風聞

@ayaki_sakai

第1話 歩道橋

 SNSで噂を見た。とある歩道橋で幽霊が出るらしい。

 曰く、夕方その歩道橋をくぐると背後でドサッ、と音が聞こえるのだと。

 振り返ると人が倒れているのが見え、飛び降りか?と思い急いで駆け寄ると、何もない。

 面白そうだ。適当に調べてみると思いの外家から近い。早速見に行ってみる。


 自転車で30分ほどで目的の歩道橋が見えた。時間は16時18分。ここからはひたすら待つ。

 日が暮れてきた。今日は夕焼けが綺麗だ。

 18時をすぎる。もう辺りは真っ暗で、ぽつぽつと並ぶ街灯がほの暗くあたりを照らしている。

 やはり、噂は噂か。

 この歩道橋は国道沿いに立っているが、周りに民家も少なく、数時間ここでぼんやりと待っていて通った人は数人くらい。車にしても両手で数えられるほども通っていない。いくら平日だとは言え、よっぽど不人気な道らしい。

 歩道橋の見た目は古く、階段を上がってみると手すりがあるのみで乗り越え防止のフェンスもなければ街灯もついていない。

 20時を回った。

 もういい、帰ろう。

 ふと階段の裏側を見てみる。アスファルトの上に数本の花を簡単にまとめた花束が置いてある。枯れても萎びてもいない、直近で誰かが置いたのだろうか。自分が知らないだけで、事故か何かあったのだろうか。あまり花には詳しくないが、なんとなく、高価な花ではなさそうだと思った。


 あれから数日、ふと気が向いたので例の歩道橋をまた見に行く。先日と違い、最寄りの駅から徒歩なのでかなり時間がかかりそうだ。途中雨が少しパラついてきたのでコンビニでビニール傘を買っていく。

 少し暗くなってきた。時間は17時過ぎ、噂的にはちょうどいい時間なのではないだろうか。

 20分ほど待ってみるが、やはり何もない。ぼんやりしているうちに馬鹿らしくなってきた。少しだけ残念な気持ちになる。チラと階段の下を覗き込むと、また花束がある。前と同じ花だ。

 来た道を歩き出す。20歩ほど歩いたころ、背後から

 ドサッ

 と何か重たい、しかし固くない物。

 首筋が冷える。

 反射的に振り向くと、そこには人が倒れていた。

 ふわ、と冷や汗があふれるのを感じ、一拍おいてから駆け出す。が、消えた。幻覚か、幻聴か。

 歩道橋の下に向かう。心臓が早鐘を打ち、心では早く近寄りたい。しかし、思うように足が動かない。歩道橋の下、たどり着いてみるがもう何もない。花束は変わらず置いてあるままだった。


 何日か通って、わかったことがある。

 どうやら自分は少し幸運だったらしい。ここ数日雨が降ったり止んだりを繰り返していたのだが、雨の日だけ例の飛び降りが起きた。時間は決まって17時過ぎ、必ず歩道橋に背を向けている時だ。その間、あの歩道橋に関しても調べてみた。図書館で過去の記録を探してみたが、何も見つからない。事件や事故の記録、それどころか建設されたという記録も無い。見た目からして古い物だとは思っていたが、資料が紛失してしまっているのだろうか。


 参った。完全に手詰まりだ。ネットで調べても、この地域に詳しい知り合いに聞いても何の情報も出てこない。もう一週間も調べているが歩道橋の事も、近隣で何か交通事故があったという記事も見つけられない。例のSNSでその噂の出どころを探しても、近所の友人に聞いてみても噂は知っていても出どころにはたどり着けない。もうそろそろ潮時かもしれない。


 大変な事になった。

 歩道橋が無い。元々ここになかったかのように、夕焼けに道だけが伸びている。その道端、ポツンと一束の花束が置いてあった。拾い上げ、調べたことを思い出す。ジニア、花言葉は「不在の友を思う」


 何人の友人に尋ねてもみんな、歩道橋の事はぼんやりとしか覚えていないらしい。あったかな、あったような、そんな返事しか返ってこない。

 自分はしっかりと覚えている。ハズなのだが、忘れてしまう気がする。

 忘れないように、記録を付ける。

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