第13話 クエストと武具工房

 今日は親方の一言から始まった。


「お前、ちょっくら武具工房で使ってる掴みバシ見てこい。」


「はぁ。ウチとの違いを見てこいってことですか?」


「そうだ。しっかり覚えて帰ってこいよ。」


《クエスト:【つかみ箸】のレシピを覚えろ! が開始されました。》


 いつも突然だけど、クエストだったのか。

 このパターンはチェーンクエストの予感がするな。

 ばっちり覚えてこないと、何度も行く羽目になりそうだ。


 雑貨屋から、更に村の奥へ行くと武具屋がある。

 最近、新規の弟子が増えたので、かなり賑わってるだろうな。

 槍とハンマーの看板が見えてきた。


「そういえば一度も入ったことなかったな。ごめんくださーい。」


 中の作りは雑貨屋と似ている。

 外観の大きさも同じくらいだったし、コピペしたのか?

 親方と同じドワーフで、顔つきは違うが迫力満点の凄みがある。


「お前は確か…。」


「雑貨屋の見習いハッチです。」


「そっか。今日だったか。今使ってるが、使ってない道具は見て良いぞ。」


 グレンディルさんの案内で奥に入ると、雑貨屋より広い工房があった。

 5人程が金床にハンマーを打ち付けている。


「小間使いが増えたから、最近広くしたんだ。ハシは中央の炉の近くにまとめてある。」


 小間使い時代は、使って良い道具が限られてたからな、今の内なら掴みバシも見やすいだろう。

 炉に近づくとグスタフが剣を作っている。

 真剣な表情で火加減を見ているので、ここは黙って目的をはたそう。


「色々サイズあるな。この大きさは雑貨屋じゃ置いて無いな。」


「そいつは大剣作る時に使ったかな。重いし実戦じゃ使いづらいから、そのハシもあまり出番は無いな。あと雑貨屋で使うのと広さが違うだろ?」


 確かにハサミの先端が大きい。

 いや、広いと言ったほうが良いか?


「扱う金属がでかいのかな?」


「そういうこったな。探し出せば向こうにもデカイのあると思うが、普段使いしないだろ?」


 このサイズが置きっぱなしだと邪魔か。

 倉庫にでも入ってるかもしれない。


 留め具、ハサミ部分の角度、持ち手の太さ。

 いろんな角度から見回して他のと比べる。


「握り部分に凹凸まで作ってる。手が込んでるな…俺じゃここまでは無理。」


「ドーインのだからな。見習いじゃ足元にも着けておらん。」


 こういうニッカリ笑うところも似てるな。

 だけど親方のかぁ。

 真似するレベルまで行ってないから、レシピ取得したら練習だな。


 つかみ箸を眺めること20分。


《【つかみ箸】のレシピを取得しました。》

《クエスト:【つかみ箸】のレシピを覚えろ! が完了しました。》

《クエスト:【つかみ箸】を作成しろ! を開始します。》


 YES or NO

 YESしか無いだろ。


「ハッチさん。来てたんでっすね。」


「グスタフさん。邪魔したら悪いと思って声かけなかったんです。」


「シショーがいるってことは、クエストですね。」


「え?良く分かりましたね。」


「ふむふむ。なるほどなるほど。」


 グスタフさんは、頭の回転が早いから、時々俺が全く思いつかないことがわかる。


「ピピピビー…。私も期待しておきましょう。」


 最初の電子音は何だ?


「グスタフ。余計なことは言うな。」


 グレンディルさんが厳しい顔をしだした。


「すみませんシショー。ついポロっと。」


「ふん!そら!お前も油売ってる時間無いんじゃねーのか?」


 グレンディルさんに追い出されるように工房を出る。

 あの電子音が何か関係しているんだろうが…禁止ワードかな?

 それよりも、帰って作成しないとな。


 妙なもやもや感を抱えつつ雑貨屋へ戻ると、今度は手紙を持たされて鉱山へ行かされる。


「ほうほう。今日は1層降りるぞ。」


「え?良いんですか?」


 手紙に書いてあったのは、訓練要の鉱石取りについて。親方の許可がある時だけ1層降りられるらしい。

 ちなみに普段掘ってるところは0層。


「俺が見張ってるが、1層から弱い動物が出る。武器はあるな?」


 俺も言われた物だけを作ってたわけじゃ無い。インベントリから俺のメインウェポンを取り出す。


【紐付き銅の玉−】


 今の監督は、梅干しに八の字眉がついたような顔をしている。


「投擲しかありません。」


「死んでも恨むなよ?」


 そこは守ってくれよ!


 いつもの坑道を抜けて奥へ行くと階段があり、ここから先へは行ったことがない。

 見た目は0層と変わりないが、少し灯りが暗いか?


「ちゃんと前見ろ、来るぞ。」


 監督の言葉で意識を戻すと、奥に光る点が2つ。

 武器を構えて待っていると、見えてきたのは…。


「クソネズミぃぃぃ!くらぇぇ!」


 玉に勢いをつき過ぎて紐が切れた!


《【紐付き銅の玉−】をロストしました。》


 ダメなやつだ。

 今の写真が撮られたら、今までにないアホ面を晒してるだろう。


 マズイと思うと無意識に手が動く。

 インベントリの端っこにあったやつ。

【短い角材−】

 もうこれで良い!


 なんとか取り出しが間に合って、体当たりは受け止める。

 目線は合わせたまま、何度か呼吸するとちょっと冷静になれた。


「ほれ、攻撃しろ。」


 急かさなくてもわかってますよ。

 角材を振り下ろすが、かすれるだけだ。

 チューチュー威嚇してくるし、逃げる様子もない。


 ネズミが突進するタイミングで横凪ぎ!

 鈍い衝撃音が鳴り、手の痺れが遅れてやってくる。


「倒したな。」


「お?おぉぉ!やった。倒した!」


「ネズミで喜ぶ奴も初めてだな。それよりも早く解体しろよ。」


 解体作業があったことをすっかり忘れてた。

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