており、触れるだけでも大怪我は免れない!

 しかし――ローリエルは微動だにせず! その瞳は静かに怒りの炎をたたえるのみ!

 

「お前が死ねぇェェェェェェだにゃ!」


 腰を深く沈め、右足を前に、強く踏みしめる! その衝撃によってソニックブームが発生、切り裂かれた空気の刃がドリルシャークの全身をズタズタに引き裂いた! ――しかしあくまで、それは一連の動作によって生じた現象に過ぎない! 

 刹那、ローリエルは虚空に向かって掌底を放った! ドウッ、という空気の破裂する音と共に、衝撃波の環が発生! まともに正面から受け止めたドリルシャークは、そのまま明後日の方向に吹き飛ばされようとする! が、しかしそれよりもローリエルの追撃が速い! 素早くドリルシャークの懐に潜り込むと、体を百八十度回転、肩甲骨からじるようにして右腕を振るう! 力×速度×遠心力×飲酒力――それは物理法則の壁を突破する方程式ッ!

 力学の常識を超えた破壊力によって空中へと打ち上げられながら、ドリルシャーク爆発ッッッ!! 打ち上げ花火ッッ!!


絶酔魔拳奥義ぜっすいまけんおうぎ――! 空壊衝激天昇拳くうかいしょうげきてんしょうけんだにゃ!」


 ふんっと鼻を鳴らして自慢げに残心を決めるローリエル! しかし、すぐさま次の刺客が襲来!


「ギャオオオオス!! 俺は古代からよみがえりし究極のティラノ・シャーク! ドリルシャークを倒した程度で調子に乗るなよ! お前なんぞ今すぐ喰い滅ぼしてやるわーーーーッ!」


 ティラノ・シャーク! それは人間とサメ、さらにティラノサウルスの能力を併せ持ったガイヤーである! 十メートルを超える巨体もさることながら、最大の特徴は下顎が二つ存在している点だろう! 上の下顎がティラノサウルスで、さらにその下がサメの下顎! 顎の数が二倍ということは――つまり、破壊力は百倍であるッッ! 


 ティラノ・シャークは、十トンの巨体を支える強靭きょうじんな二本足で地面を踏み鳴らしつつ、猛然とローリエルへ向かって突進! ガッと開かれたその口内は、ローリエルがまるごと収まってしまうほど大きい――いや、もはや雄大! 恐るべき恐竜たちを喰い滅ぼし、生態系の頂点に君臨し続けてきた本能が、ローリエルを喰らわんと肉薄する!

 しかしローリエルは、眼前に死の恐怖が迫っているにも関わらず――冷静ッ!


「滅びるのはお前の方だにゃァァァァァァァ!!!」


 な、なんと!? ローリエルも猛然と疾走し、あろうことかティラノ・シャークの上口内に侵入してしまったではないか!? なんという自殺行為! 予想外の出来事にティラノ・シャークのつぶらな瞳も驚愕の色に染まる! だが、それも一瞬のこと!


「馬鹿め! 自分から死にに来たかーーッ!!」


 ティラノ・シャークは凄まじい勢いで下顎を閉じた! その衝撃、反動が、ティラノサウルスの下顎にすべて乗算される!! 加速するヘル・バイト!! ローリエルにはここで全身粉砕骨折のき目にう以外、残された道は無いと思われた! しかしその時!


「その自慢の顎で、コイツを噛み砕いてみるがいいにゃッ!!」


 ローリエルの周囲に十二の魔弾が浮かぶ! その正体は、酒気を乗せて放った掌打が空気中の魔力と結合したことによって生成された、恐るべき魔弾である! ティラノ・シャークが戸惑った一瞬のスキに、ローリエルはこの奥義を完了していたのだ!

 魔弾が完全に顕現したのを見届けると、ローリエルは超速ステップによってヘル・バイトの危機から緊急回避! ティラノ・シャークは急いでヘル・バイトのキャンセルを試みるが、もう遅い! サメの顎によって加速したティラノサウルスの顎! その勢いは、最早誰にも止めることはできない――そう、自分でさえも!


 ティラノ・シャークの口腔こうこうで、十二の魔弾が炸裂ッッ!! だが、魔弾は一度の炸裂程度では消滅しないッ! ピンボールのようにティラノ・シャークの体内を駆け巡りながらなおも加速し続け、炸裂の嵐を巻き起こしてゆく! その恐るべき加速度運動は十トン以上あるティラノ・シャークの体を持ち上げ――ついに上空へと弾き飛ばしたッ!

 自らの加速度についてこられなくなった魔弾は、やがて魔力崩壊を引き起こし巨大な爆発を発生させたッッッッ! 本日二度目の打ち上げ花火!! 


絶酔魔拳奥義ぜっすいまけんおうぎ――十二酒月魔練弾じゅうにさかづきまれんだんだにゃ!!」


 ふんっと鼻を鳴らして自慢げに残心を決めるローリエルに、またしてもジョーズ遊撃隊の刺客が襲来! 


「フォスフォスフォス……あの二人を倒すとは恐ろしい戦闘力! ――だが、知恵比べならばどうかな!?」


 朗々ろうろうとした声と共にローリエルの背後から忍び寄ったのは――な、なんと!? 上半身が人間、下半身が獅子! そして背中には荘厳なるわしの翼が! こ、これはまさか神話に伝わる伝説怪獣、スピンクスではないか!? ただし頭部がサメであり、背ヒレが生えていることからもガイヤーであることは明らかだ!


「そう、私はスピンクス・シャーク! いくぞ問題じゅつしきてんかい――!」


 何処からともなく二人を取り囲むように立ち込めた薄紫色のもや! やがてそれはドーム状の檻へとおぼろげな輪郭りんかくかたどってゆく!


「次から次へと! 面倒だにゃ!」


 ローリエルはおもむろに檻を殴るが、手ごたえ無し! 不可解! 


「フォスフォスフォス! これは術式によって構成された魔力の檻! 物理攻撃は一切通用しないのだ! ここから出たければ私の出す問題に答えるしか無い! さァ第一問――」


「アァ!? 誰がそんな面倒くさい話に付きあってられるかにゃ!? すぐにお前をブッ倒して脱出してやるにゃ!」


「馬鹿! そんなことをしたらお前は一生この檻から出られんぞ! いいから問題を最後まで聞け! 第一問――」


「やなこったにゃァァァァァァァ!!」


「朝は四本、昼は二本――ええッ!?」


 眼にも止まらぬ正拳突きが、スピンクス・シャークの胴体に突き刺さる! 悶絶もんぜつ! 肺から全ての空気を押し出されたスピンクス・シャークは、出題の中断を余儀なくされ問答無用で檻へ叩きつけられる!

 地面を転げまわるスピンクス・シャークへ、ローリエルはすかさず追撃! 馬乗りになって再び拳を構え――右腕からは、白い酒気の波動がほとばしる!


「檻から出られないなら、にゃァァァァァァァ!!!!!」


 ローリエルの拳が、スピンクス・シャークを直撃した途端――地面に亀裂が生じるッ! 抵抗も出来ぬままスピンクス・シャークは自由落下! 辛うじて翼を振るわんと試みるも――そこに自らの作った檻が落下してくる! それも当然! 足場が崩れ去ってしまえば、いかな摩訶不思議まかふしぎな性質を持つ檻といえど全く用を為さぬッ! 策士策に溺れるとはまさにこのこと!

 せめて最期にローリエルだけは道連れにしようと試みるも――彼女の姿がどこにも見当たらないではないかッ!? 


「ば、馬鹿なーーーーーーーーーーーーーッ!?」

 

 スピンクス・シャークは自らの発生させた檻によって身動きが取れないまま下層へと叩きつけられ、その衝撃によって檻ごと爆発ッッッッ!! 地底から覗く花火も時には乙なものである!


絶酔魔拳奥義ぜっすいまけんおうぎ――岩砕烈波断裂拳がんさいれっぱだんれつけんだにゃ!」


 光速! あまりにも素早い身のこなしで檻の下から脱出していたローリエルは、空中四回転サマーソルトを決め華麗に残心!

 この場に集ったジョーズ遊撃隊は全滅ッッ!!


「まったく、無駄な時間を取らされたにゃ! 早くグラシア君のところに行かなきゃないのに……って、おっとぉ!?」


 突如、ローリエルの足元が揺らぐ! それは、先ほど放った絶酔魔拳奥義ぜっすいまけんおうぎによるものでは無い! もっと根幹的――別な理由による揺れ!


『随分と暴れてくれおったな、酒女……! 特に先ほどの一撃は痛烈だったぞ……』


 どこからか響き渡る声! 地面か? それとも天上か? ――否、ローリエルの超感覚が出した結論は、そのいずれでもない!


「まさか……洞窟そのものが喋ってるのかにゃ!?」


『ご名答……! 我が名は、ダンジョン・シャーク! この洞窟そのものが私の本体ということだ!』


「はァァァァァァァッ!? そんなのアリかにゃ!?」


 ローリエルはくあまり見逃していたのだ! この洞窟へ足を踏み入れる前に、全体像を見渡すだけの余裕があれば! 外観の頂点部に生える、鋭いヒレの存在に気が付けただろうッッ!!

 しかし今となっては後の祭り!


『さァどうする酒娘! お前はすでに私の腹の中だ! このままありったけの消化器官をフル稼働させ、酸の海に沈めてくれるわーーーッ!!』


 壁という壁から、強烈な異臭を放つ粘液が溢れ出した! 粘液は凄まじい強酸値を誇り、そのPH指数はなんと驚異の-255! カンスト値!

 粘液がジョーズ遊撃隊の肉片に触れると、瞬く間に蒸発……! 気化までの速度が尋常じんじょうならざる早さッ! 


 ダンジョン・シャーク! それはダンジョンに寄生し、ダンジョンに擬態ぎたいする恐ろしい能力をもったガイヤーである! 今まで犠牲になった冒険者の数は知れない! 実際、このダンジョン・シャークがケルベロトゥースの最終兵器であった!


「ええい、こうなったらダンジョンだろうと城だろうと、なんでもかかってこいにゃーーーッッ!!」


『ククク、威勢がいいな酒女! そんな貴様に一つ、いい事を教えてやろう! ダンジョン・シャークは私一人だけではない! 第二、第三のダンジョン・シャークが、すでにルービ周辺の洞窟へ潜伏を完了している! 万が一私を倒せたところで、果たしてお前に! このダンジョン・シャーク軍団の中から! 弟子の待つ、正解の洞窟へと辿り着くことが出来るかな!?』


「……なるほど。最初からそういう筋書きだったってわけだにゃ……!」


 ローリエルの瞳に怒りの炎が燃え盛る! 怒りに呼応するが如く、全身から迸る酒気の波動が烈火の如く深紅に染まるッ!


「お前らのことは最初ッから気に喰わなかったにゃ……! 人の弟子を奪っておいてゲーム感覚で勝負を仕掛けてくる……! 私が、この世で一番嫌いなタイプの敵だにゃ!」


 ローリエルの足元にも最強酸性の胃液が忍び寄るが、烈火のオーラに触れた途端、蒸発! 泡沫うたかたへと姿を変えるッ!


「そんッなに私を怒らせたいなら、安い挑発に乗ってやるにゃ! 誰が何人来ようと全員ブッ飛ばしてやるからかかってこいにゃァァァァァァァーーーーッ!!」


 ローリエルVS恐怖のサメ軍団……!

 その戦いは、まだ始まったばかりなのである……!

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