ビーチでの散歩


 授業が終わったある日、淳はひとりでビーチを歩いていた。夏のビーチは、多くの観光客で賑わっている。

 淳たちのクラスのジョン先生によると、ここは元々退職した人たちの住む、静かな街だったそうだ。しかし、ここ数年で大学や語学学校、アパートやマンション、ホテルが建ち、学生や観光客で賑わうようになったという。

 遠くに見える海と空の境目をぼんやり眺めながら、淳は桟橋を歩いた。

 文系の大学を卒業してから、数年バイトをしてお金を貯め、思い切ってイングランドへやって来た。その目的は、英語の勉強とヨーロッパ旅行だった。

 卒業後、すぐに就職する決心がつかなかった彼は、自分の興味のあることに時間を費やしてみようと考えた。

 彼は近くのベンチに腰かける。時折、心地よい潮風が彼の髪を優しく揺らした。

「ハロー!」

 突然背後から声をかけられて淳は飛び上がるほど驚いた。しかし、すぐに知っている顔だと分かると、こわばっていた顔の筋肉が自然と綻んだ。

「とっても良い天気ね、散歩には!」

 長めのブロンドを潮風に揺らしながら、よく通る声でエステルは言った。

 まるで目の前にいる淳ではなく、別の誰かに話しているように彼女の声が辺りに響く。

「そうだね。エステルも散歩?」

 淳の声もエステルにではなく、別の誰かに話しているように響いていく。

「そうよ。ジュンも散歩? 少し一緒に歩かない?」

 そう言い終わると、エステルは踵を返してひとりさっさと歩き始めた。

 潮風に揺れる彼女の長い髪は、太陽の光を反射してさらに眩しく淳の眼を刺激した。

「あっ! ちょっと!」

 淳はすぐにベンチから立ち上がると、慌てて彼女の後を追いかけた。

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