異世界ショートショート劇場
あずき
最終兵器
旧暦 373年。
二大国家、マークネル帝国とグリンガルド王国がある一つの兵器を巡って戦争をしていた。
その兵器はかつて栄華を極めた古代ラミス王朝が残したとされ、手にした国は世界を支配できるほどの力を得ると言い伝えられていた。
しかし、兵器の起動には "鍵" が必要になる。
その鍵は 古代ラミス王朝が隣国からの侵略によって滅びる際、再び兵器が起動することを恐れた魔道士の手によって、5つのパーツに分解してどこかに隠してしまった…
ラミス王朝の崩壊からおおよそ200年程度経過した頃だろうか。
未だにラミス王朝が滅んだ理由ははっきりとしていない。
内乱…飢饉…革命… 国家心中なんて噂もあるが真偽は不明だ。
世界は国々が互いに兵器や軍事力で牽制をしつつもそれが抑止力となり
ひとときの平和を保っていた。
だがその偽りの平和はとある発見によっていとも容易く看破された
「 マークネル帝国の歴史研究者が "鍵" のパーツの1つを見つけた。」
この事実は瞬く間に世界中に広まった。国境を超えて。
それもそうだろう。
何故なら今まで噂程度の存在だった 「 最終兵器 」
それも宗教国家として最強と言われた古代ラミス王朝の兵器。
その起動に必要な "鍵" のパーツが見つかったのだから。
その後そのパーツは早急に保管された。
そしてマークネル帝国は他国よりも早く残りのパーツを揃えて、"鍵" を完成させることに全力を注いだ。
他国もその話を聞きつけ、"鍵" の完成を阻止しようと少し出遅れながらもパーツを探し始めた。
こうして国家同士でパーツ集め競争が勃発した。
ここから先は地獄だった。
パーツ集めで特に積極的に動いたグリンガルド王国は周辺諸国と協力をして連合軍を結成。
軍だけでなく、パーツに対して多額の懸賞金をかけ、国民にも探させた。
もちろんマークネル帝国も同じような手段を用いて、死にものぐるいで探している。
そんな状況だから、互いの軍が衝突し世界各地で群発的に戦闘が発生。
世界各地で起こる軍と軍の戦闘により治安は悪化。
この大規模な戦争に便乗するように他国も戦争を始める。
郊外の村々では魔法攻撃などの流れ弾によって住宅が破壊されるのはザラで、
酷いところでは村自体が戦場と化し、魔法や矢が恐ろしいほど飛び交い、あたりには瓦礫や死体が散乱し、泣き喚く子供の声がこだまする… 村人達はほとんどが戦いに巻き込まれて死亡。生き残った人々も生活を壊され、残ったものは何もない。そんな状況が一年ほど続いた。
無数に繰り返した争いととてつもない時間をかけた結果、マークネル帝国が5つのパーツ全てを揃えて、"鍵"を完成させてしまった。
旧暦 374年。
鍵を完成させた帝国軍は「最終兵器」を起動させるべく、古代ラミス王朝の遺跡へと向かった。
これに連合軍も黙ってはおらず、帝国軍より先に遺跡を占拠して「最終兵器」の起動を阻止しようと動いた。
まず最初に連合軍は遺跡の入り口である洞窟に潜伏し、帝国軍を待ち伏せした。
潜伏を始めてから数日後に、帝国軍と戦闘。
当然待ち伏せをしていた連合軍側が圧倒的に有利で、約10000人の部隊を約1500人で返り討ちにしてしまった。
大きく戦力を削られてしまった帝国軍は、正面からの侵入を断念。作戦を変更した。
500人程度の部隊を数十隊用意し、それぞれの隊にダミーの鍵を一つ持たせて複数の箇所から同時に遺跡内部への侵入をさせた。
ダミーの鍵による撹乱と同時に全方位から侵入したことによって、連合軍側は23部隊中18部隊の侵入を許してしまった。
広大な遺跡内部でゲリラ戦を繰り返す帝国軍によって連合軍の防衛陣地が潰されていく中、
連合軍は遺跡最深部にある「最終兵器」の位置の特定に成功した。
「最終兵器」を死守するために遺跡内に散らばった戦力を集合させ、堅牢な防衛線を張り帝国軍を迎え撃つ連合軍と、"鍵"を運び「最終兵器」を起動するために防衛線を突破しようとする帝国軍。という構図が出来上がった。
戦いは熾烈を極めた。
文字通りの最終決戦。
激しく魔法が飛び交い、崩れかけていた遺跡は跡形もなくなっていた。
何時間も魔法を撃ち合ったお陰で、あれだけ堅固だった防衛線に一瞬の隙が生じた。
その隙を見逃さず、遊撃隊が一斉に突撃をし、防衛線に穴を開けた
必死に走った。
敵からの魔法が雨のように飛んでくる。
『「最終兵器」を起動出来さえすれば勝利が約束される。』
そう思っていた
「 ここで勝利すればこれまで死んでいった仲間の無念が晴らせる。」
そう思っていた。
「 起動させる。 起動させさえすればこの戦いは終わる。」
そう思っていた。
操作盤の埃を払い、鍵穴を探した。
少し探すと鍵の持ち手の部分と同じ形の目印のすぐ横に鍵穴を見つけた。
そして鍵穴の周りのゴミを取り除き、"鍵"を挿しこみ力強く捻った。
地面の土砂の下から眩い光が漏れ出し、魔法陣が起動する。
段々とあたりは閃光のような光に飲み込まれていき、その光景を周りの人々はただじっと立ち尽くし、「最終兵器」の起動を見届けていた。
………「最終兵器」は光を強めながら次々と周囲の物を吸い込んでいく。
「やっと終わるんだ。 この戦いも。 」
「そっちに行くよ。」
そう呟いた。
異世界ショートショート劇場 あずき @Wendiglz
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