第19話 五年前の地にて

 ◇五年前の地にて

「さて、じゃあテイラー予定通り頼めるか」

「うん、任せて」

テイラーの目にはこの戦いで絶対に失敗するわけにはいかないという強い意志が見て取れた。俺はそれを見て少し安心し、立ち上がる。ルネは既にこの場から離れている。ここからは俺が仕切らせてもらうぞ。

「それじゃ、行ってくる」

 俺はゴットフリートの方へと赴く。

 俺が木の裏から姿を現すとゴットフリートもそれに気づいたようで、俺の方を見た。

「やはりお前がルネのところにいたのか。おい、ルネはどこだ」

「ここにはいないぞ。途中で分かれた」

「そんなブラフが通じると思ったか?オレはここにルネの反応があるから来たんだ。ルネが居ないわけがないだろう」

 こんな辺境の地に王都からピンポイントでアプローチを仕掛けてくるとはと思ってはいたけどこれは何かの方法で追跡されていたな。

「早くルネを出せ、そうすればお前は見逃してやるぞ」

 もう少しだ、もう少し時間を稼ぐんだ。まだ、あと少し時間が必要だ。

「俺はその言葉を素直に受け入れるほどお人好しじゃないぞ。それに見逃すのは俺だけなんだろ」

「へぇ、気づいていたか。どうせお前がいるってことはあの女もいるんだろう?あっちはそうだなどっかの娼館にでも売っぱらっとくか。確か見てくれは悪くなかったよな?」

 俺の中で何かがキレ、俺は即座に仕掛けてやろうとすら考えた。

 その時、二人——テイラーとルネの顔が思い浮かんだ。ここで俺はこいつの挑発に乗ってはいけない。怒りを抑えろ。それを出すのは今じゃない。

「どうした、何も言わないのか?いや、言えないのか?」

「なんだよお前。言いたいことはそれだけか?こっちは一分も時間をくれてやったのにお前はそれを無駄にしたぞ」

俺は右手を上げる。それと同時に俺の後ろから声が上がる。

「疑似魔法・デュアルヒート!」

 叫んだテイラーの元からデュアルヒートが放たれる。

「お前ら、防御魔法だ!」

テイラーの急襲に驚いたようにゴットフリート達のソーサラーは防御魔法を敷く。

「防御魔法・アイギスシールド!」

 ソーサラー達は誰が防御魔法を発動させるか分からず、たった一人の少女の魔法に対して七人ものソーサラーが防御魔法を発動させた。

 流石にいくら慌てていようと防御魔法の前にデュアルヒートは阻まれる。

「強化魔法・超加速!」

 しかし、敵が魔法を発動させるのを狙っていたルネが側面から雷の如く加速し魔法を使用した敵に切りかかる。そして俺もゴットフリートへ一気に距離を詰める。

 ルネは近接武器持ちは遠距離に不利というが、それは距離の問題だ。ゼロ距離まで持ち込めばこちらにも勝算はある。

 当然、それを阻もうと敵のブレーダーとランサーの二人が俺へと迫ってくる。

「アンディ、そっちは任せてゴットフリートに行って!」

 テイラーはそう言うと即座にデュアルヒートで敵の近接武器持ちを牽制する。

「ゴットフリート!これで終わりだ!」

 俺はピックナイフをゴットフリートに向けて振るう。

 ゴットフリートは何も動かない。確実に仕留めることができると確信していた。

「んなっ!」

 ナイフは全く意味を為さず唯の一枚も布を一枚も切ることができず、ただ布を撫でただけだった。

「お前、何がしたかったの?」

 俺の鳩尾にゴットフリートの渾身の蹴りが入る。

 何とか後ろに転がることで衝撃を緩和させるもそう簡単に奴の蹴りを無かったことにはできない。

「アンディ!」

 俺の支援へと回ろうとテイラーも動くがそれに気づいた敵のランサーがテイラーの動きを止めに掛かる。

「くっ!疑似魔法・デュアルヒート!」

 テイラーもその動きに応じてなんとか対応するも相手との経験値の差は圧倒的でいとも容易く搔い潜られた。

 ランサーの攻撃がテイラーに届く前に俺はテイラーへと駆ける。

「呆気なかったなぁ」

 走り出す俺の背中を見てニヤリとほくそ笑んだゴットフリートは非常に慣れた動作で素早く己のショットガンを引き抜く。

「バッカァァァァ!」

 ゴットフリートがトリガーに指をかけ、それを引く直前、ルネの声がしたと思い、俺は振り返る。

その時、ルネのその異常な速さからか俺との距離が縮まったような錯覚が起きた。

次の瞬間、後ろへ十数メートルほど吹き飛ばされたのだ。俺はその先に居たテイラーごと、ルネにぶっ飛ばされていた。

 一方ルネはというと、ゴットフリートの弾丸を背中に受け大きく出血していた。

「お、おいルネ、出血が!」

「心配ない。このくらいは掠り傷だ……って言ってみたかったけど結構体力も削れちゃったな」

 辛うじて戦えるだけの体力は残っているみたいだが、それでもかなりのダメージ自体を追ってしまっているに違いない。

 ゴットフリートもルネを前にし、少し後退した周りを見ると既にそこには先程まではいた仲間の半数は消えてなくなっていた。

「は?本当にお前らは役に立たないな……これが智天級の実力かよ。しょうもな……」

 ゴットフリートは何か呟くと周囲を凍らせるんじゃないかと思わせるほど冷徹な目で回りのプレイヤー達を見ている。

「さてさてルネ、僕に着いて来てはくれないかな?」

 ゴットフリートはさっきまでの冷徹さを捨て去ったような容貌でルネに向き直る。

「ストーカーに付いて行くのはガチで無理」

「ストーカーとは人聞きが悪いなぁ。僕の向かった方向に君らがいただけだよ?」

「君明らかに僕のこと呼んでたじゃん」

 ゴットフリートはこりゃ一本取られたと言うようにに自分の頭を掻いた。

「いや、ルネがオレと来ないのはそこの虫のせいかな?と思ったから掃ってあげようと思ったまでだよ」

「余計なお世話だし。あとこの子達を虫呼ばわりするのは止めてもらえないかな?」

「ルネってオレのこと嫌いなの?」

 冗談めかしながらも悲し気なフリをするが、その言葉にルネがポカーンと口を開けて唖然とした。

「あのさ、冗談でも君に好かれたくないんだけど。あと、この際だからはっきり言うけど僕前から何かとストーカー気質ある君の結構嫌いだよ?正直あのライプニッツに引けを取らないキモさというかなんというか。とりあえず生理的に無理かな」

 お、おい、その辺にしておいてやれ。ゴットフリートのライフはもうゼロだよ……

 そう思うとゴットフリートはクククとどういう訳か笑い始めた。

(え、ええっと……こっちはこっちでドMなの?嫌われて罵られて悦ぶドMなの?)

 などと考えているとゴットフリートは近くで倒れ込んでいる仲間の元へと歩み寄り、回復でもするのかと思うと

「なぁ、一人を相手に二十人近くで戦ってんのになんでそこまで劣勢になってんの?お前らなんて俺がいつでも殺せるってこと忘れんなよ、雑魚共が」

完全に八つ当たりだが、ゴットフリートは仲間を蹴り、嗤いながら語る。

 いや、そもそもあいつらは本当に仲間なのか?それになんで蹴られても誰もやり返そうとしないんだ。

「ゴットフリート、そこまでにしなよ!」

 ゴットフリートの所業に目を瞑れなくなったルネは憤怒の声を露わにした。

 ルネがそういうとゴットフリートはアハハハッと彼女の言葉を笑った。

「ルネ、この世界は全てが自由なんだよ?他人を殺そうとNPCを殺そうと許される。そんな世界で他人を蹴ったからって理由でBAN(バン)されることはないだろ。もし蹴られるのが嫌ならこの世界に足を踏み入れなければいい、それだけの話なのさ」

「おいルネ、BANってなんだよ?聞いたことないぞ、そんなもの」

「BANは簡単に言えばこの世界から強制的に隔絶させられ、二度とこの世界に入ることはできなくさせるシステムのことだよ」

 そうなると奴の言うっていることには確かに反論する余地は無い。ルネもその言葉には否定するところを見失っている。ゴットフリートにとって、プレイヤーにとって倫理も何も強者とっては関係ない。この世界ではいつだって強さだけが正義なんだと。

 だがそれは許されているのではない。

「ほらお前らいつまでも寝っ転がってないで仕事しろよ。まだ十人以上いるんだから最低限俺がこのNPCぶっ殺すまでは凌げるよな」

 プレイヤー達はよろめきながらも立ち上がり、再び武器を持つ手に力を籠める。

「あーあ、ガチでこっちの方に来るとなぜか上手くいかないんだよなぁ……前はいつだっけな確かこの辺の村を潰しに来たのにるし、はぁ……」


 ……おい、今なんて言った。

「……アンディ、今の聞いた?」

 俺は無言で頷く。ゴットフリートは今、前にここに来た時NPCが数人逃げたと言った。

 そんなことをするNPCに俺は心当たりしかない。俺達だ。

 倒れているプレイヤーを叩き起こしているゴットフリートに向かって言う。

「ゴットフリート……勘違いすんじゃねぇぞ。お前らは何も許されてるわけじゃねぇんだよ。まだ見逃されてただけだ。だがなその逃避行もここで終わりだ」

「ちょっとアンディ君、あいつとやるって本気⁉あいつクラスはまだ力天級だけど、実力は熾天級だよ!」

「分かっている。だから一人じゃない」

 俺は前に出てきたテイラーと目を合わせる。これは五年前と決着を付けるため、俺達には早かれ遅かれ必要なことだったんだ。

 ゴットフリートは俺らの敵だ。奴はNPCを唯一つの命を持つ人間と思っていない。

 確かにそこにはゴットフリートなりの意思というものがあるのだろう。だが、意思を制限されたもの達を一方的にその尊厳を踏みにじることは俺らが許さない。

「君らがそこまで言うなら分かったよ。でも決して無茶はしないで。ってうお!今、僕話してたよね⁉」

 俺らと話す隙を好機と見た敵のプレイヤー達は一斉にルネに攻撃を始めるとルネは激怒していた。

「君らさぁ、人が喋ってる時に攻撃してくるのは殺人、食人、近親相姦に並ぶ人類の御法度だって知ってる?」

 確かにルネと俺達は話をしていたし、そのまま攻撃をしてこないでいてくれればこれ以上ないほど有り難いことなのだが、これルネの逆ギレだよね。

 ルネの方は多分もうこの数なら心配は要らないだろう。問題はゴットフリートだ。防戦で攻撃を凌ごうにも遠距離からの銃撃は間違いなく不利だ。それにここはだだっ広い草原隠れ蓑にするものも何もない。ここは森に逃げ込むのが最善だな。

「テイラー!煙幕を張ったらついて来い!」

「うん、分かった!模擬魔法・デュアルヒート!」

 テイラーの魔法は想定通り地面にぶつかり大きな音共に黒煙を巻き上げる。

 俺達はその煙に乗じるようにして森の中へと駆け込む。

「お前ら!そこのゴミを逃すんじゃねぇ!」

 俺達を森へと逃がさない為にゴットフリートも追っ手を差し向けるように誘導する。

 追っては二人。ブレーダーが一人とランサー一人だ。間違いなくこのままだと追いつかれる。数的には同数だが間違いなく戦力はこっちが下。どうする……考えろ、考えるんだ!

「お前ら、僕を無視するとは酷いなぁ~。もうちょっと構ってくれよ」

 へぇ、ルネもそんな声出せるんだな。いつもなら女の子らしい声で話すルネが急にドスの聞いた声を出すといつもとのギャップがあって男からしても惚れそうだぜ。なんてテイラーに聞かれたら引かれるか、怒られるかのどちらかなので黙っておこう。


 木々の間を抜け、俺達は森の奥へ奥へと走り続けていく。

「うわっ!」

 俺が後ろを振り向くとテイラーが木の根に足を取られて転んでいた。

「テイラー、大丈夫か!」

「はぁはぁ、うん、大丈夫」

怪我はしていないようだが、テイラーの息が上がっている。テイラーの魔力の方が尽きかけているのかもしれない。

どちらにしてもテイラーがここから先の戦闘に耐えるのは厳しいだろう。

「おーい、お前らはよ出てこいや。こっちだってお前らやるのに時間掛けたくないんだよ」

ゴットフリートは既に声が普通に聞こえる程近くにいる。

「テイラーここで別れるぞ」

「何言ってるの?そんなことしたら——」

「違う。いいかテイラー、俺が引き付けている間にお前はここから離れろ。それでお前は俺をいつでも見えるような位置で待機してくれ」

 テイラーが頷くのを見てから俺は耳を澄ませる。

ゴットフリートの足音が森の木々に反響して聞こえる。その音から推察するに距離が八メートル、七メートルと近づいてきているのが分かる。

 そしてゴットフリートとの間合いが三メートルに入った瞬間、俺はゴットフリートの懐まで駆け抜ける。発見から反応までの速度はおよそ0.2秒、銃口を向けて撃ちだすまでに0.2秒。これだけあれば俺のスピードでゼロ距離に持ち込める。

 俺はゴットフリートの装備に覆われていない喉元を狙ってナイフを振るう。

「うおっと!」

 ゴットフリートは突然の奇襲を銃で受け止め、素っ頓狂な声を上げながらも俺から距離を取ろうと後ろへ退いた。当然だが俺とてゴットフリートにこのまま距離を渡してやるつもりは毛頭無い。

俺は再び距離を詰め、攻撃を仕掛ける。

「ちっ、面倒臭い奴だな。氷魔法・第一の獄『頞部陀(あぶだ)』!」

 ゴットフリートが魔法を詠唱する突如視界が霧に包まれる。

 っていうか寒っ⁉今は季節は夏なはずなのに冬でも滅多に感じられないほどの寒さで、足の感覚も無くなりそうだ。

 霧が薄まってくると次第に周りが見えるようになってきたので、直ぐにこの場から離れようとするが足が動かない。

 俺は視線を足元に落とすと草木は凍り、俺の足は凍りに覆われていた。

「これが氷魔法・第一の獄『頞部陀』の能力。広範囲を超低温の冷気で覆いつくすことでお前らの行動を奪うって魔法さ。若干魔力の消費がデカいのが玉に傷だがな」

 そう言ってゴットフリートは近づいてくると、そのまま俺の鳩尾に向かって蹴りを放つ。

 ゴットフリートの蹴りを直撃した俺はそのまま数十メートルもの距離を転がりながら飛ばされる。

鳩尾に重い一撃を喰らったせいで一瞬呼吸が止まる。やっとの思いで息を取り戻したときには目の前にゴットフリートは立っていた。次の瞬間再び俺は蹴られ冷たい地面を転がらされる。

何とか立ち上がって、ゴボッっと俺は咳込むと血を吐いた。分かっていたが内臓にもかなりのダメージが入ってるな。

「おいガキ、お前はなんでルネと一緒にいるんだ?あの人はお前のような雑魚と一緒にいていい存在じゃないのに」

「そりゃ唯あいつと、いやあいつらと一緒にいるのが楽しいからに決まってるからだろ」

 そう言うとゴットフリートはポカーンと呆気にとられたような顔をした。

 え、俺なんか変なこと言ったかな?

「……こんなやつと一緒にいるとか、マジでルネのやつ正気かよ……」

 ゴットフリートは肩を震わせながら何かを一人で呟きながら俺を睨みつける。

「そうだあともう一つ訊くが、お前達はNPCでありながら今の行動は己の意思ってやつで動いてんのか?」

「ああ、よく気付いたな。これでこの世界で二人目だよ。俺らの正体に気づいたプレイヤーは」

「あの人の横をお前みたいな雑魚があの人の側に立つなんて烏滸がましいにもほどがある。あの人の横は俺が立つべきなんだ!」

異常とも思える執着心。

ゴットフリートのルネに対する態度とそれ以外の者の態度は明らかに違う。

「おい、二つ訊かれたから二つ訊くがお前、ルネにだけ扱いが丁寧じゃないか?」

「はぁ?お前はあの人がどれだけ凄い人なのか知らないんだな。あの人は『センキ』の二つ名を冠しているんだぞ。その名の由来は色々あるが有名なのは近接武器持ちを千人組手でほぼ無傷で敵を全て倒した時に着けられたって言われているんだ。そんな人がこんな山奥でこそこそしてちゃ勿体無い。オレ達にはルネが必要なんだ!」

ルネは確かにとてつもない強さなことは端から承知していた。

それにしてもゴットフリートのルネに対する執着心は異常だ。

それにルネが必要とはどういうことだ。

「お前は何故そこまで俺達を狙うんだ?」

「そりゃお前らがNPCだからに決まってるだろ。NPCは魔獣やプレイヤー以上に大量の経験値を与えてくれる。しかも自分の意思を持った超激レアなNPCときたんだからもっと経験値が貰えるかもしれない。それを、見す見す逃すほどオレは馬鹿じゃない」

ゴットフリートは再び銃口を俺に向け、トリガーへと指を回す。

「魔銃インテグラル・ブラスター《能力開放——無限超炸裂弾(インフィニット・ディフュージョン)》」

 俺はゴットフリートのショットガンの射角から逃れる為に右へと大きく跳ぶ。

 パァァンッ‼と大きな銃声と共に銃弾が飛び出す。

 銃口と俺の体は向き合っていない。いくら拡散するショットガンと言えどここに当たるわけはないと俺は高を括っていた。

 ——ビシビシッ!という音が体に響く。

 無意識に右足を抑えた手は真っ赤に濡れている。

 そこで俺は初めて被弾したということに気づいた。

「うぐっ……!」

 数瞬遅れて痛みが広がる。

 足から自分の命が出ていくのが分かる。

「くそ、やっぱ外れたか。最近ラギいんだよなぁ……」

 ゴットフリートは恨みがましい目で俺を睨みつけるが、その隙に俺はこの場所から宵闇広がる森の中へと逃げる。

すぐにゴットフリートは俺に向けて発砲するがそれは当たらない。

そして一つ分かったことがある。どうやら無限超炸裂弾は速射できず、一発一発能力開放を行わなければならないらしい。

 後ろをちらりと見るとゴットフリートはこちらへ歩きながらリロードをしていた。

 走り続けていると一発、二発と銃声がする、がそれらの銃弾は俺の位置とは大きくかけ離れたところに着弾する。

 ゴットフリートの視界から俺の足取りは追えていないのだろう。

 再び森の中を二度も銃声が走る。そしてその三発目が俺の足元近くに着弾する。

(このまま逃げ続けてもジリ貧確定だな)

 俺は即座に近くの木の裏に身を隠し、息を整える。

 出血は——なかなかに多いな。あまり長期戦はできないな。

「お、足音が途絶えたな。鬼ごっこは終わりか?」

カチャリという音がする。再びリロードか?

 となるとあのショットガン、最大装弾数は四発か。

 俺はまずゴットフリートの死角になっている樹木の裏から上に向かって自分の拳程度の大きさの石を上へと投げる。投げた石は木を越え、それはゴットフリートの頭上をも越え、奴の後ろに落ちた。

 パァァン‼

 まずは一発。

その後すぐに俺は近くに落ちている枝を木の裏から投げると、我ながら見事な放物線を描く。

 その枝が向かいの木に当たると、その音に気付いたゴットフリートは振り返り様に枝を撃ち落とした。

 残り二発。

 俺は自分の服の裾をわずかにゴットフリートの視界に入るように死角の外に出す。

 更に銃声が響く。残り一発。俺はずっと忍ばせていたもう一枚のピックナイフを取り出し奴に向かって飛ばす。

 最後の銃弾が発射された。

 俺は全速力でゴットフリートへと走り出す。奴の銃に弾はもう籠っていない。

 そう俺が確信していると、どうしてかゴットフリートはリロードすることなく銃を構え、不敵に笑った。

「バーカ!お前は盛大に勘違いをしたんだ!俺の銃の装弾数が四発なんて誰が言ったよ。戦いはいつだって情報戦。嘘を相手に掴ませるなんて当然だろ?」

 全身の血の気が引くような感覚が俺を襲った。

 しまった。よく考えてみれば思い当たる点がいくつもある。今さっきでさえ、あいつはこんなにも簡単に四発を撃ち切っていた。

「《能力開放——無限超炸裂弾》」

 俺は奴の射角から逃れようとするが、間に合わない。

 破裂するような音と共に俺は——アンドリュー・アインザックは死んだのだ。

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