第18話 魔族トーレス

 完全に魔族となったトーレスは自分の変化に驚いていた。


「これが……僕?」


 見た目こそ人間だが背中からはイリアのモノに似た翼が生え、茶色だった髪も銀髪に、そして瞳は血のように紅く輝き、身体も一回り大きくなり、少しだけ筋肉質に。もはや女性と間違われそうな見た目はそこにはなかった。優しさが影を潜め、危なさが前に出たような見た目に変貌していた。


 イリアはベッドから身体を起こしこう言った。


「格好いいわよ。さ、そろそろ他の魔族に紹介しなきゃ。準備してくるからあなたも準備しておいて」

「わ、わかりました」


 そう返事をするとイリアはトーレスの口唇を人差し指で制し、こう告げる。


「その口調だと舐められるわよ? もっと威厳のある口調に変えなさい。良い?」

「そ、そう? 僕は……」

「僕じゃなく俺。もしくは我、それ以外は認めないわ」

「お、俺?」


 トーレスは頭の中でリュートの口調を思い浮かべる。


「わかった。これからは俺にするよ」

「ええ、それでお願いね」


 それから二人で入浴し、トーレスは服を創る。


「こんな感じかな」


 背中に羽があるためどうするか迷ったが、羽を意識したら消す事が出来たため、結果普通の服にした。色は魔族っぽく黒で統一してみた。それに使えないが飾りで剣を下げ準備を終えた。


 しばらく待つと妖艶なドレスを纏ったイリアが戻ってきた。


「あら、似合うじゃない。その服どうしたの?」

「自分で創ったんで……いや、創った。これが俺のギフトだ」

「へぇ~。便利なギフトねぇ~。じゃあ……行きましょうか」


 トーレスはイリアに連れられ部屋を出る。


「どこに向かってるんですか?」

「魔王軍幹部に君を紹介するのよ。会議室に幹部を集めてるわ」

「幹部ですか……。何人くらいいるんですか?」

「そうね。我と最初に見たノスフェラトゥ、その他に二人よ」

「全部で四人ですか。少ないですね」

「……勇者に殺されたからね」

「す、すみません……」

「良いわよ。弱いから死ぬの。魔族は強さが全てよ。戦って死ぬのなら名誉の死だわ」


 どうやら魔族は戦いに美学や理念を持っているようだ。


「着いたわ。ここが会議室よ。さ、入りましょう」


 イリアが扉を開き中に進むと視線がこちらに集中した。そしてノスフェラトゥがこちらを見て口を開く。


「集めておいてずいぶんゆっくりでしたね、イリア」

「そう? それは悪かったわね」

「……早く話を」

「キヒッ……キヒヒヒッ……」


 トーレスは席に移動しながら初めて見る魔族二人を見た。


 一人はどうやら武人のようだ。六本ある腕の内二本で腕を組み、席に座っている。腕の一本一本が太く、強そうだ。


 そしてもう一人はトーレスに見向きもせず奇妙な格好で椅子に座り何かの骨を組み立て遊んでいた。


 それを無視し、イリアが話を進める。


「では皆に紹介する。この者はトーレス。我の夫だ」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

「夫……ですか」

「……」

「キヒヒヒッ……キャハッ!」


 一番驚いたのがトーレスだった。ノスフェラトゥは冷静に、武人は寡黙に、変人は興味すら示さなかった。


「何を驚いている。我らは初めてを捧げあった仲ではないか」

「そ、そうだな……うん」


 納得するしかなかった。違うと言った瞬間に殺されそうな勢いだ。それをノスフェラトゥが祝福する。


「おめでとうございます。ではイリアは次期魔王の座を決める戦いから降りると言う事で」

「うむ。代わりに我の夫、トーレスを推す」

「はい?」

「ほう?」

「キアァァァァッ!?」


 最後の人は良くわからないが、ノスフェラトゥは怪訝な表情を浮かべ、武人はトーレスに興味を持った。そしてトーレスは完全に置いてきぼりだ。


「じ、次期魔王って何っ!?」


 その問い掛けにイリアが答える。


「そのままだ。我ら四人は次期魔王の座をかけ争っている。だが陥れようとか命を奪おうなどとは誰も考えておらぬ。魔族は力のある者に従うのでな。示す力は何でも良い。武力、知恵、統率力、人脈、資金力、なんでも良いから相手を屈服させた者が次期魔王となるのだ」

「へぇ~……」


 するとノスフェラトゥがスッと席を立ち上がった。


「今まではイリアが次期魔王に一番近かった。ですが……これで私にも次期魔王の目が出てきましたね」


 それに武人の男が口を返す。


「ありえんな。お前に俺を越える力があるのか?」

「はっはっは。いつまでも昔のままだと思わないでいただきたい」

「なら戦ろうか?」

「良いでしょう。競う力は戦闘力、構いませんか?」

「無論だ。地下に行こうか」

「キヒヒヒヒッ……」


 自己紹介をして終わりのはずがいきなり二人のバトルが決まってしまった。トーレスはイリアに尋ねる。


「あの……俺まだあの二人の名前すら聞いてない……」

「ああ、血の気が多くてすまないな。腕の多いあの戦バカは【コキュートス】、そして骨で遊んでいるサイコパスは【メフィストフェレス】だ。まぁ、どれもお前の相手にすらならぬ小物よ」

「「「ぴくっ……」」」


 イリアの言葉に反応し、三人が一気にこちらを睨む。


「今……小物と聞こえましたが……聞き間違いですかねぇぇぇぇ?」

「大物の間違いだろう。そんな新参に負ける私ではない」

「アァ~……キヒッ……、あ、新しい骨……欲しいなぁぁぁぁ?」

「ちょおぉぉぉぉぉっ!? イリアさんっ!? あんた何言って……!?」


 イリアは席を立ち高らかに笑う。


「はっはっは! 良いか、お前ら。トーレスはな……先代魔王の持っていたギフトに似たギフトを持っているのだぞ」

「「なっ!?」」

「キヒッ」

「え?」


 イリアが驚きの声を上げる全員に向けこう言った。


「先代魔王のギフトはお前らも知っているように、【鳥獣戯画】だ。そして……このトーレスはそれに似たギフトを所持している。さあ、挑むなら挑んでみよっ!」

「「むぅ……っ!」」

「キヒヒ……」


 トーレスは唖然としていた。


(先代魔王のギフトが鳥獣戯画? それって俺の進化前のギフトじゃないか! ど、どうなってんの!?)


 ノスフェラトゥとコキュートスは戦いどころではなくなり、揃ってトーレスを睨むのであった。

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