第15話 祝い品

「あぁぁぁぁ!」


 曲げようとしたらポッキリ折れた!


「焼きが足んねーからだよ。」


 鋳つぶしても半分しか戻らない。


「ほれ。また手紙持ってけ。」


「うぇーっす。」








「またかよ!」


「細い場所で力入れるからそうなる。手紙持ってけ。」






「また来たか。」


「今回は重量減らしてきたんで、がっつり取ってきます。」


「じゃあ1層行くぞ。」




「くらえ!紐石!」


 銅の玉だと切れちゃうので、今度は石につけた。

 可能性は高くないが、これでスキルが上がらないかと思っている。


《糸術が0.1上昇》


 よし!

 やっぱり使えば戦闘でも上がる。

 石のロストも無くなったし、付ける物を変えれば長持ちするぞ。

 あとは耐えられる糸だが、それが無いんだよな。

 行動範囲が広がれば見つかると信じよう。







「ふぅ。あとは仕上げだ。」


 ハサミの留め具。

 この部分で2回壊してしまったが、今度は厚めにしたからいけるはず。


 留め具を挿して叩く!

 これで完成だが、ちゃんと使えるか…。


「可動も問題ないな。ヒビも無いし、うん。出来た。」


「かなり苦労してたわね。」


「ぶちさん。ちょっと持ってみて。」


 全面を見つつハサミを開け閉めする。


「形はあれだけど、使うのは出来るわ。」


「お疲れだな。劣化じゃない鉱石はどうだった?」


「親方!どうだじゃないですよ。一気に難易度上がるし、加減も難しくなって…。」


 スキルが足りないと、成功率の低下と難易度が急上昇する。劣化が無くなっただけで途端に作れなくなった。

 親方の話では、つかみ箸は鉄鉱石の中でも簡単な方らしい。ただし、劣化では作成できないので、鉄鉱石が最低ランクだ。


「そいつはお前からグスタフへの祝い品になる。明日までとっておけ。」


《クエスト:【つかみ箸】を作成しろ! が完了しました。》

《クエスト:ドワーフの成人祝い品 を開始します。》


 そういうことか。


「俺からより、親方が作った方が良いんじゃ。」


「馬鹿野郎!もう俺は別に作ってる!」


「え?私も作らなくて良いの?」


「お前は見習いすらなってねーだろ。石でも渡すか?」


「やめときます…。」


 確かに、小間使いの時って、作ったナイフも微妙だったな。

 とにかく渡す物は出来たから、余った鉱石で解体ナイフを作ってみよう。




「うおぉぉぉぉぉ!削れ削れ!削れろぉぉぉぉ!」


 軽く見てた俺がバカだった。

 成形と打ちは多少マシになったが、研ぎが出来ん。


「ハッチさん。もう30分ほどやってますけど…。」


「削れないのぉぉぉ!」


「放っておけ。あの調子なら、あと2時間はかかる。」


「お願いだから削れてえぇぇぇ!」



【鉄のナイフ−−】

 マイナスって2個つくんだね。



 ◆ ◆ ◆




 成人の日。

 グスタフがログインしたのは夜だった。


《ドワーフ村1(日本) 成人の儀式を開始します。》


「ドワーフ村1ってなんだ?」


「ハッチさん知らないの?日本にもドワーフ村がいくつもあるのよ。それに分散してキャラ作成されるわけ。私の友達もドワーフなんだけど、別の村にいるわよ。」


 そんな風になってたのか。


「お前ら、広場に行くぞ。ハッチはあれを持っておけよ?」


「祝い品か。忘れないように…。そうだ録画しておこう。えっと録画はここだったっけ。映ってるかな?この後、ドワーフ村の成人の儀式開始。」


 店を閉めて全員で広場へ向かう。


 広場には屋台が出来て賑わっている。

 皮屋の少女も来ている。

 昼だったらいなかったのかな?


 広場の真ん中にはキャンプファイヤーが焚かれ、その前で髭の長いドワーフが1人立っている。


「みんな揃ったな。これより成人の儀式を行う。成人する者は前へ」


 グスタフだけだな。


「では、これを装備するのじゃ」


 金属のローブ?

 キラキラ光っているけど、金属ではないか。


「鱗?」


「そうだ。成人の時だけ貸し出している亜竜のローブ。お前の時も着るんだぞ」


 話している間に装着していた。


「うむ。では皆の者。武器を掲げるのじゃ!」


 親方達の動きに習い、それぞれが自前の武器を掲げる。

 考える暇も無く言われたので、咄嗟にインベントリから出したのは。

【紐と石】


 グスタフは自前の槍を掲げていた。

 俺も成人までに少しマシなやつを作っておこう。


 しばらく掲げていると、地響きが鳴り出した。

 1分程度でおさまったが、グスタフの横に例の暗い穴が現れる。


「迎えに来た」


「「あ」」


 俺と一緒に声を出した人を見ると、テッケンさん。

 あのドワーフだよなと目で合図を送り合った。


「成人する者よ。名前を言え」


「グスタフ」


「これよりある場所へ連れていく。そこで儀式を続ける。良いな?」


「はい」


 グスタフがドワーフと一緒にあの闇に入って行った。


「儀式は成立した!祝い品をこちらへ!あとは祭りじゃ!」


「「「「「「新たな同族に祝福を!」」」」」」


 村の特に年長者達が言うと、その体から光がほとばしりキャンプファイヤーへ集まっていく。

 キャンプファイヤーの光は戻ったが、祝い品を置く場所だけ光りを残している。


「ウチからの弟子はハッチだけだな。さぁ持って行くぞ。」


 俺が会ったことのある店の人達も全員いるが、それ以外にも大勢が祝い品を持ち寄っていた。


「皆置けたな?これより新成人が戻るまで宴じゃ!」


「「「「「うぉぉぉぉ!」」」」」



 親方もリリーさんも飲めや歌えや賑わっている。


「ぶち猫さんも行ってきたら?」


「ハッチさんは?」


「今、録画してるんだ。一応全部の屋台を撮ってから行くよ。」

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