第48話 花火

「あらまあ。結崎さんじゃない。ちょっと守や。結崎さん来るなら先に連絡しんしゃいよ」


 結崎を見ればご機嫌になるうちのばあちゃんです。

 突然なんだ?だがとりあえず今はもう家に着いたところだ。


「いやちょっと急にだったから」

「すみません。ちょっとおまつりの途中に花火を当てちゃって、場所だけ貸してもらいたいな――と」

「なら守や。畑のところ自由にお使い。そうそうその前にご飯作るからね。食べてって結崎さん」

「えっ。急に来たから大丈夫ですよ」

「いいからいいから。ゆっくりしていきなさい」


 ★


 これが少し前の出来事。


 俺と結崎は大学前からそのまま田園駅へとやってきて、先ほど俺の家へと到着した。本当に花火やりに結崎は家まで付いて来たというね。


 そして結崎が家に来たということは、もちろんばあちゃんが頑張るというね。まつりの後だが。俺達は夕方くらい。いや、夜と言ってもいいか。でも途中までしか会場には居なかったので、今はまだ外は少し明るい。っか、今は日が長いからね。まだまだ明るい。なので花火はもう少し暗くならないと――なのでとりあえず俺と結崎は俺の部屋へと移動した。


 あと、ばあちゃんがご飯作るからと張り切っているのでね。まあ待機である。


「そういえば勢いで来ちゃったけど、おばあちゃんたちに迷惑だったよね?」


 結崎がベッドに腰かけつつ言った。って、結崎は結崎でホントこの部屋。俺の部屋の中でもいつも通りだ。いい事なのだが――なんかね。いいか。


「いや、まあ大丈夫だと思うけど、ってまさか本当に来るとは俺も思ってなかったけど」

「えー、松尾君が提案してくれたんじゃん。それに花火部屋に置いておいても使わないとだから――」

「まあってか花火結構あるよね?」

「50本?もう少しあるかな?」


 結崎が花火の入っている袋を見つつ言った。


「まあ2人ならすぐ終わるか」

「久しぶりだからちょっと楽しみんだなー」

「そういえばさ。気になっていたんだけど、結崎は射的得意だったの?」

「えっ?うんん。全く」


 いやいや自信ありみたいな感じだったじゃん。その場の思いつきだったのかよ。


「——じゃ何故に射的を?」

「目についたから。かな?ちょうど近くにあったから……勢いで」


 はい、答え合わせありがとう。俺あたりだったらしい。


「倒せなかったら今頃も結崎がいじられてたなー」

「もう。ってか。松尾君も悪いんだよ」

「何故に!?」

「——みんなに甘いし」

「甘い?」

「——えっと、それはいいから。でも2人にいろいろ言われて疲れたー。1週間分の体力使ったよ」


 そんなことを言いながら背伸びをする結崎。


「疲れたなら家に帰って休むもあったかと――」

「だから前に言ったじゃん、松尾君と居るのが私は楽なんだよ。だから……まあなるべく一緒に居ると楽だからね」

「楽ね」

「そうそう。近くに居ると勝手に回復ってね」

「いやいやだからそんな効果ないからな?」


 俺が言った時結崎は何か閃いたみたいだ。


「あっ!ねえねえ松尾君」

「うん?」

「ちょっと疲れたから――松尾君こっち来て」

「はい?」


 手招きをする結崎だったが――すぐにその手は止まった。


「あっ――ごめん今の無し」

「さらに、はい?」

「無しで」


 何か言い出したと思ったら、すぐに首をフルフルした結崎は、そのままベッドに横になって顔を隠していた。って、こっち来て。ってもしかして俺は結崎にしばかれるのだったのだろうか――危ない危ない。


 って結崎。足バタバタはやめて。なんか駄々こねてる子供みたいでかわいくも見えるが。結崎は今スカート。制服だから。気が付いて。姿を思い出して。

 今日はもう長宮さんの見たから。ちょっとかわいいの見ちゃったから。ってこれ言ったらマジでしばかれるから――忘れよう。


 結局結崎はギリギリを攻めたというか。気をつけていたのだろう。スカートがめくれ上がることはなかったが。かなり際どかった。太ももまでは見えていた。って俺そんなに見てないからな?気になっただけですから!——見てるって?言うな。


 ♪♪~


 とか思っていたら俺のスマホが鳴って、結崎はそれで落ち着いたのか。普通にベッドに座りこちらを見ている。電話の相手はばあちゃんからで、ご飯できたよ。のサインだったんだがね。

 なので俺と結崎はじいちゃんばあちゃんの家へと移動した。


「——だからどこからとんかつが出てきたんだよ」


 じいちゃんばあちゃんの家に行くと、本日はとんかつ。マジでどこから肉出てきたんだよ。今晩の夕食がとんかつとか俺は聞いてなかったからな?っか急遽作ったのだろうが。マジでどこから材料出てきた?この家隠し部屋あるの?


「すごい――美味しそう。お店みたいだね。綺麗なとんかつ」


 結崎はそんなことを言っていたが。俺的には魔法のようの出てくる食材の方が気になってるよ。実は未来のロボットがこの家のどこかに居るのではないかとか一瞬思ってしまった。


 ってか結崎が来た時だけはホントまあ――なんというか。ばあちゃんは瞬間移動が出来て買い物に即行けるのだろうか?とかも真面目に考えたよ。

 だって普段とんかつとかほとんど出てこないし。ってかちゃんと4つ肉があるのがびっくりだからな?ってか、じいちゃんばあちゃんもよく食うな。すでにじいちゃんはとんかつ食ってるし。

 ちなみにじいちゃんは、からし派らしく。からしを塗って食べていた。

 あれはあれで美味いんだよな。ちなみに俺は味噌派だ。ってか味噌とからしも合うな。それをご飯の上で――が最高。ってそんなことはいいか。


 結崎登場により本日を豪華な夕食となった松尾家だった。


 それからご飯を食べ終えて結崎がばあちゃんと一緒に話しつつ片付けをして、その後に俺と結崎は畑の方へと移動した。


 その頃にはすでに外は真っ暗なため。懐中電灯2つ持ちである。

 ちなみに結崎が片付けを手伝ってくれている間に俺はじいちゃんから懐中電灯と、ロウソクを借りておいた。

 そして結崎とともに花火を持って畑へと来たところだ。


「うわ。真っ暗。ホント真っ暗。ちょっと怖いね」

「まあ畑には街灯とかないからな。っか、結崎マジで足元は気を付けて。穴開いてるかもだし」

「うん。あっ、星綺麗だね」

「言ってるそばから上見てるよ。って、まあここ何もないからね。冬はもっときれいだよ」

「いいなー。また冬も見に来ていい?」

「えっ?あー、まあそりゃ。寒いけど」


 今は暑いが。冬は冬で寒いんだよ。風が抜けてね。って、今は風ちょっと弱いから暑いのだが。花火的には良しだろう。


「ありがと。って、ホント暗いね」

「でしょ。まあここなら周りに燃えるものない。バケツも準備したし。花火始めるか」

「うん。やろう」


 俺と結崎は懐中電灯の明かりを頼りにロウソクに火をつけて――近くにあった平らな石。ブロックかそこにロウを溶かしてロウソク固定。


「松尾君。慣れてるね」


 俺がそんな作業をしていると隣に来た結崎が言った。


「いや何となくね。でも風が吹いてくるとすぐ消えるかも」

「じゃ、とりあえず早く花火をつけようか。花火が1つ付いたらどんどんつけていけるし」

「結崎は両手に花火とかしたそうだな」

「バレたかー。って。小学生の頃は危ないからで、1つしか持たせてくれなかったんだよね」

「それが普通の事かと」


 そんなことを言いながら結崎は手持ち花火を袋から出してロウソクのところへ。

 すると少しして――シューーっと、花火に火が付いてちょっとまわりも明るくなった。


「うわー、すごい。今の花火ってこんなにどんどん色変わるんだね」

「ホントだな。予想以上に綺麗」


 花火とか久しぶりにしたが。結崎のいうようにこんなに色とりどりというか。色変わるんだなー。とか俺も思いつつ自分の持っている花火に火をつけると。こちらの花火はパチパチと。あれか。スパークとか言う花火だった。


「あっ。松尾君のもいいね」


 結崎はそんなことを言いながら半分くらい燃えた花火に新しい花火を近づけて2本持ちへ。まあこうやってすればロウソクが消えてもだが、危ないので良い子は1本ずつ使いましょう。だろう。まあ周りで誰か見ている人は居ないからいいと思うが。


 ってか、ふと見た結崎表情。めっちゃいい笑顔だった。ホント花火を楽しんでいる様子だ。っか、今気が付いたが俺達制服のままだったな。制服姿で花火。こんなことを俺がすることになるとは。


「結崎。一応言っておくが制服を燃やさないように」

「そんな子供じゃないから」


 とかまあそんなことを言いながら俺たちはどんどん花火を消費していった。っか、めっちゃ楽しかった。

 途中結崎はなんかスマホで撮影にも挑戦していた。結構苦戦していたが。でも何とか撮れたらしい。ちなみに、主に俺が花火をしてそれを結崎が撮っていた。

 いやホント花火綺麗だったんだよ。途中手筒花火?というのかは忘れたが。1メートルくらいシューと出る花火とかがあってホント盛り上がった2人だった。


 それから最後は線香花火。

 俺と結崎はロウソクを挟むように向かい合って火のところへ。


「私これ得意なんだ」


 そう言いながら結崎は線香花火を持って火のところにしゃがんだ。


「線香花火って揺らすとすぐ落ちるんだよな――って結崎」

「松尾君。火もうついたから静かに」

「……はい」


 ガチだった。線香花火中の結崎めっちゃ真剣。っか、俺は結構大事なことを言いたかったのだが。結崎から話しかけるなというオーラがあったため。そっと少し場所をズレた。ってそうだよな。俺がずれたら何も言わなくてよかったんだな。正面に行った俺のミスだな。ちなみに今日何度目かの光景だが。結崎のは見ていない。以上だ。


 それから俺たちは1人3本ずつ線香花火をやったのだが。俺は3本中1本しか最後までいかなかったが。結崎は3本とも玉が落ちることなく最後まで――シュッと火が消えて終わるところまで線香花火を楽しんでいた。

 なお線香花火中はマジで静かだった。結崎の集中力のすごさ。怖さよ。めっちゃ真剣に線香花火をしていた。


「綺麗だったー」


 最後の花火が終わり結崎がつぶやいたので多分話していいだろうということで。


「結崎すごいな。全部最後までいっていたから」

「せっかくなら最後まで見たいからね。超集中ってやつだよ」

「俺2回はすぐ落ちたからな」

「って……そういえばさ」

「うん?」

「なんで松尾君——その私の隣に移動してきたの?」

「えっ?」

「はじめは正面に居たのに」


 いやいや結崎さんよ。俺はあなたが恥ずかしい思いをしなくていいように移動したんですよ?ってか今の姿勢で気が付いて。なのだが。結崎は何故か嬉しそう?いや、これは花火を楽しんだ後だからか。って、気が付いてないのかよ。


「いや――まあ風の向き的に」

「うーん。今風なかったよね?他に何かあるんじゃない?」

「何もないです」

「今日の松尾君怪しいこと多いねー」

「いやいや。ホント」


 いやマジで。さっき向かい合ってしゃがんだ時に見えそうだった。とか言えないから。っか、言ったら絶対結崎怒るじゃん。その未来が見えてるから伏せてるの。わかってくれである。


「と。とりあえず片付けようか」

「あっ。話変えた。これ絶対何かある」

「ないから。ほら」

「絶対あるよ。何で隣に来たのかいう事ー」


 結崎がちょっと俺の腕を攻撃しつつ言ってくる。


「だから風の都合」

「嘘だー」


 そんなことを言いながら俺はとりあえず立ち上がる。これで安全。


 そして花火を捨てていたバケツを持って懐中電灯を持つ。すると結崎も立ち上がって手に持っていた線香花火をバケツの中に入れた。


 そして、ぶつぶつ言っていた結崎が懐中電灯を持ったのを確認して俺たちは家へと戻った。

 途中行きと同じ暗い道を歩いている時に結崎がさっきの俺の移動は何だったの?みたいなことをまた聞いて来たが。聞くことに気を取られた結崎がちょっと躓いた。ということがあり。あの話は上手い事流れていきましたとさ。良かった良かった。


 っかそのあとに気が付いたのだが。結崎は俺が隣に来たことを、なんでか?と聞いていたが。そういえばそうか。正面の時は見えそうだったから。俺はその後結崎の隣に移動した。結崎が気にしていたのは隣に来たこと。つまり、なんかこいつ寄って来た。なんでだ!?を結崎は聞いていたのかもしれないと。もう終わったことなので――掘り返すことはしないが。変な勘違いを結崎が思っていないといいなとか思っている俺だった。

 いや、なんかまるで俺がわざわざ隣に接近したみたいだったからな――あれはミスだな。注意が必要だ。


 それから家へと帰って来た俺達。

 どうやらじいちゃんばあちゃんはすでにお休みの時間だったらしく雨戸などは閉まっていた。もうそこそこいい時間だし。花火が終わったら結崎は帰るから。って、事前にばあちゃんたちには言ってあったからな。結崎もさっき出てくるときに先に挨拶してたし。


「ちょっと待ってて。水道のところにバケツ置いてくるから」

「あっ、花火の片付けお願いする形になるね。ごめん」

「これくらいいいよ。下手したら朝起きたばあちゃんがしてくれそうだけど」


 結崎と話しつつ俺は一度水道のところに花火を置きに行った。そして俺の部屋に置いてあった結崎の荷物を取りに向かった。


「あっ。制服にニオイ付いたね」

「まあ途中で煙の中に居たからな」

「あー、髪とかも付いたよね。早く帰って洗わないと」


 部屋の中に入ると自分たちの服に付いた匂いが良く分かった。まあもう帰って風呂に入り寝るだけだから、問題ないか。結崎は電車に乗らないとだけど。田園駅から公民館前駅にこの時間に人が乗ることはまずないだろうからな。大丈夫だろう。


「とりあえず送るよ」

「ありがと」


 俺は貴重品を持って結崎とともに部屋を出た。にしても、この流れ何回目だろう。まさか高校に入ってこんな生活があるとは思っていなかったな。とか思いながら俺は結崎とともに駅の方へと話しながら歩いた。


「ってか、花火している時は楽しくて忘れていたけど、暑いね」


 結崎が手で顔を扇ぎつつ言った。


「そういえば、熱帯夜とか言うやつだな。あっ、部屋エアコン付けてくるの忘れた」

「私の家は誰も居ないから熱がこもってるかなー。サウナだよサウナ」

「誰も居ない部屋に入るともわっとしてるよな」

「そうそう。部屋にあるものすべてが熱持ってるって感じでね」


 結崎と話していると田園駅へと到着した。


「電車が来るまであと――5分くらいだね」

「だな」


 各自スマホで時間を確認。俺はまだ結崎を家まで送ってもこちらに帰って来る電車があるため。結崎とともにホームに入った。


 それから……10分後。


「あれ?ねえねえ。松尾君電車来ないね」

「そういえば――おかしいな」


 話していてふと気が付いた2人。スマホを再度見てみると。すでに電車の発車時刻は過ぎているが、あれから電車がこの駅に来ることは今のところない。音も聞こえないのでこちらに向かってきているということはないだろう。


 ちなみに大きな鉄道とかなら遅延情報とかがアナウンスされていると思うが。この鉄道。そもそもアナウンス。放送が無い。田園駅は無人駅なので――災害とかで運休の場合は手書きで改札のところに看板が書かれる。というか。台風とかが来ている時は事前に。運休するかも。と書かれているから更新されず運休ってのが前にあったか。

 いやここまで職員さんが来れない可能性があるので。予告という形で。何度かそれは見たことがある。


 が、今日は特に雨も降ってないし。暑いだけで晴れているはず。なのに電車が来ない。


「ちょっと調べようか」


 この鉄道の事を調べるなら、あまり更新されてないのだが。ホームページが一応ある。そこに情報が出ていることがあるのでスマホで調べてみると――。


「えっ?運転見合わせ」

「なんで?」


 そんな文字がホームページには赤字で書かれていた。どうやら1時間くらい前に。


「電気系統のトラブル?で全線運転見合わせだって」


 俺はスマホの画面を結崎に見せた。


「えっ……どうしよう?いつ動くかな?」

「これは――どうだろう」


 駅の人に聞くと言っても、先ほども言ったがここは無人駅。電車が止まっていて運転手が居るなら聞けるが。今はそれは出来ない。もちろん本社に電話をするという方法もあるかもだが。でもホームページには運転見合わせと書かれているので、同じ答えが来るだろう。


「ここから歩いて公民館前までは無理だもんね」


 線路の先を見つつ結崎がつぶやく。


「めっちゃ大変というか。道なき道を歩くことになるから絶対夜はやめた方がいいって、昼でもやめた方がいいと思うけどね」

「めっちゃ怖いじゃん。それってか松尾君とこホントすごいところに住んでるよね」

「そうここヤバいとこなんだよ。基本電車が止まったら孤立だからな」

「どうしようかな」


 現状を言うと電車が止まり結崎が家に帰れないだな。さてさてどうしようか。

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