第12話 城、惨状
城内はひどいことになっていた。
壁に書かれた文字から、ここは「東塔」だとわかった。よくRPGで見るお城にもある、前方両サイドにある塔だ。監視塔とか見張り塔……なんだっけ。「側防塔」って言ったっけ?そんな感じの場所だ。
「空間移動」は使えないが、どうやら「空間把握」は使えたようで、テイファがこの城内の構造を詳細に把握したため、彼女を先頭に進むこととなった。
城内はなかなかに酷いことになっている。
もともとは豪奢な装飾が施されていたのであろう壁や絨毯はボロボロで、壁そのものも、一部が溶かされたかのように抉れている。
シャンデリアは砕けたり、砕けてなくとも器のようになった部分が毒液で満たされたりしており、場所によっては上から毒液が垂れてきている。
THE・廃城といった雰囲気だ。苔むしたりはしていないが。
ただ、ここはヘイルの居城で、ヘイルに従う魔物や魔族もいるはずの場所なのだが、不気味なほどに静かなのが怖い。例え、ヘイルの軍勢が少ないと言えども、違和感しかない。
その違和感は二人も感じているのか。
「……テイファ様」
「テイファでいーよ?」
「では、テイファさん。城内と周辺の敵の反応はどうですか?」
「それがねー、さっぱり。引っかかるのは死体と、多分ヘイルっぽい反応だけ。残りは外で戦ってくれてる皆のとこ……だね」
「おかしい、ですね……」
敵がいない。あまりこういうことに詳しくない俺でもおかしいと思う。それで、もしかして隠れてるんじゃ?と思い、訊いてみるものの。
「隠密してる可能性とかは?」
「あたしもそう思って、心眼を乗せて視てみたの。でも、いない」
「疑うわけじゃないけど、精度ガバとかの可能性は?」
「ないかな。あたしの心眼を乗せた空間把握から逃れられるのは、それこそ魔王とかそのたぐいの実力者で、尚且つ隠密行動のエキスパートとかくらいだからさ」
「まあ、超強力な魔道具で無理矢理隠れてる可能性もあるにはありますが、可能性は限りなく低いでしょうね」
多分、誇張とかではないのだろう。今は冗談言ってる場合ではないし。城内にいるのはヘイルだけと考えてもいいだろう。
しかし、そうなると、どうして誰もいないのか。俺は、階段下に溜まっている毒霧を浄化しながら考える。
「……そうだ。ヘイルの魔王認定から、ここが滅ぶまでの経緯をもう一回聞いてもいい?」
「まだ距離はあるし、いいけど……突然だね」
「なーんかこう、違和感っていうか……とにかく、頼む」
「わかった。まず、ヘイルが総魔会議で『魔王』に認められたのが、だいたい10年くらい前。ヒルフェくんが『魔王』に認定された会議の2回くらい後、最新のから2回くらい前のやつだよ」
『総魔会議』自体は、平均すると50年くらいに一度の頻度で開かれているらしい。ただ、間隔は『魔王』達の気分次第でもあるので、別に5年に一度くらいの間隔になっても何ら問題はないのだそうだ。
「レベッカちゃん……じゃなくて、”
「一応、当時の総魔会議の直前に西の小国であるペーレスティで行方不明事件が起きていたので、調べたりはしていたのですが、関連性を見つけることができなかったのです」
ペーレスティという国は、ハートフィルから見て西側に位置する内陸の小国だ。ハートフィルとの間に、メアクレイスというこれまた小国と、”
ペーレスティは山に囲まれている立地なのだが、他国との交流はどういうわけか極端に少ない。一応、唯一の取引相手として、この世界でも1、2を争う規模の大国であるヒュマノデイアという国がいるものの、ヒュマノデイアは行方不明事件の調査をしていない。
なぜなら、ヒュマノデイアからは誰も行方不明者が出ていないからだ。
あれだ。飛行機事故のニュースで、「今日未明、なんとか国なんとか国際空港発の何番便が墜落し、死者がたくさん出ました。この便に日本人はいなかった模様です」のナレーションだけ軽く流され、それ以降ニュースでほとんどやらない、みたいな感じか。
多少は違うだろうが、自国民から被害者が出ていないなら、調査をしなくてもおかしくはない。実際、ヒュマノデイア以外にも調査をしていない国はあったそうだ。
「ハートフィルからも数名、旅行者か血縁者かは忘れましたが、ペーレスティで行方不明になった者がおりますので、調査をしていたのですが……」
「そんな時に起きたのが、この国……メイツボウをヘイルが襲撃する事件だよ。起きたのは、だいたい4年前。それまでも、各地の村や町を襲っていたから、脅威視されてはいたけどさ」
「メイツボウってかなりの軍事力を持っていたから、滅ぼされるとはだれも思ってなかった?」
「そーゆーこと。ヘイルの毒の脅威はその時点で有名だったし、メイツボウには”
皆が皆、そう思っていたのに、なんとメイツボウはほぼヘイル一人の手によって滅亡してしまった。国民の9割は毒素で苦しみ死に絶え、残りは各地に散り散り。王族も皆殺しにされたらしい。
「一応、何年も前に行方不明になったっていう第三王子ヘレテイールが生きてるかもって希望はあるけど……」
「ヘレテイール王子の悪評は有名でしたからね。仮に生きていたとしても、彼を支持する人はいないと思いますが」
ヘレテイール王子について聞いてみれば、絵にかいたような「悪役王子」といった感じだったそうだ。
白銀の髪が特徴的な少年であり、見た目だけはかなりいい。というか、見た目くらいしか美点がなかったとか。
言動は傲慢で性格も我儘で、癇癪持ち。女癖は最悪と言うのも有名な話で、それから金遣いも荒かったとかなんとか。
「なんか、ヘイルみたいな言い草だな」
「ええ。なので、皆、初めの頃はヘイル=ヘレテイール王子を疑ったのですが、ヘイルは金髪で紫肌の魔人です。ヘレテイール王子は銀髪でベージュ色の人肌ですし、なにより毒を操るチカラなんて持っていませんでしたからね。隠していたという説もあるにはありますが」
とはいっても、「ヘイルはヘレテイール王子ではない」という証拠はなく、うやむやなのだとか。
「ま、とにかく。メイツボウが滅んでから、またしばらく、町や村を襲ってたんだけど……しばらくして後のことはわかるよね?」
「ハートフィルへの宣戦布告か……」
うーん、情報の波。RPGとかで後半に加入するキャラは、こんな感じだったのだろうか。ただ、絶対関係がありそうなんだよなぁ……。
中央塔の大階段を上り、4階へと差し掛かる。この城は中央塔は4階建てなので、もう一つ上れば屋上だ。
最後の階段の一段目に足をかけようとした時、ふと視界の端に入った扉が気になった。
「どうしました?」
レイが俺の様子に気が付き、声をかける。
「いや……あの部屋がさ、こう……」
「気になるの?少し調べる?」
「あ、うん」
善は急げと言わんばかりに、テイファが扉の方へと向かう。扉の向こうに誰もいないことを確認すると、部屋へと入った。
窓から見えた空は、ほんの少しだけ明るくなろうとしていた。
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