第4話 挨拶は悩むし、軽くても困る
結局何を持っていけばいいかわからなかったため、レイ達にどのくらいかかるのか聞いた。すると、
「この森を抜けるのに迷わないとしても多く見積もって三日、そこから馬車でまる一日です」
とのこと。正直俺は一年くらいなら何も食べなくても大丈夫なのだが、レイ達はそうもいかない。三人は食料を持ってきてはいるようだが、ここに来る前に少し迷ったらしく、心許ない量しかないようだ。
この塔にあるのは大量の本といくらかの茶葉、若干のおやつ程度だ。旅支度に持っていくようなものではない。
「……とりあえず、村の方に行こうか。軽く挨拶もしたいし」
▼▼▼
メーレシェス村は塔から歩いて徒歩五分ほど。二本の川と一つの湖が近くを通っているので、水が豊富だ。
特産は紙とアップチュリン――――初日にもみかけた、宝石のような、リンゴに近い果物だ。
製紙小屋の水車は今日も回っているのが見える。
村に踏み入ると、真っ先に子供たちが駆けてきた。この村に住む、全員で四人の子供だ。
まだ昼間だから、広場で遊んでいたのだろう。
「本のおにーさん!」
「おー、皆元気か?」
「うん!きょーはどーしたの?うしろの人たちはー?」
リーダー格の男の子が聞いてくる。
ふと後ろを見ると、レイが困ったような笑顔をしており、ライとロイがその物珍しさからか、子供に絡まれている。
「へいしさんだー!!」
「すごーい!ねえ、剣ってつかうんでしょ?!」
「え、ええ。じ、ジブンは剣を使いますから」
ロイは子供慣れしていないのか、ガッチガチだ。
一方のライはというと。
「へいしさん、へいしさんは剣をつかわないの?」
「俺は槍と魔法の方が得意だからね。お嬢ちゃんにも得意不得意ってあるでしょ?」
「うん。わたし、水のまほうがとくいなの……」
「水魔法か!俺は風魔法はいいけど、水魔法は苦手だからなぁ。羨ましいよ」
「えへへ」
子供の扱いが上手い。年の離れた兄弟でもいるのだろうか?
……と、反応を楽しんでいる場合ではない。村長の所にひとまずは向かわねば。
「村長って今どこにいる?」
「そんちょー?今は家にいるとおもうよー。どーしたの?」
「いや、しばらくでかけるから、挨拶して行こうと思ってな」
「おにーさんでかけちゃうの?!」
「すぐ帰ってくるから大丈夫だって」
「うー……おみやげまってるから!」
「はいはい」
土産かあ。そもそもにおいて、俺はこの世界の通貨を一つたりとも持ってないんだよなぁ。
「皆、とりあえずその人達を解放したげてくれ」
「「「はーい」」」
そう言うと子供たちは三人から離れた。ライはニッコニコだが、対照的にロイがげっそりしている。
「……とりあえず、行こっか」
「ですね……」
俺とレイとで顔を見合わせて苦笑い。ライがロイを引きずって、俺達は村長の家に向かった。
▼▼▼
途中途中出会った人にあいさつしながらも、村長の家に着く。木造二階建ての、村の中でも大きな家だ。
俺は迷うことなくノックをし、声をかける。
「村長ー、起きてるー?」
すると、数秒の間があった後、ドタドタと音がする。それから少しして、扉が開いた。
そこには、白髪の青年がいた。老人ではない。青年だ。
「起きてますよ……って、なんだ、魔書塔のか」
「俺で悪かったな」
「悪いとは言って……あ、朝にあいさつに来た人達だ」
青年……イドラ村長は、レイ達を知っている様子だった。
聞けば、朝に三人はここを訪れていて、その時に村長に挨拶に行ったのだそうだ。子供達と初対面だったのは、朝早くだったため寝ていたからだろう。
とりあえず中に入れてもらい、応接室まで通される。
切ったアップチュリンが出されたところで、一から事情を説明した。
「……なるほどね。まあ、魔書塔のは確かに強い癒しのチカラがあるからな。毒使いとかには効果的だろうね」
「はい。ヒルフェ様にも同意はいただけましたので、今から国へ向かおうと思うのですが……」
「森を抜けるための物資が心許ないって訳か。いいよ」
「村長、俺からもた……え?」
「だから、いいよ。魔書塔のには昔っから世話になってるしね」
思いのほかあっさりと返ってきた承諾に、俺達は驚いた。もう少し何か問い詰められるかと想定していたのだ。
「じゃ、善は急げってね。主に必要なのは?」
「あ、はい。食料面が特に。それ以外は何とかなりますが……」
「了解。あと、近道教えてあげる。急いだほうがいいんだよね?」
「は、はい」
とんとん拍子に進む話に呆然としていると、机の上に麻袋が現れた。魔法を使って呼び出したのだろう。
「三日分、四人分くらいの食料が入ってるよ。干し肉とアップチュリンがほとんどだけど。水は村内奴なら好きに持って行ってね。大量にあるし」
「あ、ありがとうございます」
「いいの。代わりに、ちゃーんと活躍してくることだよ?魔書塔の」
「あ、俺?!それはそうだけどさ。うん、まあ、やれる限りはするから」
「ん。じゃ、あとは近道なんだけど……」
それから、森を一日ほどで抜けられる道を教えてもらい、一泊して明日、朝になってから森を抜けることとなった。
「……村長さん、思いのほか、ノリが軽かったですね」
「昔からあんな感じだよ、あいつ……」
宿泊に使わせてもらった部屋の中で、俺とレイがそんな話をしたことは、勿論村長には秘密である。
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