第432話 松尾家の秘密 ~くしゃみ~

 これはとある病院のとある病室内での出来事である。


 ◆


 パジャマ姿の1人の高齢の男性がベッドの上で横になりつつくつろいでいた。

 自宅では基本畳の上に敷いた布団での生活だったので、ベッドというのは慣れていないため。はじめこそ少し戸惑いがあったが。横になってみると寝やすく。立ち上がる。起き上がるにしても、電動である程度起き上がることができるため腰が痛い現在。自宅の布団の上から立ち上がるに比べてそれはそれは楽だった。

 ちょっと電動のボタンを押して起こしたり倒したり1人で操作して遊んでいたのは――秘密のことである。なお、その最中調子に乗って少し起こしすぎて激痛が走ったのも――秘密である。

 なんせお約束しているからである。

 誰と約束しているかというと看護師さんである。

 今のところは安静にと言われていたので、言われてすぐベッドで遊んでいて、激痛が――ということは言えなかった。バレてはいけない事だったので、必死に隠していたりした。

 そしてこの時に関してはバレずに痛みは治まったのだった。

 

 とまあ、ちょっとやんちゃ?な高齢の男性。今はベッドに楽な姿勢で横になっていた。すると、病室のドアが開いた。


「松尾さん。これ着替えとタオルになりますねー。棚に入れておきます」

「あー、ありがとうありがとう」


 そして高齢の男性の病室に女性スタッフがタオルなどを持って入ってきた。

 ちなみに高齢の男性の担当がみなかわいい看護師さん。スタッフが多かったため。この病室に来てから。正確に言うと。家族が帰った後の方が高齢の男性はニコニコご機嫌だったりするが――これは家族の人は知らない事である。


「あっ無理して起きなくていいですから」

「いやいや、かなりマシになってきましたからね。このベッドが楽で」

「でも無理はダメですよ」


 スタッフの女性が棚にタオルなどを閉まっていると、高齢の男性は少し身体を起こしてスタッフの女性の方を見つつ話しかけてた。

 

 ちなみに初めてのところでは人見知り。あまりスタッフの人と話さない人も居るかもしれないが。この病室の高齢の男性はよく話す方だった。それと、若い女性の人と話すことが慣れているような雰囲気もあった。さらにさらに、この高齢の男性は外来から病棟へと来た後。高校生くらいの女の子2人と男の子となかなかにぎやかそうな感じで来ていたため。見ていたスタッフの人たちの間でも、子供が多いおじいちゃん?お孫さん?などなど少し話題になっていたのだが。この高齢の男性は知らない事である。


「そういえば松尾さん」

「なんじゃなんじゃ?」

「先ほど一緒に来ていたのは――お孫さんたちですか?賑やかそうでしたね」


 すると、タオルなどを持ってきた女性スタッフが片付けをしつつ高齢の男性に話しかけた。


「あー、男だけが孫でな。あとは孫の友達なんじゃよ」

「あっ。お友達だったんですか。そういえば、あの男の子しっかりした体つきだったから。少し話題になってましたよ。かっこいいって。そりゃ女の子も付いてきますかね」


 そして、孫のことを褒められた高齢の男性。さらに機嫌がよくなっていた。腰痛も忘れているのではないだろうか。という感じだった。


「まあちょっとじゃな。ふはは――ふ、ふ――ふあっくしょん!―――ぎゃああああああああ」


 そして油断したのだろう。いや、油断したというのではないかもしれないが。高齢の男性。ふと埃でも吸ったのか。くしゃみをそこそこ盛大にして――。


「松尾さん!?!?ちょ、誰か!」

「―――あががががが」


 くしゃみと同時にくの字の形でフリーズ。それはそれはこの世の終わりかのような表情となり。数秒前までのにこやかな高齢の男性の面影が無くなったこともあり。片付けをしていたスタッフの女性を大慌てとなったのだったが。

 何とかそのあとゆっくりと横になったことで、大事にはならず落ち着いた――のだったが。まだ終わらない。


「いやはや――死ぬかと思うたわい」

「松尾さん。安静にしていてくださいね。悪化したら大変ですから」

「すまんすまん」


 何とか痛みが治まった後高齢の男性は今度は女性スタッフの声を聞いてやってきた男性の看護師さんと話していた。

 

「松尾さん大丈夫ですか?」


 すると、先ほどの女性スタッフも心配になり再度様子を見に高齢の男性の近くへとやってきた。

 

「大丈夫じゃ大丈夫じゃ」

 

 バンバンと、高齢の男性は元気のアピールをするためにだろう。少し布団を叩いた。すると――埃が舞ったのだろう。


「あれ――誰かが噂していたのかもしれ――ふっ――ふあっ!?」

「「あっ」」


 高齢の男性が大丈夫アピールをして数秒後。男性看護師と、女性スタッフの声が重なると同時に――。


「ふあっくしょん!!ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」

「「松尾さん!?!?」」


 再度とある病室内に悲鳴が。そしてまた騒がしくなったのだった。

 なお。このくしゃみは――本人の責任……いや、もしかすると誰か噂していたのかもしれないが。高齢の男性は知らない事である。


「ぐぁぁぁぁぁぁ」


 今日のとある病室内。かなり騒々しかった。でも、なんやかんやありつつも。いつもとは違う日常を楽しむ?高齢の男性だったとさ。


「あっ、ぐああああっ。あっ!?」


 楽しんでいるのかは――微妙かもしれないが。でも2度のくしゃみでも何とか――大事には至らなかったとか。

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