語学学校
イングランドの南に位置する小さな海辺の街の語学学校。
淳の受講した中級者クラスは約十人程の少人数制で、生徒の国籍は主にスペインとフランスが多く、日本人は淳一人だけだった。
その中にフランス人のエステルがいた。ブロンドの髪に青い目をした女の子。良く日本のテレビや漫画で描かれてるフランス人女性。淳はそんな印象を受けた。
「午前の授業であなたが紹介した『折り紙』って日本人なら皆できるものなの?」
語学学校も一週間が過ぎたある昼休み、エステルは淳の席まで来ると、突然声をかけてきた。
「えっ? ああ、授業で紹介した鶴とかなら有名だから、日本人なら誰でも知ってると思うけど……」
「へー、そうなんだ。あの小さな鶴はとても可愛くて良かったわ!」
エステルは流暢な英語でそう言った。
「え? あ、ありがとう!」
今まで殆ど話したことのなかったフランス人のクラスメイトに、突然話しかけられて、さらに褒められた淳は、驚きながらも素直に嬉しかった。
「ところで、何年くらい英語を勉強しているの?」
「え? えっと、日本では十四歳から学校で習ってたから、今二十四だから九年、いやちょうど十年くらいかな」
「本当に? 確かにあなたの英語は上手いと思うけど、十年も勉強していたのに何でまだネイティヴレベルで話せないの?」
「え? いや……それは……」
鶴を褒められた後に、まさかそんなことを言われるとは夢にも思っていなかった淳は、彼女の言葉の真意をすぐに理解することが出来なかった。
そして彼を見据えているエステルの青い瞳に、必要以上に動揺してしまっていた。
「そ、それは、えっと、に、日本語と英語は全然違う周波数を持っていて、日本人にとって、高い周波数を持つ英語を聞きとることが非常に難しくて……」
淳はなんとか出来る限りの説明を英語で必死に試みた。
彼にとって英語は得意科目であったが、発音と聞きとりは今でも苦手としていた。そしてその点に関しては、文法は多少間違っていても発音と聞き取りが出来る西洋人に対して、多少の劣等感を感じていたのだ。
「ふーん」
「な、なんだよ……」
一人残された淳は、なんとなく居心地が悪くなって、バックパックを手に取るとそそくさと教室を出た。
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