第11話 出力はしっかり調整しようね!
――――朝。というか、まだまだ夜明け前。
まだ空は暗く、真っ暗と言うほどではないものの、不安を感じるような暗い青色をしている。体感で言うなら、夜中の3時みたいな感じだ。そう、あの早朝と言うべきかまだ夜と言うべきか微妙な時間帯、そんな感じ。
軽い朝食をさっさととり、集められたは、おそらくバルコニーと思われる場所。目の前に見えている広場には、兵士や冒険者など、今回の作戦に参加する人員が集まっていた。
号令やら紹介やらをとっくに済ませ(俺のことをやたら魔王アピールしてきたので乗ってみたら物凄く盛り上がってしまったのは反省するとして。)、残りは俺がここにいる全員へと「状態異常浄化」を付与した後、居城へ乗り込むのみだ。
移動は俺達はティファのチカラを使い、他はそこらに待機している空間術士達の術式によってヘイルの居城となっている、滅ぼされた隣国の城ないしは城下町へと跳ぶのである。
つまり、俺が効果を付与すればいいのだが……。
「どうしたんです?」
「あー、いや、大規模にチカラを使うとかやったことないから……まあやるけどさ」
レイに心配そうに聞かれ、やるとは言ったものの、問題がある。
そう!この俺!なんと約500年以上も生きていて一度も大人数にチカラを使ったことがないのである!
考えてみてほしい。今まで交流があったのは、人口のほんとうに少ない村のみだ。若干、森で迷った旅人とかはいたが、それも片手で数えることのできる人数。しかもここ百年ほど旅人は来ていなかった。
まあ、傷を治すとか、割と厄介な毒をくらった村人の治療自体はしていたし、二人同時とかもあったのでやり方がわからないわけではない。うろ覚え気味なところは、閲覧者で視界の端に表示すればいいし。
つまるところ、単純に緊張である。
なんで俺、ここに立ってるんだろうと虚無りそうになりかけているが、まあ、引き受けた以上はちゃんとやろう。
さて、いくら俺のチカラがすごかろうが、【詠唱省略】とか【詠唱破棄】を持ってない以上、大規模なものは少し詠唱が必要……らしい。
らしい、と言うのは、どうもスキル行使の際の詠唱の要否は、そのスキルをどれだけ使ってきたかによって左右されるみたいだからだ。
正直、「500年もあればなんとかなるだろ、何してたんだ」と言われれば、「本読んでました」としか返せない。もしその間、スキルの研究とかしていたら、今頃詠唱とかいらなかっただろう。
……と、まあ、今更なことを今考えても仕方がない。
そう思い、印を組みだす。俺の詠唱は印を切ることなのだ。……魔法文字、あとでちゃんと勉強しよう。
対象を「ここにいる全員」にし、「状態異常を浄化する」状態にするように描いて……
「”
最後にそう口にすると、ここにいる全員を――――いや、それを通り越して国を包んだ。
「……へ」
「……む」
効果が超広域に広がっていく。
そのチカラは、ヴェールを包んだ範囲にいるすべての人々の毒を浄化していく。
……どうしてこうなった?
そう思い、フリーズしかけたとき、ティファがフォローを入れてくれた。
「今の、気まぐれ?」
「え?あ、ああ。少しばかり、サービスだよ」
「魔王の気まぐれ、規模がちがうねー」
フォローがこうなっているのは、さっき、ちょと調子とノリに乗ったせいで、兵士達から俺に対する認識が「噂に違わないチカラを持った魔王が、気まぐれに味方してくれている」という認識になってしまっている。
イブン王が「此度、かの”
だから魔王じゃないんだって……いや、とりあえずそういうことにしておいたほうがいいのか?
まあいっか。目的である付与はできたんだし。それに、士気が下がったりして滅んでも困るし。
「こほん。これにて支度は整った。皆の者よ、往くぞ!」
――――ワァァァァァァァ!
王の号令と共に、空間術士の式が発動する。すると、兵士や冒険者達は目的地へ跳ばされる。
「それじゃ、あたしたちも行こっか」
「ですね」
「ん!じゃー、”
視界が歪み、俺達も跳んだ。
▼▼▼
「……あれぇ?」
ティファの声に目を開ける。目的地は亡国の城、その中央塔の屋上のはずだ。
確かに風景は屋上だが、若干高いが俺の目線よりは低い壁の向こうに、中央塔と思われる、凄く広い、毒の沼地が点在している別の屋上が見える。
「若干座標ズレたかな?」
「そういうことあるんですね」
「まーね。ま、いいや。目視範囲なら簡単に跳べるし、行っく……」
そうやって、テイファがまたチカラを使おうとした。しかし、バチッと音がして、チカラが発揮されることはなかった。
「これは……」
テイファが空を見上げるのにつられ、俺も見上げる。うっすらと、もやっとした膜が見える。
気になったので、【解放の魔】を使ってみる。
《解析結果:【不明】特殊結界
・空間移動・飛行系統のスキル・魔法、一部行動を封印する結界。結界内では該当の魔法やスキルが使用不可になる。》
「あー……」「なるほどー?」
「「……え?」」
意見が一致したせいか、互いに顔を見合わせる。
「……うん。スキルについては後で聞くとして、分かったんだね?」
「あー、うん。でも、誰がどうやってるのかは分からん」
「そっかー。じゃ、隠蔽が得意な奴なのかな?ヘイルっぽい感じはしないし……でも、跳べないのきついねー」
どうしようかー、と話し合っていると、ふとレイが言う。
「ヒルフェさん、跳べるのならば僕たちを抱えて行けませんか?」
「あー……多分難しいかも。行動制限も入ってるっぽいし……」
「む……でしたら、中を通っていくしかなさそうですね」
「仕方ないし、行こっか」
まだ日は登ろうとしていないことを確認すると、俺達は階段を下った。
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