百合の花 ー20ー
A(依已)
第1話
次の日の朝、さっそく今日もあてもなく歩くべく、居心地の良いその宿を、颯爽と飛び出した。
ずんずんと山奥へ入っていった。行く先々は、ただただ田園風景で、民家もまばらになっていくばかりだ。あまりにも今まで旅が順調だったので、浮足立ちすぎており、ここが"大地"と呼ばれるだけある、果てしなく地続きの壮大な中国だということを、わたしはすっかり忘れていたようだ。ひょっとしたら二度帰れなくなるかもしれない、と恐怖が頭をよぎった。
次に民家を見かけたら、宿までの道を尋ねようと心に決めた。
そんな決意をひと知れず固めていると、遠くの方に、建物が見えた。
「よかったぁ」
ホッとするあまり、そう口から突いて出た。
建物に近づいていくと、その建物の周りには、数軒、民家らしきものもまばらにあるのに気がついた。民家に比べると、いくらばかりか大きな建物であるので、どうやら遠くからでも、わたしに見えていたようである。
その建物の屋根の上に、何かがのっかっているのが、うっすらと見えた。近隣の住宅の造りとは、明らかに異彩を放っている建物だということが、遠くからでもはっきりと確認出来る。
「なんだろう?
大きなアンテナかな?」
もっと近寄ると、のっかっているものの正体が、ようやくわかった。
それは、十字架だった。ここはなんと、山奥にひっそりと佇む、紛れもない、キリスト教の教会だったのだ。
「嘘っ!
中国に、教会なんてあるの?」
建物の目の前までやって来た。わたしはてっきり、中国には道教の寺院ばかりで、キリスト教徒など存在しないとばかり思っていたのである。
百合の花 ー20ー A(依已) @yuka-aei
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