第11話 皮加工店


 教えてもらった店に辿り着き、扉をノックする。

 入らないのかって?

 ここの店、看板が無いんだよ。


 勝手に入ったらさすがにダメだよな。

 昔のゲームで、民家のタンスとか漁ってるのを見たことがある。

 俺がやったゲームだと、全部指名手配されるんだけどな。



 一向に現れない。

 今日は留守なのかな?


「すみませーーん!いませんかー!?」


 横からパタリと開く音がした。

 見ると小窓が小さく開いている。


「なに?」


 支える指一本と声しかわからねぇ。


「えっと、靴を直して欲しいんですけど。」


 すると、手のひらをヒラヒラと降って寄越せと合図される。

 靴を脱いで渡すとすぐに小窓が閉まる。

 そんなに会いたくねえのかよ。

 少し呆れていると、小窓が開く。


「5分待つ。」


 それだけ言ってまた閉まる。

 待つしか選択権が無いってね!


「YESかNOじゃない。『待て』だ。」


 俺はペットか?

 しかし、ちらっと見えた手の感じは綺麗だったな。

 靴職人とは思えないほど細かったな。


 親方の手なんてザ・職人て感じだったよ。

 あのゴツゴツ感。

 ハンマーじゃなくて素手でも相槌できるんじゃねーの?

 俺も耐久スキル上がったけど、食うダメージは同じだ。

 むしろそれでスキルが上がってる節まである。



 みんなわかるか?

 俺が今考えてるのは5分間の時間潰しをどうするかだ。

 親方の話も手の話も、待つための暇つぶしなんだ。


 俺が今小石を真上に投げてキャッチしているのも、餌を与えられずに待たされる犬のごとく。

 ひたすら何かで暇を潰すためだ。

《投擲が0,1上昇》


 特に意味があった訳じゃ無い行動にも、プラスの効果があるっていう証明に…。


「できた。取れ。」


 そう言って投げてくる。

 落とさないように両手でキャッチ。


「あ、はい。ぐぇっ。」


 小石は上に投げる物じゃ無い。良い子は真似するなよ。


「150ゴールド。」


 言われた通り渡すと、すぐに窓は閉まって、静けさが戻る。

 靴は直ってる。

 だが、ちょっと釈然としない。

 窓をノックしてみる。

 やっぱり反応無いか…。


 もう一度ノックしようかと思ったが、俺のカンが止めておけと言っている。

 それに用事も済んだしな。

 帰ろう。


 帰り際、窓の隙間がキラリと光ったが気のせいだろう。


 だが、150ゴールドか。

 貯めた金がまた消える。

 何度インベントリを確認しても変わらない。

《所持金:100ゴールド》

 少しずつ貯めて、あと少しで300ゴールドだったのにな…。

 ドワ活がんばらないと。



 てくてく歩いてると、ふと第2陣組のことを思い出した。

 そういえば、人口が増えたってことは、弟子が増えるのかな?

 話し相手が出来るのは良いな。

 ずっとボッチだったから、少しは楽しくなるかもしれない。

 ならば、早く雑貨屋に戻ろう!




 そろそろ見えてきた。

 お!?

 結構人がいるぞ!


「あ、ハッチさん。」


 さっきの人だ。

 確か名前は…。


「テロップさん。みんなここの弟子になりにきたの?」


 居た人達がそれを聞いたら渋い顔をしている。

 何かあったのか?

 人数制限とかあったのかな?


「それが、ここの人達は武器とか防具を作りたいんですよ。」


「うん。それで?」


「ここって雑貨屋ですよね?」


「そうだよ。」


「親方が武器は教えてないぞって言うから…。」


「うんうん。え?」


 持っていたナイフを見るが、武器だろ?

 目を凝らしても、首を傾げてもわからん。


「ナイフのことも聞いたんですけど、持ってるそれ。解体ナイフですって。」


「は?武器じゃないの?」


「ほら!言った通りだろ?ハッチさんも知らなかったんだって。」


 あちこちで、「そうだな。」とか「勘違いした。」とか言ってる。

 どういうことだ?

 今、俺の周りには?が縦横無尽に駆け巡ってるだろう。


「ハッチさんが、武器作れないのを黙ってたって言った奴もいたのよ。」


「え?なんで?工房の話なんてしたっけ?」


「だから勘違いしたって話よ。勝手にブログ見て勘違いしたの。」


 ぶち猫さんも居たんだね。

 しかし、そうですか。としか言いようがない。


「それで、みんなは武具店にいくの?」


「行きたい人は多いかな。僕も武器作りたいし。」


 それなら、教えるか。


「俺は行ったこと無いんだけど、村のもっと奥にあるって聞いたよ。そこの弟子になった人の話だから、間違いは無いと思うけど?」


「じゃあ、みんな。そっちに行ってみようか。ハッチさん、ありがとう!」


「武器作れると良いね。」


 なんだかんだで全員お礼を言ってた。

 年齢高くなっても、言わない奴は多いからな。

 比較的平和な人が来てくれたと考えれば良かったと感じる。

 そういうことにしておく!


「ところで、ぶち猫さんは行かないの?」


「私は元々道具を作りたかったのよ。他の街の情報とか知ってる?」


「いや、全く。」


「どこの街も道具が無いのよ。それを作ったら楽しそうだからね。人族でも作れるけど、どうせやるならドワーフのほうが面白そうじゃ無い?」


 この人は分かっていらっしゃる。

 リアル成分強めのゲームだと、道具の作成が必要になる。

 まずは1個。店頭に道具を並べるところからだな。

 武具店に大勢か。

 鍛冶道具作りで忙しくならないと良いけどな。



「それじゃあ、早速弟子入りに行こう。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る