第6話 九死に一生、窮地に勇者
まあまず、真っ先に言いたいことは「どうしてこうなった?」だ。
聞いていた身体的特徴や口調からして、あの紫肌の少年が魔王ヘイルで間違いはない。本人もそう名乗ってたし。
いや、それよりも先に。御者とライとロイの様態があまりよろしくない。レイもあまり長く耐えることは出来ないだろう。
周囲はいつの間にやら毒素の煙に覆われている。俺は大丈夫だが……って、なんで俺大丈夫なんだ?閲覧者ー?
《現在状態:ヒルフェール
・スキル:【方解の魔】効果により、毒素無効化中。切り替え可能》
あ、スキル効果なのね。あと流石に切り替えたりはしないぞ。多分それ、俺も動けなくなって詰むから。
「んー?なんでテメェはピンピンしてんだ?」
「俺が答えると思うか?」
「思うなあ!だってこの俺様を前にしてんだ。話さざるを得なくなるんだよ!”
ヘイルはそう言うや否や、黒紫色のいかにも「毒!」という感じの塊を放ってきた。ベトベトしているのか、飛来してくる途中で零れ落ちた雫が地面を溶かしている。あれ、毒っていうか酸では?
というか、俺には攻撃手段どころか防御手段もない。かと言って、回避すればレイたちに当たるような軌道を飛んでいる。回避するわけにはいかない。
流石に、さっきまで食事を共にしていた人物が目の前でドロドログロテスクになられて平気な精神構造などしていない。かといって、死にたくはない。
……まてよ?飛来してくるものはおそらく「毒素の塊」だろう。意思のない毒素の塊なら……もしや、スキルでなんとかできるのではないか?
かなり突拍子もない考えだが、その時の俺はどうもそう考えついたのだ。どうしてそう思ったのかは未だにわからないが、それはいい。
スキルの使い方は、ここ500年生きていて時々試したりしてきたため、把握はしている。
【方解の魔】は、「やりたいこと」を思い描きながら「名」を口にする。早い話、技名を叫ぶようなものだ。ホ○ミとかキ○リーとか叫べば、傷を治せたり解毒できたりする、ということだ。
そして、その「名」は自分で決めて、口にして、そして初めて効果を発揮する。つまり、外傷を治すにはホ〇ミではダメなのだ。
目の前に迫る毒素の塊を見据え、【方解の魔】を起動する。強く、「毒素分解」を思い描き、即興で考えた「名」を口にする。
「”
途端、毒素の塊を薄緑の立方体が包み、光を放つとともに、毒素の塊はきれいさっぱり消えていた。
ビンゴ。酸っぽかったとはいえ、おそらく純粋に毒素の塊だったのだろう。中に石とか岩があったらヤバかった。
「な、おい、今何をしたんだよ!」
「もう一回言うが、俺が素直に答えると思うか?」
「言わせてやる!!」
「やれるものって言うんなら、どーぞ」
と、まあ挑発してみたはいいものの、こちらに攻撃手段がないことがバレるとマズい。言動的にも、おそらく、中身は子供っぽいので、ハッタリと挑発をかましていけばよさそうだが、それでは打開策にならない。
やるべきことはある。
まずはこっそりと、レイに解毒をかける。俺の解毒はしばらくの間、その毒への耐性も備わるという特徴があるため、この環境下でも【万象の閲覧者】曰く、二日は大丈夫だろう。
「ヒルフェさ」
「しっ。アイツは俺がひきつけとくから、なんとか助けを呼んでくれ」
「!、分かりました」
レイが魔法陣を描きはじめる。煙で視界が悪いため、そうバレはしないだろう。
そうしている間にも、毒の攻撃は飛んでくる。俺は片っ端からその攻撃を分解しつつ、合間を縫って、御者とライとロイの毒消しを試みる。今消しきれなくとも、中和して延命することくらいはできる。
しばらく防御を続けていたのだが、さすがにヘイルも怪しく思ったのだろう。首を傾げ、攻撃しながら言ってくる。
「さっきから攻撃してこねぇけどよー。もしかして、攻撃できねえ、とか?」
おーっと?それ聞いちゃう?
答えはイエスなのだが……馬鹿正直に答えるわけにはいかない。
「いんや?気分じゃないだけ。子供の相手は、『遊び』で十分だろ……っと」
「な、なっめてんじゃねぇ!!!」
また挑発をかけてみたものの、どうも何かに障ったらしく、どう見てもヤバそうな攻撃を仕掛けようとしていた。
周囲の毒煙を呑み込みながら、でっかい毒の塊を頭上に生成し始めたのだ。その塊はどこからどう見ても「THE・毒」という見た目のものだった。近い例えなら、ポイズンカラーのスライム……洗濯ノリやらを混ぜて作るほうのスライム、といったところか。もしも放たれたのならば、少なくとも、目に見える半径十メートルほどの範囲はアレに呑み込まれるだろう。
あれは打ち消せるか?OK【万象の閲覧者】!
《測定結果:6秒前後かかる見込み》
だよね!!なんか絶対時間かかる気はした!
メッセージウインドウを消しながら、どうすべきか考えるものの、名案も妙案も浮かばない。さっきは突拍子もなかったとはいえ、思い浮かんだのに。
なんて考えているうちに、技は完成してしまったらしい。凄い形相で、ヘイルが叫ぶ。
「全員死にやがれ!!”
巨大な毒液の塊が、叩き付けられようとしていた。俺も何とかできないかと【方解の魔】を用いて対抗してみるものの、若干落ちてくるのが遅くなっているだけだ。
このままでは、ダメだ。しかし、どうすれば――――そう考え始めた瞬間、凛とした声が響いた。
「”
凛とした、女の声。それが聞こえるや否や、突如として視界がぐにゃりと歪んだ。
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