第22話 成人の儀式 準備

 爽やかな目覚め。

 ではなく、騒音鳴り止まぬコールに起こされて、まぶたが重い。

 這って辿り着いたコールにタッチすると、またも大音量で耳が痛い。


 プップクプップク。

 ピーヒャラポーヒャラ。


「望!モーニン!ようこそ三十路みそじへ!楽しみに待ってたぜ!」

「あ、アラン。朝から大音量はやめてくれ」

「なんだって?こんな良い日に祝うのは当然じゃないか!」

「俺達30歳超えたんだから、ちょっとは落ち着こうよ。」


 コールの向こうで鼻息を鳴らす音が聞こえた。


「何言ってるんだ。寿命150歳超えてるんだから、俺らまだガキンチョだぞ?うちの婆ちゃんエルフやってるし。シークレットとかで教えてくれないんだけどさ。そのうち天人族も出てくるんじゃ無いか?」


 アランの婆ちゃん元気だもんな。

 この前1人でカジキ釣った動画送ってきたっけ。


「そんなわけで、おめでとう!もちろんネテラ配信するんだよな?」

「そんな話してたっけ。忘れてた」

「ノープロ!ちょっと左上のボタンを押すだけさ。あとはいつも通りで良いのさ」

「わかったよ」


 俺の言葉を聞いて安心したのか、配信を念押ししてコールを切られてしまった。

 勢いだけで話してくるからな。

 それに考えなしの突撃タイプだ。

 ただ、今日の良かったところはクリケットの話をしなかったこと。クリケットを話し出したら、日本は遅れてるだの愚痴が多くなるからな。英国紳士らしく質実剛健で居て欲しいものだ。

 うなぎのゼリー寄せだけは認めない。


「無理矢理起こされて変な感じだが、いつものやっとくか。」


 いざ、神棚の前へ。

 ひざまずいて、腰から背中を反り、両腕を可能な限り天井に向ける。

 上げた両手を合わせ、ひたすら拝む!


「成人の儀式成功しますように。成人の儀式成功しますように。成人の儀式成功しますように。」


 終わってみると、心なしか恵比寿様が苦笑しているように見えた。

 これは…どう受け取れば良いのかわからん。

 これ以上やりようがないので、ゲームを起動することにした。


《ようこそ『Neo Earth Terraforming』へ。本日は種族イベント:成人の儀式 があります。ログイン開始直後より開始されます。》


「YESっと」


 視界が暗くなると、徐々にいつもの屋根裏部屋が映されていく。寝起きの感覚に近いのは、よく作られているよな。


《種族イベント:成人の儀式 が開始されました。》


「もう始まりか。アランに言われた配信押しておかないとな。えっと左上のこれだったな」


 録画マークが表示されたのを確認したので、挨拶してみる。


「えっと、初めまして?今日、成人の儀式やります。シークレット部分が多いと思いますが、出来る範囲映してみますので、よろしくお願いします?」


 拙い挨拶をしていると、ぶち猫さんが声をかけてきた。


「ハッチさん配信を。いたいた!別に挨拶無くても大丈夫ですよ。見てる人ほとんどハッチさんのこと知ってますから」

「え?そうなの?知られるようなことしたっけな?」

「まぁ、気にしないでイベント進めましょうよ。親方待ってますよ?」


 親方が待ってるなら早く行かねば。

 1階に降りると、大量の弟子達と親方が待っていた。


「今回は昼に出来そうだな。不参加が分かってる者からは、祝い品を預かってる。気にしなくて良いぞ」


 皮加工店からは預かってるみたいだね。どうせなら参加して欲しいが、夜は夜で用事があるんだ。これが終わったら、『ラブ掘』と『釣りゾンビ』でパーティーが待っている。

 通称『釣りゾンビ』。良くある世紀末ゾンビ射撃生存ゲームだ。このゲームでも釣具を使って釣りができる。釣れるのは骨魚とゾンビ魚、あと毒魚。餌は銃弾。


 他にも呼ばれたんだけど、1日で全部回れないから、比較的まともなゲームだけにした。この2つはまともな方なんだよ?


「よし。俺達は先に行くから、合図があったら広場に来い」

「わかりました」

「ひよっこ共いくぞー」


 親方とリリーさんが弟子達を引き連れて広場に向かう。

 すると、寂しい店内になってしまった。


「こんなに人がいないのは久しぶりだな。ここ最近人が増えたからなぁ」


 炉を見に行くと、珍しく火が消えている。

 こんな状態は見たことないな。めったに無いので中を覗いてみる。

 真っ暗で何も見え…赤い小人が尻文字ダンスをしている。

 目を擦ってみると消えていた。


「ちょっと寝不足だったかな。入り口に戻るか」


 陳列スペースまで戻ると、今度は茶色の小さなおっさん達が追いかけっこしている。


「はぁ?」


 俺の声にビビったのか逃げ出してしまった。

 変な幻覚まで見るとは、本格的に疲れているのかもしれない。

 もっと寝ておけば良かったか…。


《成人の儀式の準備が整いました。目的地:ドワーフ村中央広場》

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