第45話 装備破壊とは

 さて、本日も作成にいそしみますかと工房へ向かう時、新着メッセージが光っているのに気づいた。


「アランから?」


 珍しいな。あっちもやること多くて忙しいと聞いていたけど、どんな用事かな?


 ”ヘイ! ハッチ!

 ブログ見たぞ! 釣竿作ったって言うじゃないか。

 誕生日の釣り大会で取った権利を使わせてもらうよ!

 俺に釣竿くれぇぇぇ!”


 文章からテンション高めなのはわかるが、あんなポンコツ竿を渡すのは申し訳ない。「もうすぐ、新しいのを作るから、性能が良かったらそっちを送るよ」とメッセージを返しておいた。


 タイミングも良かったし、今日作ってしまうか。

 その前に、親方に装備破壊について聞いておかないとな。




 雑貨屋の品揃えに比例して、お客さんも増えてきた。階段を降りると、弟子とお客さんが入り乱れてワチャワチャとしている。

 ちなみに、弟子人数が増えると店の販売スペースも増えるシステムらしい。俺が始めた当初は、4畳半も無かったと思う。今では幅10m四方のスペースが確保されている。その割には品数少ないんだけど、ナイフ一本から始まったと思えばかなりの進歩だろう。


「ハッチ氏!」「ハッチ氏だ!」


 最近、武具工房の弟子たちに、○○と呼ばれるようになった。彼らがどういう基準で氏呼びするのかわからないが、釣り仲間にもよく呼ばれるので違和感は無いかな。俺の次に古株のぶち猫さんは、さん で呼ばれているよ。


「今日も工具買いに来たの?」


「いえ。今日はハッチ氏の新作で、針金が出たと聞いたので!」


 そういえば、劣化品の針金を販売に出したっけ。


「でも、あれは性能良くないよ?」


「良いんですよ。試作品の練習用なので」


 そう言って、楽しそうに頷き合っている。そこから話が長くなりそうだったので、用事があると言って切り上げてきた。離れた後に、弟弟子のドリルマスターさんとスコップ魂さんが加わって、盛り上がって会話している様子が見えた。彼ら2人が数少ない氏呼びされる人たちだ。名前の通り、ドリルとスコップをこよなく愛していて……。色々と熱心な人だよ。


「手動ドリルは出来たのか?」

「鉄板が綺麗に曲がらなくてな」

「それは分厚すぎるんだよ」

「やはり薄く出来るようにスキルを上げないと」


 そんな会話が聞こえてくる。俺もそこまで出来ないから、頑張ってくれと心の中で祈っておく。




「来たか」


 工房で親方が出迎えてくれた。


「今日は納品ありますか?」


「何言ってるんだ? お前の納品はストップさせているぞ」


 へ?


「なんでですか?」


「なんでって、お前魔法陣覚えるんだろ? モーディン神官から、そう聞いてるぞ」


 モーディン? 神官さんの名前を聞いてなかったな。確かに魔法陣を覚えるって話だけど……。そういえばクエスト終わらせろって言われたっけ。あと残ってるのは木工の修練か。


「そうでした。早くやった方が良いんでしょうか?」


「早くする必要は無いが。その間新しいクエストは一切クエスト受けられないぞ」


 うぇ!? 結構キツイ制限だぞ!

 納品依頼の方がスキル経験増えるし、販売額以上に貰えるからな。早めに魔法陣進めた方が良いか。オトシンさんも受けるとか言ってたから、一応教えておくか。


「早めに進めるとして、親方に聞きたいことがあったんです」


「なんだ?」


「装備破壊ってスキルを聞きたくて」


「そいつはな……」


 通常のスキルは生産か戦闘のどちらか専用にしか使えないが、特殊アーツとあるように、装備破壊はどちらでも使える。

 このスキル使用時の注意点として、スキルLV20以上の生産道具が必要ということ。


「ハンマーかツルハシで戦えば良いのかな?」


 試しに持ってみるが、戦闘で使えるようには見えない。


「いや、そいつをメインに使ったら壊れるだろ。専用の装備を作るんだ。それを武器を持つ反対の手に装備して使う」


 ハンマーを左手に持ち替えて、右手に鉈を構えてみる。動かしづらい上に……。


「まるで蛮族ですね」


 横で見ていたぶち猫さんが呟いた。

 まさにその通り。


「仕方ねえだろ。つかみ箸で戦うか? ありゃぁ戦い辛えぞ」


 親方はやったことあるのか!

 つかみ箸で装備破壊って引っぺがすのかな?

 そんな時間無いし、今のところはハンマー一択か。

 ツルハシは両手持ちだから、緊急時以外は無理だな。


「ということは、片手用のハンマーが必要か」


 クエストは増えないのに、必要な物ばかり増えていく。

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