第80話 レンガ職人

 ドワーフ村の工房は、弟子として使わせてもらっていたので無料だった。だけどここでは余所者だ。


「炉の使用は1日100ゴールドだぞ」

「はい」


 工房長にレンタル料を支払って使わせてもらうんだが、炉の使用料だけで済んでいるのはラッキーだったと思う。金床は元からあるが、金バサミ、ヤスリ、金槌は自前かレンタルになる。この工房の特徴は固定された坩堝るつぼから流れるところにバケツ(取鍋とりべ)が無いこと。だから取鍋もレンタルがあるんだが、ドワーフ村出身者が金出してレンタル品を借りるのはいただけない。

 ということで、我々は道具を共用することに決め、専用掲示板を作った。


 _______________

 <アルフヘイム 金属加工工房 共用道具>


 ・金槌(銅)89% 

 ・金槌(銅)72%

 ・金槌(鉄)76%

 ・金槌(鉄)90%

 ・金槌(鋼)43%

 ……

 ………


 ・取鍋(ひしゃく形)22%


 _______________


 各項目ごとに掲示板があって、壊れたら消し、新しい共用道具はスレ立てして所持者を書いていく。

 こうでもしないと新しく始めたい奴の生産活動が出来なくなってしまった。

 2陣が到着したころ、ちょっとだけ生産スキルを使いたい奴ができないという苦情がいくつか出て、それで作られたプレイヤー間の互助組織みたいなもの。それがここ数週間に出来た。

 これが評判良く、新規参入してきた作り手も、自分の作った道具をたくさん共用化してくれている。


「取鍋サンキュー!」

「サンキューって、それハッチさんたちが買った奴ですよ」

「マジか!?」


 ちょっと前の、取鍋が欲しくて作ろうとしたが、中の耐火レンガが無くてグスタフさんと共に一度断念した。

 その時、掲示板で有名な石工がいると聞いて連絡したところ、専門外だが作ってくれると言う話になった。こちらも色々送った対価としてもらったのがコレ。


【取鍋(ひしゃく形)】生産者:磊石磊

 素材:鉄、レンガ

 耐久値:21%


「確かにライシライさんのだ」

「結構使い回してるので、かなり耐久値が減ってきちゃいました」

「うーん。新しいのが欲しいところだけど、あんまり石工っていないんだよなぁ」

「僕も石工スキルを取り始めましたけど、まだまだ育ってませんねぇ」


 ライシライも依頼が多くてなかなか新規の注文ができない。

 となると、目の前のポンコッツ君を育てるしかないか。


「あといくつ育ったら挑戦できそう?」

「あと5は上げないと厳しいですね」

「5かぁ。ちょっと大変だな……よし! ブーストかけよう」

「え? ブーストって」


 全て任せてくれ。


 _______________

 <アルフヘイム 金属加工工房 共用道具>

 ・緊急 石工育成計画


 1:発起人ハッチ

 いままで何個かの古い取鍋を使い回して来たけど、とうとう使えなくなりそうになってきた。新しい取鍋が必要だ。

 だけど、石工のパイオニアであるライシライさんは忙しく、新規の注文は受けていない。ということでアルフヘイムの石工(レンガ職人)を作ってしまおう。

 私はポンコッツ君とロキ君を推薦する。


 2:テロップ

 了解です。資金と素材の提供でしょうかね?


 3:ぶち猫

 問題なし!

 周りの人にも言ってくる。


 4:ドリル

 諾


 5:スコッパー

 諾


 6:強牙

 釣竿くれ

 ……

 …………

 _______________


 諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾諾。


「おめでとう。これで君もしばらく石工に専念できるぞ」

「はぁ……僕は希望してるので構いませんが、ロキ君って神社のですよね? 勝手に決めて良いんですか?」

「問題ない」

「本人に聞いた方が」

「気にするな」


 教会は出来なかったが、代わりにレンガを作ってもらおう。100万ゴールド分の働きはしてもらう。これは決定事項だ。

 あいつのことを考えてたら頭が痛くなって来た。早く鍛冶しに行こう。


 工房の中で十数人が生産活動に勤しんでいる。俺に気づいた数人が集まって来た。


「さっきの見たよ。ロキを逃さないようにしないとな」

「そうそう。その話してたんだよ」

「興味を惹かせればいけると思うって話だ」

「面白い建物の画像でも見せりゃ良いと思ってね」


 すでに結論まで行ってる。

 この集まって来た奴らも多少教会作りの寄付をしてたので、あの神社に不満を持っている。いっそのことロキの首塚にしてやろうかという話まで上がったほどだ。ただ、関係ない人たちからの評判が良く、言い出しづらくなってしまった。


「多少はこっちの役にたってもらわないとな。そんなわけで、みんなで何とかロキ君をレンガ職人にしよう」

「「「「おう!」」」」


 硬い握手を交わして、それぞれの生産活動へ戻る。


「はぁぁぁん! ほい!」

「うおりゃぁぁぁ!」

「うぉぉぉぉ!」

「ブチ抜けえええ!」


 誰を想像してやっているのか、気合いの入った良い打ち下ろしだ……が、ぶち抜いたらいかんよ。

 さて、俺も久しぶりに始めよう。

 まずはインゴット作りからだな。

 備え付けの坩堝に鉱石を入れ、フイゴで空気を送り込みながら火力をドンドン上げていく。


「溶け散れロキ君!」


 ん? 本格的な耐火煉瓦ができたら、反射炉出来るんじゃね?

 そうなったら自分たちの工房も作れるのでは……。

 誰かに相談してみようか。

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