第20話 電脳世界の叛逆者

 ◇電脳世界の叛逆者

 俺の反応は完全に間に合わなく、俺は死んだ、はずだった。

 現実は違った。ゴットフリートが引き金を引いた瞬間、俺の胸元に掛けられたテイラーが作ったネックレスが輝き出す。

 幾数もの弾丸は俺の手前で静止し、その場にポトリと落ちる。

「何が、起きたんだ……」

 俺は今起きた事象を理解できずにただただ茫然としていた。

「今のは、魔力による障壁、か……⁉」

 一方で茫然としているのはゴットフリートも同じであった。

 魔力による障壁だと?だが詳しいことは後だ。

 考えろ。

 ゴットフリートとの距離は約5メートル、銃口から俺の位置までの角度は四十五度。本来ショットガンの拡散角度は二度から三度。外れるのが普通なこの距離で俺が当たったのは間違いなくあのショットガンの能力だろう。

 俺は一度跳ぶ前の位置を振り返ると、その背後にあった木々には無数の、それこそ蜂の巣のように弾痕が残っていた。

「なんだお前、もう終わりか?」

 リロード中に何もしてこなかったことをゴットフリートは挑発する。

 だが俺はその言葉に耳を傾けはしない。ただ全てを視ることだけに集中する。

「ここからは叛逆の時間だ」


 ——叛逆の絶対権=全知の悪魔


 俺は無言でゴットフリートを睨む。

「何だ、お前そんな目ができんのか。ハハハ、NPCの癖に生意気だなぁ」

 体が燃えるような熱さに包まれていくように感じる。

 鼓動が早くなる。

 もっと、もっとだ。

 流れ出る流血も既に気にはならない。

 世界が止まって見える。

 ああ、五月蠅いぞ。空気の擦れる音が五月蠅い。己の脈打つ鼓動が五月蠅い。

 だから俺は五感を全て視覚だけに集中させた。

体中の血が、酸素が俺の脳へ、眼へと廻る。思考が加速する。瞳が紅く染まる。

 過去情報を確認——完了。

 全素粒子の座標の把握——完了。

 運動法則の演算——完了。

 必要情報の取捨選別——完了。

 簡易未来予測——完了。

「そういうことか。お前の無限超炸裂弾、理解したぞ」

「それで?理解したところでオレの弾丸は躱せないぞ」

 躱せない、か。

それを聞いた俺は不覚にも笑ってしまった。

「何が可笑しい」

 無限超炸裂弾は簡単に言えば非常に拡散角度の広く、弾の数が多い弾丸だ。

 銃口を出るまでは一発の銃弾だが、そこを出た瞬間に四発の銃弾に分裂し、その後は一メートル毎に十発、三十二発、八十発と指数関数的に増えていく。そしてさっきは四百四十八発の弾丸が俺に向かって放たれた。

 ゴットフリートとの距離は五メートル、銃とは正面を向き合っている。引き金を引かれたら俺の負けだ。故に先に動き出したのは俺だった。

「んなっ!」

 俺の急接近に驚くようにして、奴は銃を構える。だが既に距離は四メートルを切った。

 更に俺は一瞬だけ相手の照準を逸らさせるために左側へと重心を傾け、直ぐに右へと体を戻す。

 俺の体の動きに合わせるようにゴットフリートのエイムがずれる。残り二メートルだ。

 ここで俺との距離が近くなった為に狙いがつけやすくなり、ゴットフリートはトリガーへと指を掛ける。

 無限超炸裂弾の最大拡散角度は三十度。拡散方向は銃弾の進行方向を正面にして拡散する。分裂数は十発。

 俺は出来るだけ低い姿勢で、地面とは水平に約六十八度右斜め前へと飛ぶ。

 ——パァァン‼と言う音が激しく空気を震えさせる。

 ゴットフリートの弾丸は外れた。対する俺は全力でピックナイフを振るう。

「くらえ、ゴットフリート!」

 ガギンッ!と俺のピックナイフとインテグラルブラスターが混じり合う音が鳴る。

ゴットフリートは間一髪のところで俺のナイフを防ぎ、力任せに俺の攻撃を弾き飛ばした。

 数多の木の枝葉を折りながら吹き飛ばされ、さっきまでは木に遮られ暗かった辺りが月の明かりを受けている。

周りを見るとさっきの魔法の影響で色々なものに霜が降りている。

足元を見ると水面は凍結していた。そこで初めて気づいたがここはグレンズ村の近くを流れている川だった。

俺は立ち上がって氷の川を渡ると目の前に立ち塞がる断崖絶壁を眺める。

「あー最悪だ。こんな雑魚相手に苦戦してるとか知られたら俺の箔に傷がつく」

 森の中からゴットフリートが悪態を吐きながら出てきた。

「チェックメイトだ、ゴットフリート。投降しろ」

 ゴットフリートは自分の実力に相当な自身を持っている奴だ。そういう奴は大抵プライドが高い。

 そう思い至った俺はゴットフリートを挑発するように言う。

「ふざけんじゃねぇ!お前みたいな雑魚に逃げて帰りました、なんてことをあの方に知られるわけにはいかねぇんだよ」

 何だ?『あの方』とは誰のことを指しているんだ。

 しかもゴットフリートの声も最後の方はどこか震えているようにすら思えた。

 だがそれについて考えるのは後だ。

「がっかりだ」

 俺は足もとに落ちていた石を拾いながら落胆したと更に煽るように言う。

「ナメんじゃねぇぞ!魔銃インテグラルブラスター《能力開放——無限超炸裂弾》」

 パァン!と無限超炸裂弾を撃つ。

 好都合だ。

俺は持っていた石を親指で弾く。

 その瞬間に石は木端微塵に砕かれたが俺には一切の銃弾は届かなかった。

 弾いた石は一つの銃弾を防いだだけではなく、そこから砕けた石や防がれた銃弾が他の銃弾を俺に当たる軌道から全て逸らしたのだ。

 たった一つの石に自身の必殺技が防がれたゴットフリートの額には青筋が浮かんでいる。

「っ⁉この雑魚武器が!それに今のラグじゃねぇかよ。糞おもんねぇわ」

 ゴットフリートは自分の銃を放り投げると俺を見て体勢を低くする。

「雷魔法・轟雷閃戟(ごうらいせんげき)!」

 魔法を唱えるとゴットフリートの両腕には膨大な魔力と共に雷を纏った。

 見ただけで分かるが間違いなく触れただけで即死級の技だろう。

奴はそのまま真っすぐに俺に突っ込んでくる。このまま白兵戦でも持ち込むつもりなのだろう。

させると思ったか?

「テイラァァァ!ブチかませぇぇぇ!」

 俺は崖の上で待ち構えているテイラーに向かって叫ぶ。

「エヴィアット・ドライブ《能力開放——限界近似展開!》」

 崖の上からテイラーの詠唱が聞こえるとそこには無数の魔法陣が姿を見せていた。

「アンリミテッド・マルチ!疑似魔法・デュアルヒート!」

 テイラーから発せられた言葉はあの王都に来る前日に戦ったネイピアの能力のものだ。

 それにしてもアンナ上によく移動できたものだな……なんてことを考えている間も無く熱線は凍った川に降り注ぐ。

 そして丁度ゴットフリートが川を渡りに入った刹那、辺り一面はとてつもない爆音に包まれ、巨大な水飛沫が舞い上がった。

「ぐうぁあぁ!」

 突如発生した爆発に受け身も何も取ることが出来なかったゴットフリートは呻き声を漏らしながら水飛沫と共に上空へと飛ばされた。

 次にゴットフリートがドサッという音を立てながら地面に落ちると奴は動きができるような状態には無かった。

「なにを、しやがった」

 あの爆発でまだ息があるとは本当にそのタフさだけは称賛ものだな。

「水蒸気爆発だ。川は確かに凍っていたが完全に凍結していたのは水面だけだった。実際、川の中はまだ凍っていないところが多くあった。そしてデュアルヒートの温度が一瞬で鉄を真っ赤に熱することができるほどのエネルギーを持っていることも知っていた。それなら水を一瞬で沸騰させることも可能だと考えたまでさ。まぁ、あの量のデュアルヒートが来ることは知らなかったけどな」

 つまり、今回であれば四メートル四方の範囲に深さ二メートルの水を熱線により急激に蒸発させ、体積を千七百倍にまで上げることで、川に蓋をしていた氷が一気に粉砕されこの爆発を起こすことができたのだ。更に、先日の雨で川の水が増水していたのも今回の爆発の威力を上げた間接的な要因となった。

「お前、どこまで読んでいたんだ」

 ゴットフリートは憎しげな目で俺を見つめている。

「ここにお前を引き込むところまでだ。そこから先は読む必要が無かった」

 俺はゴットフリートを見降ろしながら淡々と語る。

「さて、さっきこの地に昔来たことがあると言ったな。あれはどういうことだ、お前がこの村に来たとき誰と来ていた」

「あああの時か、あの時は俺が主導となってここの村に仕掛けたんだよ」

 どういうことだ。ゴットフリートがこのゲームを始めたのはルネ達の世界で二か月前。つまり俺達の世界で一年前のはず。あの事件は五年前だからどう考えても時間が合わない。

 分からないぞ、このゴットフリートという人間が。

「おい、それはどういうことだよ。お前が始めたのはお前らの世界で二か月前なんじゃないのか?」

 その時、直観的にゴットフリートの言ったことがとても恐ろしいことに続いているのではないかと俺の体に悪寒が走る。

「んな何でもはいはいって答えるかよ。そのくらい自分で考えやがれ」

 ゴットフリートの問題は本人にはぐらかされてしまいこれ以上は話してもらえそうにはないか。

「な、なら、最後だ。最後にお前に問いたいことがある。ゴットフリート、お前はNPCを殺したことはあるか?」

「当たり前だろ。この世界じゃ寧ろ殺してないやつの方が少ない」

「それはこれからも変わることは無いのか」

「お前は昨日まで食べていた肉を突然食べるなと言われて食わないでいるのか?」

 やはり、この男の中では——否、プレイヤーの多くはNPCを人間ではなく唯のモノとしか認識されておらず、変わることは無いと言うことなのか。

 出来ることなら、お互い無血で不干渉というのが理想だと思っていたが、俺の中で息を潜めるかの如く静かに煮え滾った怒りがゆっくりと込み上げてくる。

「プレイヤーは良いよな。俺達を勝手気儘に殺められる上に罪にも咎められないとは」

「お前らは俺らに作られた存在だろ。なら殺されても俺らの成長の糧になれれば本望だろうが!」

 本望だと?

 俺の脳裏に二コラさんの最後の声が響く。

 命の危機にある自分を無視して俺達に逃げろと言った彼女の声が。

 ——この期に及んでまでその威勢の良さは変わらないとは恐れ入ったよ。

「声を上げなければ家畜同然と言うか。そうかそうか。ならお前の口も塞いであげよう。そうそう、プレイヤーにはBANってものがあるんだってな?」

 俺は手でゴットフリートの口に俺は近くに落ちていた木の枝を突っ込む。

するとそこでようやくこの後することを理解しゴットフリートは悶え出す。

とは言え既に体力は瀕死で、しかも木の枝を咥えさせられ自害もできないゴットフリートは何もできないでいた。

「あの時お前らが殺してきたNPC達にもし縛りが与えられていなければ今のお前のように藻掻いていただろうな」

 五年前にこの地にて俺の目の前で無残に殺されて行った村民や父親の顔がフラッシュバックする。

「お前(あえ)は、一体(いっあい)、何者(なにおお)な(あ)んだ……」

 ゴットフリートはそう言って俺の正体を尋ねる。

「俺か?俺は電脳世界〈この世界〉に叛逆する者だ」

 俺はただそれだけを返す。

「つ……は……ろす……」

 ゴットフリートは何とか声を振り絞るがそれが何かは聞き取れなかった。

 俺はゴットフリートの頭を掴み、甦ってきた全ての記憶と共に俺は劫火の如く燃える怒りをぶつける様に叫ぶ。

「永久(とわ)に眠れ——叛逆の絶対権・永久なる凍結(エターナル・フリーズ)‼」

 次の瞬間膨大な情報量が俺を包む。

その瞬間、ゴットフリートの体の動きがピタリと止まり、やがてモザイクでも掛かっているかのように奴の体が見えなくなるといつの間にかそこから消滅していた。

 終わった、のか……

 俺は戦闘の疲労と撃たれた痛みがドッと押し寄せ、目の前が灰色に染まり、地面に倒れ込む。

痛みはもう感じない。というより、全身の感覚が薄れてきてる。感じるのは寒さだけ。

頭痛の方も、今回は五年前や前回のような痛みはほとんどといっていいほど無い。

 恐らく必要な情報と不要な情報を取捨したことで大きく脳に対する負荷を軽減させることが出来たのだろう。

 打たれ強さには自信があったが流石に今回ばかりは無理そうだ。最後にテイラー達の顔を見たかったけど、それも叶いそうにないな。

「アンディ⁉意識はある⁉ルネは、早く手当してあげて」

「ほいほーい!」

 ルネはそう言うと直ぐにポーションを取り出し俺の口へ流し込む。

 ポーションを飲むと全身の傷がみるみる治っていく。

 体にはまだ少しダルさが残っているが負傷は既に跡形も無く消えていた。

そうだ!二人に言わなきゃいけないことがあるんだったと思い、俺が体を起こそうとすると、

「わわっ!起きちゃだめだよ、怪我してるんだし」

 テイラーは起きようとする俺の肩を掴むと少し考えたようにして己の腿の上に俺の頭を乗せた。

「待ってくれ、二人に伝えたいことがある」

 俺が神妙な面持ちになっていることでそれがプレイヤーに関わることであると察してくれたみたいだ。

「ゴットフリートから訊いたことなんだが、あいつグレンズ村襲撃の際の主導者だったらしいぞ」

「どういうこと、ゴットフリートって最近始めたばかりなんじゃ……」

「僕もそんなこと聞いたことないぞ⁉」

 五年前のグレンズ村の事件、どうもこれで一件落着とは行かず、まだ奥がありそうだな。

「ルネ、それでルネの方は全部片づけたのか?」

「……うん、こっちは適当に全部倒しておいた。あと、君らのことも絶対に話すなって取引もしたから、まぁ大丈夫だと思うよ」 

あれだけのダメージを受けたらさぞ苦戦しているものだと思っていたが、それを『適当に全部倒した』なんて言えちゃうんだから本当に強いこった。

「でもアンディ君も凄いよ。ブレーダーとガンナーは相性悪いって言うのに。ってか最後の爆発は流石に驚いたよ」

「いやあれはただの水蒸気爆発だ。それよりテイラーもどうやってあの量の熱線を放てたんだよ。『デュアル』どころの量じゃなかったぞ」

 そういうと何故かルネが腕を組んでなぜか偉そうにしている。なにかやったのか?

「実はあの後アンディと森で別れた後ルネが追いついてね、崖の上まで移動するのと一緒に能力開放のやり方を教えてもらったんだ。そうしたらどうもあたしの武器の能力は今までに見たことのある能力開放をコピーすることができるっていうものだったみたい。それがさっきやった限界近似展開の能力」

 そうか、だからさっきはアンリミテッド・マルチを撃てたのか。ってか魔法と言い、能力開放と言い共に模倣に関するものとは、魔法ってのは心と何か関係でもあるのかもしれないな。

「アンディ君にも仕方が無いから今度僕の方から直々に今度教えてあげようかぁ?」

「いや、大丈夫だ。俺の能力開放はもう知ってるから」

「えっ」

 ルネは折角の提案を秒で断られたことにキョトンとしているが、そう俺はこのピックナイフの能力開放の力を知っている。そして俺は以前から無意識に、というよりはほとんど自動的に発動させていたのだ。

ラプラスの眼を使った時、この能力を選別で必要情報にいれることができたのはラッキーだったな。

「俺の能力は相手の攻撃力と同じ力になる分だけ自分の攻撃力を上昇させるというものだ。敵が攻撃してきた時、俺の武器はその攻撃力と等価になる分だけ攻撃力は上昇する。実力差のある格上の敵に対して同格の能力で刃を交えることができるんだ。だから、ゴットフリートが何も動かなかったときはそれ以上の攻撃力にはならずダメージが入らなかったんだ。あとこの能力はキャンセルとかもできなくて、どうも常時発動しているらしい」

思えば可笑しいところはあったのだ。俺とルネが稽古で攻撃を交わし合っていた時、俺とルネはお互いに吹っ飛ばされ続けていた。ルネは攻撃力が高い武器と言っていたが、それは間違っていた。あれはピックナイフの能力によるものだったんだな。

「それかなり使い勝手悪くない?相手と同じ力じゃ勝てないじゃん」

「誰が一人で戦うなんて言ったよ。ここには三人いるんだぜ?」

 ルネにそう言うと俺は二人の顔を見合わせる。

 俺は一人じゃない。いつでも二人がいる。だから俺は戦える。

「もーアンディは何時からそんなにキザなこと言えるようになっちゃったのかな?」

 おい、テイラー。折角の俺が良い感じの空気を作ったのにぶち壊すな。

「あとテイラー、お前のくれたこのネックレスが俺を守ってくれた。これが無かったら俺は間違いなく死んでいただろう」

 テイラーは何があったのか分からず、不思議そうな顔を見せる。

「俺も詳しくは分かっていないんだが、俺がゴットフリートに撃たれたとき、このネックレスが一度光り出したんんだ。そうしたら銃弾は俺の元へと辿り着く前に全て受け止められていたんだ」

 それを聞くとルネは何か思い当たることでもあったのか、何かに納得したような素振りを見せた。

「えーっと、それはねメモリアライトって魔力を流し込んで形を変えるでしょ?あの時、流れてきた魔力はメモリアライトに貯蓄されるんだよ。そうすると一度だけその溜め込まれた魔力が放出されることで自分を守ってくれるんだよ」

 そうか、それであの時はその魔力を使って障壁が張られたわけか。

 一通りの謎が解けた所で、気が抜けたらか空腹なの思い出した。

「なぁ、俺戦い疲れて、腹減っちゃったんだけど」

 よく周りを見てみると美しく映える東雲を姿を見せた。

「あ、もうそろそろ夜明けかぁ……結局全く寝れなかったね。それじゃ早いけど朝ごはんの支度をしますか。今日は特別に僕が朝食を作ってあげよう」

 ルネがそんなことを言い出すので俺達は揃って互いの目を合わせた。

「ルネが人の為になることをするなんて……」

「聞き間違い。あるいは今日は嵐だな。うん」

「ハハハ、嵐は勘弁してよー。さっきまで戦闘したばかりで、今日は嵐とかどんな地獄かよ~……って君ら酷くない⁉」

「いや、でもルネだぞ。ルネが俺らの為に朝食を作るって言ってんだぞ。それは疑うだろ」

「アンディ君、ちょっと後で面貸せや」

 え、俺だけ?俺だけ許されないんですか?笑顔で言うその口調、怖すぎんだよ。

「そ、それじゃ、戻りましょうか」

「ちょっと待ってもらってもいいかな」

 冷や汗を流しながら帰ろうと呼びかけた俺をルネは呼び止めた。

「僕はここで別れるよ」

 突如の別れの言葉に俺達は飲み込めず、何も言うことができなかった。

「どういうことだよ……」

「勿論文字通り僕はこれ以上君らに付いて行くことはできない」

「そうじゃない。どうしてと理由を訊いているんだ」

「今回の襲撃、最初のあそこの森の襲撃にしても、彼等は僕を狙ってきていた。君らを守るためのつもりが僕が危険を呼び寄せていたなんて本末転倒も良いところだよ」

 自嘲気味に話すルネの目には悲愴さを表していた。

「でもルネがいなかったらあたし達はもうライプニッツとの戦いで死んでるよ」

「でももう君らはゴットフリートを倒せるくらい強いわけだし」

 なんだろう。いつもならもっとウルサい人間が静かだとどうにも居心地が悪い。

「あのさ、ルネお前次狙われたら今回よりもっと強力なプレイヤーに狙われるんだろ。そしたらお前死んじゃうだろ。今回だってギリギリの勝負だったんだろうし。だから俺達が守ってやるって言ってんの」

「守ってやるだぁ?舐めるんじゃないよ!僕、君らに守られるほど弱くないですぅ!あとギリギリの勝負じゃないから!圧勝だから!」

 君今はポーション飲んだからか傷は無いけど、さっきおもくそ被弾してたよね。

 まぁ、それもほとんど俺が悪いところはあるので黙っておくとしよう。

とは言え、うんうん。やはりルネはこう少しウルさい方が良いね。

「おい、今僕がウルさい方が良いみたいなこと考えただろ?」

 ヒエッ、顔に出ちゃってましたか?俺もまだまだだな。

「とにかくルネ、俺達にはまだまだお前が必要なんだ。だから一方的に別れるなんて言われて俺がそれを素直に承諾してやるなんて思うなよ?」

 俺はルネの肩に手を乗せると、ルネは少し顔を下に向けて小さな声で「ずるいなぁ……」と呟いた。

「仕方ないな!僕は寛大だからね、君らの我儘に付き合ってあげるよ。それは勿論どこまでも!」

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