第75話 2度あることは……8

「今日松尾君のところに泊めてくれないかな?」

「……はい!?」


 公民館前駅に到着したところで、長宮さんは何を言いだすんだ?と俺は思いつつ長宮さんの方を見た。。


「いや、だってさ……」


 そう言いながら長宮さんはスマホを取り出しつつ。現在の時刻を俺に見せてきた。そして、俺もそこで長宮さんがなんでそんなことを言ってきたのか理由がわかった。


「あっ、大学前に行く最終電車……出たか……」

「そう、実はさっき駅に着いた時気がついんだけどね。あの時乗って来た電車の折り返しが最終って」

「いやいや、ならその時言ってくれたら。俺は田園に行く電車はまだあるの知ってたから長宮さんの乗る方の電車の事は気にもしてなかった」


 そう長宮さんは俺とは違って田園方面ではなく。大学前方面へと今から帰らないといけないのだ。

 大学前方面に向かう最終電車はすでに出た後だった。

 田園の方にはまだ最終が1本あり。俺は一応最終の時間の電車は知っていたので、特に急ぐことなく。結崎を家に送り駅へと戻って来たのだが。それではダメだったらしい。


 ちなみにこの田園前へと行く電車は、その後田園駅から折り返しで公民館前までしか走らないんでね。ここが車庫みたいな扱いだからだ。だからほぼ回送みたいな電車があるだけだ。俺がそんなことを思っていると。


「大丈夫大丈夫。親にはとっくに連絡済みだから」

「いやいや、ほんと言ってくれたら」

「いいから。とりあえず泊めて?松尾君が許可くれないと私今日野宿なんだけど?ゆえとこに戻ったらー……だけどゆえが休めなくなるからね」


 明らかに早く頷け。という感じで長宮さんは楽しそうに話してきている。


「……じゃ、うん。そのかわり……じいちゃんばあちゃんがもうとっくに休んでるから。俺の部屋になるけど?それでも?」

「問題なしなし。むしろ松尾君と語らないとだからねー。松尾君と一緒じゃないとダメだね」

「いやいや、マジ?」

「マジマジってことでこの最終は乗り遅れたらー。だからホームで待っていようよ」


 長宮さんはそう言いながら駅のホームへと向かって行ったので、ため息をつきつつ俺も長宮さんの後ろに着いていく。


 そしてホームに2人で立ってから、少しして電車の走る音が聞こえてきた。


 まだ電車の姿は見えてこなかった。ってあれか。静かだから踏切が鳴る音とか、走行音がかなり前から聞こえてきているみたいだった。音は聞こえて来たけど。という時間が少しあってから。電車の明かりが見えてきた。


 ちなみに俺の望み。希望が1つこの時あったいや「楚原さんじゃないといいなぁ……」とね。

 いろいろと後で情報がまわりにまわって、楚原先生に情報が辿り着いてしまうと。休み明けがね。いろいろあるとなんで。下手したら夏休み中にお呼び出しとか嫌だからな。図書室は一応何日か夏休み中も開いている日があるんでね。


 とか俺が思っていると、ここは俺の希望が叶ったのだった。


  最終電車は楚原さんではなかった「よかったー」と思っている俺だった。


 田園駅へと向かう最終電車が公民館前駅に着くと8人ほどの人が降りて、2人乗車した。もちろん俺と長宮さんだ。


「いやー、貸切だね」


 長宮さんはそう言いながらロングシートの真ん中に座った。


「この区間はどの時間でもこんな感じだけどね」


 俺が言いつつ座ると長宮さんは俺の正面へと移動してきて。


「いいなー、これなんでもできるじゃん。足伸ばして反対の座席にー、とか。寝転んだりー。とか」

「やらないように」

「はいはい。しませんよー。子供じゃないからねー」


 長宮さんはそう言いながら、いたずらっ子っぽく笑っていた。決してガキだろ。とかは思っていない。こんなところで長宮さんのご機嫌を損ねたら……超大変な未来が待っているんでね。


 それから少しして、俺と長宮さんを乗せた田園行き最終電車は無事に終点へと到着した。


 俺と長宮さんがホームに降りて改札を抜けると……真っ暗。まあいつも通りだなぁ。と、俺が思っていると。

 後ろの方では、というか駅の方では。この最終電車はすぐに田園駅に着いてから。すぐに公民館前駅へと向かうらしく。また電車の走り出す音がすぐに後ろから聞こえてきた。


 俺がそんな音を聞いているとお隣から。


「松尾君松尾君」

「うん?」

「おんぶしてよ」

「—―はい?」


 長宮さんが楽しそうにそんなことをいきなり言い出したのだった。


「誰も見てないからいいでしょ?」

「いやいや、なんで?」

「いやー、ゆえを見てたらしてほしくなったというかー。久しぶりにされてみたくなったから。あと歩くの怠い」

「いやいや、っか、暑いし。汗かいてるし」

「いいよ。別に。私も汗かいてるし。気にしないよ?」

「っかおんぶする必要なくない?」

「あー、なるほどなるほどゆえにしかしないと。いいのかなー?私が拗ねたらいろいろバラすよ?超高速でまずメッセージで全員に送信するかもだよー?男子の一部に送ったら松尾君夏休み明け大変かもねー」

「怖っ。ってか。はぁ……はいはい」

「そうそう。素直が一番だよ?松尾君?にひひー」


 俺は結局従うしか方法がなかった。いや、いろいろバラまかれるのはだからね……長宮さんならマジでやりそうなので……というか。この場で即。まず蓮花寺さんにー。からの拡散。が見えたんでね。

 なので俺は立ちとまり。その場にしゃがむと。


「失礼しまーす!」


 楽しそうに長宮さんが言い俺の背中に乗って来た。ってかジャンプしてきたな。危うく前にズッコケるところだった。にしても、長宮さんの方が軽いな。とか俺が思っていると。


「私重いでしょう?」

「いやいや、軽いよ。めっちゃ」

「そう?なら松尾君の家までしばらくよろしくー。軽いんだもんねー。空気みたいな存在なんだもんねー。よかったー」

「……返事をミスったか」


 誰も空気みたいとは言ってないからね?そこそこの重さはあるからね?と俺が思っていると。


「にひひー。ってか、おんぶされるっていいね。これはこれでなんか落ち着くわー」

「ちょ、長宮さん。汗かいてるからあまりくっかなくても……」

「いいじゃん。別に嫌なことないし。ってか松尾君あとでお風呂貸して?」

「ああ、シャワーになるかもだけど。多分じいちゃんばあちゃん入り終えてるからお湯抜いて……いや、俺が最後だとそのままかもしれないけど」

「大丈夫大丈夫。暑いからささっとでいいからね。まあお湯があるなら入りたいけどー」

「はぁ、っか、なんでこんなことに……」


 とりあえずそんなことを言いながら話していたら俺と長宮さんは松尾家にへと到着したのだった。

 結局ホント最後までおんぶだったな。俺の部屋に入るまで長宮さん降りなかったし。

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